表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
650/1337

648 ウルシの奥の手


 魔力弾の嵐を強引に突破したウルシを見て、驚きの声を上げるゼライセ。


 とは言え、その動きが止まるようなことはない。


 咄嗟に魔剣を振り上げたゼライセは、第二波を放とうとする。さらに、懐から大きな魔石を取り出して、ニヤリと笑った。


 内包された膨大な魔力と、ガンガンと警鐘を鳴らす危機察知スキルから考えるに、余程凶悪な魔石兵器なのだろう。


 奴らの目論見としては、魔力弾でウルシの動きを止め、魔石兵器で止める。そんなところだろうか。


 だが、ウルシを舐め過ぎだ。ウルシは俺たちの添え物じゃない。新たな進化にまで辿り着いてみせた、俺たちの頼りになる相棒なのだ。


「ガアアアア!」

「!」


 ウルシが一気に加速した。


 そう、全速力で逃げていると見せかけて、実は僅かに加減していたのである。これは手を抜いていたわけではなく、背のフランを慮ってのことである。


 しかし、そのおかげでゼライセの裏をかくことができていた。想像以上の速度で急激に接近してきたウルシに、焦った顔を見せている。


 フランは急加速に苦しい顔をしているが、声一つあげない。ウルシも、背の主が苦しんでいるのを分かりつつも、速度を落とすことはしなかった。


 それもこれも、この一噛みのためである。


「それでもおぉぉ!」


 魔剣ゼライセが横に振るわれ、魔力弾がばら撒かれる。溜めが不十分なせいで先程よりも威力が弱いが、その分密集して放たれていた。


 ゼライセの表情が僅かに余裕を取り戻したのが分かる。


 確かに、この攻撃の威力は凄まじい。直撃すれば、脅威度Cの魔獣でも消滅するだろう。


 だが、ウルシをこの程度で倒しきれると思っているのか? 修行を経て、より強くなっているのだ。


「グルォッ!」


 ウルシが、自身の奥の手を発動した。


 レベル7暗黒魔術ダーク・エンブレイス。本来は暗黒を全身に纏うことで、防御力と身体性能を上げる術である。


 だが、ウルシは修業の結果、この術を自分なりにアレンジすることに成功していた。


 生み出された漆黒の闇が、ウルシの頭部のみを覆い尽くす。こうすることで、噛みつく力のみを強化しているのである。同時に、次元牙が発動するのが分かった。


 巨狼であるウルシが本気で噛めば、オリハルコンでさえ飴玉のように砕くことができる。そこに闇属性、時空属性が複合した、超強力な一撃だった。


 フランとの合体技ではなく、自分で敵を仕留めるために編み出した技。これこそが、ウルシの必殺の牙であった。


 この技を『断界ノ牙』と名付けたアマンダ曰く、直撃すれば自分でも致命傷は避けられないだろうとのことだ。


「グルアアアアアア!」

「ぐがあああああ!」

 

 ゼライセの放った時空の弾丸を牙で弾きながら、ウルシは本来のサイズに戻り、ゼライセの体に噛みついた。


 一本一本が丸太の杭のような大きさがあるウルシの牙が、ゼライセの下半身を押し潰すのが分かる。


「ごぷっ……聞いて、ないぃ……」


 胸から上だけとなって宙を舞うゼライセが、そう呟くのが聞こえた。


 そうか、ゼライセは魔剣となった自分から、ウルシの情報を入手していたのかもしれない。もしくは、ウルシがダークネスウルフだと分かっていれば、進化先を予想することもできるだろう。


 統率力や魔力に優れていても、直接戦闘力はそれほどでもない。小型化しているウルシは、一見すればダークナイトウルフや、ゲヘナウルフに見えたはずである。


 それ故、ゼライセたちはウルシの戦闘力を見誤ったのだ。


 かなり酷い姿になってしまったが、ゼライセの生命力はまだ尽きてはいない。むしろ、再生が始まろうとしている兆候が見て取れた。


「あれれ? 再生が、鈍いな……。まったく、その、狼……なんなんだい……?」


 ゼライセの目には危機感が全くなく、あるのは好奇心。こんな状況でも、ブレない変態だった。


 いや、ここからでも逃走する自信があるのだろう。魔剣ゼライセがある限り、様々な能力が発動可能だからな。魔石兵器を仕舞い、魔剣ゼライセを構える。


 だが、ゼライセが大きなダメージを負い、身動きが取れない状況であることは確かだ。倒すチャンスだった。


「グルルル……」


 ウルシはまだ動けない。大技の反動のせいだ。俺とフランは、ゼライセに止めを刺すほどの攻撃を放つほどの力は残っていない。


「あは、とりあえず、今日のところはこれで失礼するよ――」


 くそ! 逃げられる!


「――あぁ?」


 どうした? ゼライセが転移を発動しようとしたはずだが、何も起きないぞ? 失敗? そう思ったら、ゼライセの周囲に僅かに精霊の気配があった。


 レーンか! 時と水の精霊であるレーンなら、相手の転移を阻害できる!


 そこで、初めてゼライセの顔に焦りの色が見えた。


「くそっ……面倒な……ぐぁ! これは!」

「ふん」


 フランだった。限界ギリギリまで酷使した体にさらに鞭打ち、魔力弾を放ったのだ。威力は最弱。それこそ、ゴブリンすら殺せないかもしれない。


 しかし、ゼライセの体勢を崩す程度はできたらしい。フランの目が俺を見る。


 分かってるよ。俺も、頑張ってみるとするさ!


『らぁぁぁ!』

「ちぃぃ!」


 俺が発動したのは、念動である。それこそ、ほんの一瞬だ。だが、下半身を失い、バランス感覚を失っている今のゼライセは、突如あらぬ方向から加えられた力に逆らうことができなかった。


 ゼライセが、奴自身から見て右下に思い切り引っ張られる。それだけだ。


 それだけなんだが――。


「え?」


 ゼライセの体に、無数の触手が絡みついていた。


コミカライズの最新話が公開中です。

今なら無料で読めますので、お早めにどうぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言]急に霊圧消えた骸骨
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