66 ジャン・ドゥービー
「ふはははははははは。我が名はジャン・ドゥービー! 至高なるアンデッドの主なり!」
と叫んだのは、ちょっと近づき難い雰囲気の怪しい人物だった。何か事件が起きたら、真っ先に疑われるのは間違いないくらい怪しい。
名称:ジャン・ドゥービー 年齢:49歳
種族:魔族
職業:冥導師
状態:平常
ステータス レベル:45
HP:180 MP:616 腕力:91 体力:93 敏捷:119 知力:179 魔力:226 器用:123
スキル
暗黒耐性:Lv6、詠唱短縮:Lv4、鑑定:Lv8、気配遮断:LvMax、眷属召喚:Lv8、杖術:Lv4、死霊操作:Lv8、死霊魔術:LvMax、短剣術:Lv2、調合:Lv7、毒耐性:Lv3、毒知識:Lv7、火魔術:Lv3、冥府魔術:Lv5、薬草知識:Lv4、闇魔術:Lv5、気配完全遮断、死霊狂暴化、死霊の友、魔力操作、魔力中上昇
ユニークスキル
魂魄眼
称号
暗殺の天稟、アンデッド・クリエイター、殺戮者、死霊術師、死霊の王
装備
竜骨の杖、死霊王の端切れのローブ、悪魔の靴、死の腕輪、身代りの腕輪
気配完全遮断か。このせいで気配察知にも引っかからなかったんだろう。
にしても、強いな。肉体ステータスは低いが、魔力やスキルは相当なものだ。もっとレベルが上がれば、ギルマスのクリムトともいい勝負かも知れない。
それにこいつは死霊術師。気配完全遮断で姿を隠し、アンデッドたちに戦わせれば、格上相手でも戦えるだろう。できれば敵対はしたくないな。
「もしかして、魔族の方ですかね?」
アーゲンが恐る恐る声をかける。
「ほほう? 分かるかね?」
「ええ、ローブの上からでも角があるのが分かりますし、その爪と牙。あと、肌が白いというのも魔族の特徴だったと」
「貴様、中々勉強しているではないか! そうだ。我は魔族である」
「いやー、この辺で見かけるのは珍しいので驚きだな~」
「この大陸に我ら魔族はあまり多くないからな。それも、東に偏っている故に」
魔族は人類の一種だったのか。いや、ちょっと気になったんだよね。でも、死霊魔術みたいに俺の常識がおかしいかもしれんし。案の定、魔族は別に人類の敵とかそういう種族ではなかったみたいだな。
「で、君らはどこの誰かね? ベルナルドが連れてきたようだが?」
「はイ、しょうしょうモんだいがございマしテ」
「ふむ? まあよい。とりあえず我が研究所で話を聞こうか。付いてきたまえ」
「ミナさマ、どうぞこちらヘ」
研究所って、あのボロ小屋か? どうしよう。敵じゃないとは思うけど……。
もうフランたちは後をついて歩き出してるし。俺が注意を払っておこう。
『ウルシ。お前も気を抜くなよ?』
(オン!)
「はっはっは。我が深淵なる闇と死の研究所へようこそ」
一々仰々しいな。しかし研究所か。もしかしたらボロっちい外見は偽装で、中は魔導の粋を集めた最先端の――とかはなかった。
思ってたよりも広いが、それくらいだ。あとは普通に生活感丸出しの山小屋だった。
「研究所?」
フランも同じ疑問を持ったようだな。
「はっはっは。我が実験は危険を伴う事も多いのでな、周辺に被害が及ばぬよう、研究所の本体は地下にあるのだよ。見たいかね? ふふふ、好奇心は竜をも殺すと言っておこう。くっくっく」
なるほど。確かに、地下から魔力が感じられるな。ジャンが言っていることは本当だろう。見たいような、見たくないような……。死霊術師の研究所だからな。屠殺場も真っ青な光景が広がっているに違いない。あと、一々ウザい!
