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676 雑用係、3食賄い付き


 コルベルトを調理場に招き入れると、彼は驚いた顔をしている。


「孤児院のイオ殿か? なんでここに?」

「2人は知り合い?」

「えーっと、どちら様でしょうか?」


 コルベルトはイオさんを知っているようだが、イオさんはコルベルトを知らないらしい。困った顔で首を傾げている。


「おっと、失礼しました。あなたのスープはバルボラでも有名なので、俺が一方的に見知っているだけです。もちろん、毎年買わせていただいてますよ!」

「え? あの、その、ありがとうございます?」


 なるほどね。料理好きで料理人を尊敬しているコルベルトなら、イオさんのことは当然知っているか。敬語になってるしな。


「ああ、俺はランクB冒険者のコルベルトといいます」

「ええぇぇ? ラ、ランクB?」


 コルベルトの自己紹介を聞いて、イオさんが驚きの声を上げた。悲鳴にすら聞こえる。


 俺たちの感覚が鈍っていたが、ランクB冒険者は一般人からしたらかなりの大物だ。英雄とまでは行かないし、貴族とはまた扱いが違うが、遥かに格上の存在と認識されているだろう。


 突然名乗られたら、驚くのも無理はなかった。


「あ、ああ。でも。そこのフランもランクB冒険者ですよ?」

「うぇぇ?」


 そういえば以前はランクDって名乗ってたか? その後、あえてランクは伝えてなかったかもしれない。


「フ、フランさん?」

「ん。ほんと」

「はえぇぇぇ!」


 フランが頷くと、イオさんが素っ頓狂な声を上げた。


「だって、前は……。ええ?」

「気にしないで」

「そうそう。それに、俺はあなたの方が凄いと思いますよ?」

「うぇ? いえいえ、そんな……」


 イオさんは頭を下げるコルベルトに恐縮している。ランクB冒険者に畏まられて、困惑しているんだろう。完全に困り顔だ。


「いやいや、こちらこそ――」

「いえいえ――」


 互いに頭を下げ合っている。


『このままだと話が進まんぞ』

「ん。ねえ、コルベルトはどうしてここにきた? 顔見にきただけ?」

「いや、今回も手伝いをさせてもらおうと思ってな。どうだ? なんでもやるぞ?」


 そう言いつつも、どこか期待に満ちた表情である。俺はこの表情に見覚えがあった。フランがカレーをおねだりする時の表情だ。まあ、可愛げは全くないが。


 多分、賄い目当てなのだろう。前回の料理コンテストの時も同じだったのだ。


「……手伝わせてあげてもいいよ」

「本当か!」

「ん。雑用係が欲しかった」

「それでいい!」


 フランもコルベルトの目的が金銭ではないと分かっているからの強気発言だが、普通に考えたら逆だろう。


「え? え?」


 イオさんがまた混乱している。まあ、どう考えてもおかしいのだ。ランクB冒険者であるコルベルトを雑用で雇うなど、普通では考えられない。高位冒険者の超絶無駄遣いと言えるだろう。


 しかし、フランとコルベルトのあべこべ会話は続く。


「報酬は賄い3食で」

「やった! それでお願いします! フランの料理の腕も凄いからな! 期待してるぞ!」

「ん。新作料理を用意する」

「ま、まじか!」

「だから頑張って働く」

「おう!」

「え、ええぇぇ?」


 料理の腕の非常識さ以外は常識人のイオさんが、混乱し過ぎて「えええ」しか言わなくなってしまった。


「大丈夫?」

「は、はいぃ」

「疲れたなら、休憩していいよ?」

「わかりました。す、少し休憩してきますぅ」


 イオさんがフラフラとした足取りで調理場から出ていく。驚き疲れたんだろう。


 それを見送ったフランが、再び口を開く。


「あと、聞きたいことがある」

「なんだ? なんでも聞いてくれていいぞ!」

「デミトリスについて教えてほしい」


 フランの口から自分の師匠の名前が出ると、コルベルトがやや居住まいを正した。


「興味があるのか?」

「依頼で、デミトリスに会わなきゃいけない」

「ほほう。つまり、居場所が知りたいと? 確実に会いたいなら、ウルムットだと思うぞ」


 ウルムットの武闘大会には、毎年ランクS冒険者のデミトリスがゲストとして招かれているのだという。


 ただ、去年はデミトリスの方に用事があってウルムットに来ることができず、代わりに獣王が主賓として招待されたそうだ。ちょうどクランゼル王国を訪問することが決まっていた期間だったらしい。


「獣王殿が大会運営用に魔道具などを貸し出したのも、多分デミトリス師匠に対する対抗心とかじゃないかと思う」

「仲悪いの?」

「いや、そうじゃない。ただ、代わりに招かれていて、何もなしでは面子が立たないとでも思ったんじゃないかね? あの方は冒険者であり、王でもあるからな」


 政治的な面で、同じランクS冒険者のデミトリスに張り合った結果、準々決勝で使用された魔道具、時の揺り籠を提供したってことか。


 まあ、派手好きっぽかったし、王族としても面子は重要ってことなんだろう。


「ウルムットに来るのは知ってる」

「じゃあ、何が知りたい?」

「好きなものとか」

「ああ、そういうことか」

「人となりも」


 デミトリスとの接触で、粗相をしたくはないのだ。ランクSを怒らせたくないという意味でもそうだし、依頼を達成するためにも、ぜひ有用な情報が欲しい。


「そうだな……師匠を簡単に表すならば……」

「あらわすならば?」

「厳格、苛烈、偏屈。そんなところかな?」


 少なくとも、とっつきやすくはなさそうだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 非常識を除いて、それを常識人と言い張る勇気にワロタ
[一言] まぁ、フランの可愛さならイチコロでしょう^ - ^
[良い点] え、なんかイオさんとコルベルトがくっつきそうに見えたのは 俺の頭が恋愛脳なせいかな? [気になる点] 戦えない人間は、戦って皆を守れる人間を尊敬する。 料理が上手い人は、食べた人全てを幸せ…
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