654 精霊察知の使い方
『精霊の手の力を使えば、レーンもウィーナレーンも助けることができるのか?』
「ええ」
『具体的な方法は?』
得たばかりの精霊の手というスキル。正直まだ一度も使っていないので、使用感さえ分かっていない。
攻撃力があるようなスキルなのか? それに、負担がかかるということは、消耗の大きいスキルなのだろう。
だが、レーンたちを救えるというのであれば、多少の無理はする価値がある。
「どうすればいい?」
「精霊の手を使って、私とウィーナの間にある縁を断ち切る。そうすれば、ウィーナとレーンは勝手に分離する」
「縁?」
「ウィーナとレーンを一つの存在と定義している繋がり。ウィーナとレーンをウィーナレーンにしてしまった、原因そのもの」
「?」
フランが首を傾げた。
その縁とやらが、全く見えないのだ。魔力をどれだけ探っても、何もわからない。見えないものを断ち切れと言われても……。
「それはどこにある?」
「目には見えないでしょう。でも、精霊察知があれば、感じることができるはず」
『なるほど』
精霊察知か。やはり、魔術的な繋がりではなく、精霊特有の何かなのだろう。
(師匠?)
『ああ、分かってる』
俺は、精霊察知に集中した。
周囲の気配を探ると、精霊であるレーンの存在を僅かに感じ取ることはできる。
しかし、縁とやらが全くわからない。
『その縁っていうのは、レーンとウィーナレーンの間にあるんだよな?』
(ええ、そうよ)
レーンが頷く。やはり、そこにあるものであるらしい……。
『……うーむ』
残念ながら、何も感じない。
これは、いっそのことレーンに指示してもらって、精霊の手を適当に発動するんじゃダメなのか?
この辺だと示してもらい、そこを精霊の手で切る感じだ。
だが、レーンは首を振る。
(普段ならそれでいいのでしょうね)
『普段なら?』
(精霊の手は、消耗が激しいスキル。しかも、私とウィーナの縁を切るには、相当な抵抗があるはず。剣さんの今の状態では、絶対に途中で限界が来る)
つまり、精霊の手をなんとなく発動して、適当にぶん回すような使い方では、魔力の消費が追い付かないってことだろう。
消耗しきった今の俺では、確実にガス欠になりそうだ。
『分かった』
結局のところ、精霊察知を頑張りましょうってことか。
俺は全てのスキルを閉じ、完全に精霊察知に集中することにした。周囲の気配などが全て消え、完全に無の世界に没入した俺は、ただただ精霊の気配だけを探る。
まずはレーンの気配がより強く感じられた。
漠然としたものではなく、精霊というモノを初めてちゃんと感じられた気がする。
これが精霊か。
そう感じた瞬間、レーンとウィーナレーンの間に、何かがあるように思えた。
もしかして、これか?
俺は、僅かに感じた違和感に従い、さらに神経を集中する。
研ぎ澄まされた俺の感覚が、確かにそこにあるナニかを捉えた。
簡単に言ってしまえば、絡みあった頑丈そうな紐だろうか? 互いからピーンと伸びた一本の太い紐が途中で複雑に絡み合い、結びつき合っている。
その結び目は、幼い子供が適当に何度も絡ませ、固結びを何度も行い、さらにメチャクチャに紐を通しまくったような感じだった。
特にウィーナレーン側から伸びている紐の形が歪過ぎる。まるで、レーンから伸びた糸を、自分の糸で飲み込もうとしているかのようだった。
『見えた。これが縁って奴か?』
《精霊察知が、反応を示しています。レーンに提供された情報からも、これが縁と呼ばれる結合状態の要である確率、96%》
『なら、あれを精霊の手で切ればいいのか?』
まだ一度も発動していない能力だが、上手くやれるだろうか?
だが、アナウンスさんが、俺の言葉を否定する。
《否。現状の個体名・師匠の魔力では、精霊の手を十分に発動できません》
『そんなに消耗するのか?』
《是。ユニークスキルとしても、上位の消費でしょう》
それは困ったな。
『魔力を回復させるにも、手段がな……』
魔石もポーションも、もうない。あとは魔力強奪などの手段だが、周囲には俺たち並みに消耗したウィーナレーンやレーン、シエラたちしかいない。そこから魔力を奪ったら、最悪の事態もあり得た。
この中で元気なのは、ウルシとゼロスリードくらいだろう。
いや、この2人から魔力を供給してもらえば、なんとかなるのか?
『どうだ? アナウンスさん』
《是。十分な魔力が確保できると考えられます》
『よし』
これで、なんとかレーンたちを救う目途が立ったな。
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