「そちゃですガ」
ベルナルドがお盆に乗せたティーカップをテーブルに並べていく。いつの間にかエプロン着用で、本当に人間臭いな。
「ありがとう?」
うわー。毒々しいな。ティーカップの中には、赤紫色をしたドロドロの液体が入っている。粗茶? というか、毒にしか見えないんだが。だが、家主であるジャンがサッとカップを取ると、一気に飲み下した。
「うむ、この馥郁たる香り。複雑なる妙味。最高であるな」
本当か? まあ、危機察知も反応してないし、大丈夫かな? 状態異常耐性だってあるし。
「……けっこうなお手前で」
謎のお茶を一口飲んだフランが、そっとカップをテーブルに戻した。あとで口直しを食べさせてやるからな。
「それで、ベルナルド、何があったのだ?」
「じつはですネ――」
ベルナルドがジャンに事の経緯を説明する。うわー、ジャンがこっちを見てるよ。
「そうか。死霊草は足りんか」
「これは使えない?」
死霊草を取り出すが、ジャンはすぐに首を振った。
「ダメだな。生者が1度でも触れた死霊草は、その生気が不純物として混ざりこんでしまう。普通に加工する分には何ら問題ないが、我が目的にはこれでは不足なのだ」
ダメか。
「まあ、仕方がない。あの場所は我が土地であるわけでもないしな。看板などを立てていたわけでもない」
「そう言っていただけると助かりますね」
「君らが摘んでしまった死霊草も、そのまま進呈しようではないか」
「本当ですか?」
「本当だ……。だが!」
「う」
ジャンが急にでかい声を上げて、ニヤリと微笑んだ。こら、フランも驚いてるじゃないか! なんか、こいつの行動は予測がしづらいんだよな。
「一応、我が育てたことは確かだったわけだ?」
「ん」
「まさか、詫びも無しという事はあるまい。無論、ただ頭を下げろと言っているわけでもないぞ?」
あー、やっぱこういう展開? さて、何を要求されるか。金? それとも薬や術の実験台とか? 場合によっては、戦う事も考えねば。
フランとアーゲンはやや居住まいを正して、ジャンを見つめる。緊張に包まれる研究所。
「こちらの少女には、1つ依頼を受けてもらおうか?」
「依頼?」
「うむ。無論、報酬を払おう。そうだな、成功報酬で20万ゴルド。どうだね?」
「内容による」
「無論、強制ではないよ? 嫌々やられても、迷惑なだけだからな」
「あの、フラン嬢ちゃんには、ということは、俺はどうなるんで?」
「君はいらんな」
「いらんですか……」
「うむ。足手まといだしな」
「そ、そうですか」
「なので、君は帰りたまえ。居座られても邪魔だしな」
まあ、アーゲンが帰った方が都合がいいかな? もしジャンとやり合う羽目になった場合、足手まといはいない方が都合が良いし。
「アーゲン、ばいばい」
「嬢ちゃんまで! はぁ、分かりました。俺はここで失礼しますよ。ただ、1つお願いが」
「なんだね?」
「彼女はこれでも冒険者なんでね。依頼はギルドへの正式な依頼とさせてください」
「ふふふ。良かろう。いざと言う時は、ギルドが敵に回るということだね?」
「まあ、そうですね」
ほう。アーゲン君。良い手を打ってくれるじゃないか。これで、ジャンはフランを無下に扱えない。
「承知しているさ。我とて冒険者だからな」
え? マジで? 全然見えないんだけど。この人が自分の足で山やダンジョンを歩く姿が想像できない。
「そうなんですか?」
「ほんと?」
「うむ。ランクB冒険者である!」
そう言って懐から取り出したのは、銀色のギルドカードだった。確かに、ランクB冒険者であるようだった。大先輩じゃないか!
「では、お嬢ちゃんをよろしくお願いしますよ?」
アーゲンはそう言って去っていった。それでも、死霊草を定期的に卸してもらう約束をしていくあたり、強かだね。
「さて、本題に移る前に……」
「ん?」
「邪魔者はいなくなったぞ?」
む。なんだその邪悪にしか見えない笑みは! いきなり本性を現したのか? 危機察知は全然働いてないんだが!
「その剣」
俺を指差している。もしかして、狙いは俺か? 魔剣を差し出せとでも言うつもりなのか?
「もう、喋っても構わんよ?」
「!」
「くくく、分かっているのだよ。その剣に魂が宿っているということも! 念話で話すことができるという事もな! さあ、本性を見せるが良い! くぁはははははは――!」




