674 Side とある3人組
Side とある3人組
「姉御。アレがバルボラですかい?」
「ああ、そうだ。あの規模の港はそうそうない。間違いないだろう」
「ようやっと到着ですか! いやー、船旅がこんなに暇なもんだとは……」
「最初はスゲースゲーと連呼しながら、はしゃいでいたのはあなたではなくて? ビスコット」
「クリッカ、お前も甲板に上がってきたのか。そりゃあ、最初は物珍しかったが、ああも同じ景色が続くとよぉ……。シビュラの姉御もそう思うでしょ?」
「私は悪かなかったよ? 海の魔獣もそこそこ歯ごたえがあったしねぇ」
「あー、ダメだ。戦っていられりゃ満足な姉御に聞いた俺が馬鹿だった」
「あん?」
「な、なんでもないっすよ! でも、クランゼルに入るだけだったら、最初に寄ったダーズって港町でも良かったんじゃないですかい? わざわざこんな南の町に来んでも……」
「ダメですわ。現状、国境付近はかなり警戒が厳しすぎますもの。下手な騒ぎは起こしたくはないですし」
「突破しちまえばいいんじゃねーの?」
「お馬鹿! まったく、これだからあなたはビスコットなんですわ!」
「お、俺の名前が馬鹿の代表みたいに使われてる!」
「いいですか? 国と違って、外では補給も援軍もないのですよ? 追われても逃げ込む場所もない。騒ぎを起こしたらすぐに身動きが取れなくなりますわよ?」
「そうか?」
「そうですわ。そもそも、相手の戦力も分かりませんし」
「戦力? 外の奴らなんざ、大したことないだろ?」
「ビスコット」
「! へ、へい。なんですかい姉御?」
「外の奴らを見下すのは別にいい。うちの国の習性みたいなもんだからな。治らんだろ。だが、見たこともないはずの相手の実力を過小評価するのはやめろ。上層部の馬鹿どもと同じことをするつもりか?」
「す、すいやせん」
「だいたい、これからそれを確かめにいくんだろう? 外の奴らが本当に雑魚なのか? それとも、違うのか」
「うす」
「だいたい、あの辺りにはフィリアース王国の悪魔騎士が展開していますわ」
「あー、あれは厄介だよな~。なるほど、そりゃ迂闊に動けん」
「ふん、分かればよろしいのですわ。さて、シビュラ団長――いえ、シビュラ様。外の者たち。特に冒険者の実力を測るにはいくつか方法がございますわ」
「へぇ? どんな方法だ? 私の頭じゃ、適当に因縁つけてやり合うくらいしか思いつかないんだが」
「絶対にやめてくださいまし。一応我々は旅の傭兵という扱いになっております。身分の保証は実家の伝手を使い、傘下のモーリー商会に頼んでおりますわ。でも、私たちが下手をうてば、長い時間をかけてクランゼル王国で実績を積んできたその商会の信用が一気に失墜いたします。我が国にとっても、この商会が立ち行かなくなることは、大きな損失でございますわ」
「そりゃそうか。外貨獲得に情報収集、こういった場合の潜入工作と、色々と使いようはあるからねぇ」
「分かっていただけたようですね。それに、モーリー商会は外での活動が多い故に、我々よりも国への忠誠は薄いでしょうから。最悪、我々が切り捨てられるかもしれませんわ」
「おいおい、クリッカ。そんな奴らに頼って大丈夫なのか? 俺は、可愛いメイドさんにグッサリなんて嫌だぜ?」
「我々が彼らに不利益を与えるようなことをしなければ問題ありませんわ。それに、この船の戦力程度であれば、我ら3人で簡単に制圧できますし」
「そりゃあ、そうだがよう……」
「あなたはお馬鹿なんだから、私たちの指示に従っておけばいいのですわ」
「ぐぅ」
「ビスコット、黙ってな」
「へい……」
「で、冒険者の実力を見るには、いくつか方法があるって話だったね?」
「はい。まずはオーソドックスに、依頼を出す方法。我々の護衛でもさせれば、間近で仕事ぶりを見られるでしょう。まあ、問題もございますが」
「何が問題なんだい?」
「相手の実力がある程度高かった場合、私たちの実力を見抜かれる恐れがあります。私たちレベルの人間が護衛を頼むことに、疑問を持たれる可能性が高いでしょう」
「なるほどね」
「やや迂遠ではありますが、町などで売られている魔獣肉や薬草類。武具の質をチェックする方法もありますわ。直接実力を確認することはできませんが、全体の実力を測る指標くらいにはなるでしょう。幸い、これから向かうのは大都市バルボラ。調査するには向いている場所ですし」
「納得はできるが、自分で調査するのは勘弁願いたいねぇ」
「俺もですよ。だったら、そこらにいる冒険者を闇討ちでもする方が楽でいい」
「だから、そういった行動はダメだと言っているでしょう! まあ、私も、シビュラ様とバカコットにそれができるとは思っておりませんので。とりあえず提案してみただけですわ」
「面倒な調査をやらないですむなら、バカでももういい」
「調査は私にお任せを」
「頼んだよ。で、クリッカ。他には? お前の口ぶりだと、他にも案があるんだろ?」
「次が本命ですわ。もう少しすると、ウルムットという都市で武闘大会があるそうです」
「武闘大会? ほほう。そりゃあ面白そうだ! 強いやつも出るんだろ?」
「その大会には有名な冒険者も多数出場するそうですから、観戦すれば実力もよく分かるでしょう」
「観戦? 見てるだけで、出場しないっていうのかい?」
「勘弁してくださいまし。私たちの素性がばれたら、タダではすみませんわ。あまり目立つことは控えませんと」
「ちっ……」
「あからさまに舌打ちしないでくださいませ。とにかく、我らと違ってシビュラ様は目立ちます。出場などしたら、絶対にその素性を探られますわ。下手に優勝なんぞしたら、どうなることか……。わざと負けるのはお嫌でしょう?」
「はぁ……。今回は観るだけで満足しておくか」
「そうしてくださいませ」
「となると、バルボラで軽く骨休めしつつ、その後はウルムットの武闘大会を見にいくって流れでいいんだね?」
「お二人はそう思っていていただければよろしいかと。細かい手配は私が行いますので」
「うん。よろしく頼むよ」
「へへ、バルボラって町でしばらく逗留ですかい? いい酒があるといんですがね」
「私は、なまらない程度にゴロツキでもいてくれると嬉しいねぇ」
「……くれぐれも、騒ぎはおこさないでくださいましね?」
 




