63 ネール村
エアライドの反響が大きいですね。
作者的には、エウレカとYAIBAのイメージが強いです。
アレッサを出発してから2日後。
俺たちはアレッサとダーズの中間地点、ネール村に到着した。馬でも4日かかると言われたのだが、半分で到着だ。ウルシの足でだいぶ距離を稼げたし、念動エアライドで崖や沼も簡単に越すことができたしね。
道中、もう一匹召喚したら、ウルシと交代交代でずっと移動し続けられるんじゃね? と気づき、召喚を試してみたんだが……。
ダメでした。何故か、召喚リストが全部灰色に変わってしまっており、召喚不可となってしまっていたのだ。
資料室ではそこまで詳しいことは調べられなかったが、多分俺の器が足りていないんだと思う。
召喚術師は契約上限のことを『器』、魔獣の強大さを『格』と呼ぶ。器はそのまま器。格は水の様なイメージらしい。強い魔獣ほど、器に注がれる格の量が多い。そして、器が格で満タンになると、それ以上の契約が出来なくなる。
ウルシは脅威度Cのユニークモンスターだ。それだけで俺の器が満タンになる程の格を有していたとしても、おかしくはないだろう。
『当分はウルシに頑張ってもらうしかない訳だな?』
「オン!」
これは念話を通さなくても分かる。頑張るって言ってるな。健気なペットを持って幸せ者だな!
『ウルシは取りあえず小さくなっとけ?』
「オウ……」
まあ、だからと言って、甘やかさないけどね。
「あそこに門がある」
周囲を木の柵で覆っており、入るには門を通らないといけないみたいだ。
入り口で兵士っぽい人にギルドカードを提示すると大分驚かれたが、問題なく村に入ることができた。
『長閑な村だな』
鍬を担いだおっちゃんたちが畑仕事に精を出し、おばちゃんは洗濯物を干したり、井戸端会議をしたりしている。
「田舎」
「オン」
『そうともいう』
今日はここで1泊だな。問題は、宿屋があるかどうかだが。
『そう言えば、冒険者ギルドはあるのかね?』
多分、村人を合わせても100人いないだろう。そんな小さな村に、ギルドの支部があるか?
とか思っていたら、あったよ。まあ、看板が掛かってなかったら、完全にスルーしてたけどね。どう見ても民家だし。しかも、他の民家よりも小さくてボロいし。
「こんちわ」
「おー、いらっしゃい?」
中も完全に民家風だな。古民家の入り口に、無理やりカウンターを作った感じである。
「お嬢ちゃん、ここは食堂か道具屋に見えるかもしれないけど、一応冒険者ギルドの支部だよ?」
「知ってる」
「はあ? えっと、何の御用かね?」
いや、御用ってほどのもんじゃないんだけど。ただ、ギルドの看板があったから、入ってみただけだ。
ただ、それを正直に言うのはな……。
『フラン、素材を売ろうぜ』
道中倒した魔獣の素材が少しある。ランクG、Fの魔獣ばかりだけど。今日の宿代くらいにはなるだろう。
「これを売りたい」
アイテム袋から取り出した風を装い、いくつかの素材を出す。それを見た受付のオッサンが目を見開いて驚いた。
「これはどうしたんだい?」
「倒した」
「お嬢ちゃんが?」
「ん」
「ええ?」
うーん、信じられないっていう顔だな。まあ、仕方ないけどさ。
『フラン、ギルドカードを』
「これ」
「お嬢ちゃん、冒険者なのか? ええ? しかも、ランクD? はは、良くできてるね~」
偽物扱いか。まあ、子供のいたずらとでも思ったんだろう。
「いや、しかし良くできてるな。本物なわけないよな?」
オッサンはギルドカード認証装置である水晶にカードをかざす。どうやら、一応真贋を調べてみるみたいだ。そして、驚愕の悲鳴を上げている。
「ほほ、本物? 本物のランクD冒険者?」
「ん。本物」
「こりゃ驚いた!」
話を聞いてみると、このネール村支部には、半年交代でアレッサから数人の冒険者が派遣されてくるらしい。彼は3ヶ月ほどこの村に駐留しているため、フランのことを直接は知らないようだった。
ただ、アレッサからダーズに向かう商人がこの村に立ち寄ることもあり、驚異的な新人が現れたという噂は聞いていたらしい。
「曰く、黒猫族の少女で、とんでもなく強い上に、ギルマスが血迷うほどの美少女だとか。誰が呼んだか魔剣少女。実力だけならランクCにも劣らないと聞いているぞ」
前半は良い。強くて可愛いのはあってるし。ギルマスを血迷わせるって……。まあ、フランに害はないからいいか? 問題は異名だよ! ここでも魔剣少女だ。なんか、広まってる?
『フラン、魔剣少女なんて呼ばれてるぞ!』
訂正しないと!
「魔剣少女?」
「おう、お嬢ちゃんのことだろ?」
『やっぱり広まってる!』
ここで正さないと、もっと広まっちまう。
「ん。カッコイイ」
『え? 嘘?』
「私が魔剣少女」
胸を反らしてアピールしてる! 気に入ってるの?
「やっぱなー」
『フラン! ちょっと待て! 魔剣少女だぞ? いいのか?』
「? いい。可愛くてカッコイイ」
『ウ、ウルシはどうだ?』
「オン!」
ああ、完全に肯定的な感じだ。仲間はいないのか? お、オッサンはどうだ?
「いいねぇ。俺もいつかは異名を付けられるような功績を上げてみたいもんだ」
仲間はいなかった!
あれ? 俺の感性がおかしいのか? 魔剣少女ってカッコイイか? なんか、良い名前に思えてきちゃったな。
まあ、フランが気に入ってるんなら、仕方ないんだが……。
「おっと、話がそれたな。すまない、ここだと買取はしてないんだ」
「支部なのに?」
「支部って言っても、アレッサとの連絡が主な役目だし」
そりゃそうか。金があるようには見えないし。多分、簡単な魔獣退治とかをこなしているんだろう。
「ただ、薬草類なんかは買い取りをしている。村で役立つしな。どうだ? 何かあれば買うぞ?」
薬草か……。一応暇があれば色々と採取している。でも、毒草が多いんだよね。実はウルシも色々と探してくれるんだが、ほとんどが毒草なのだ。毒魔術が得意なせいか?
効果不明だが、結構危険そうな毒草が次元収納に溜まり続けているわけだ。
「毒草は?」
「うーん。ものによるな。農薬や麻酔の材料になるのもあるから。これが買い取りをしている薬草の一覧だ」
20種類くらいの名前が書かれたリストを手渡されるが、ほとんど持ってないな。唯一、死霊草っていう毒草なら持っている。いまいち使い方が分からないが、ウルシが群生地を見つけたのでそれなりの量があるのだ。
「これ」
「お、死霊草か! しかも量が多いな!」
これでも持ってる量の3分の1くらいなんだが。
「何に使う?」
「これか? 死霊魔術の触媒になるんだが、錬金術でこれを原料にした薬を作れば、アンデッド除けのポーションが作れるんだ」
ほほう、良い情報を聞いた。次の町に着いたら、錬金術師に持ち込んでみるかな? いや、自分で試してみるのも面白いか?
「じゃあ、全部で7000ゴルドだ。いやー、こいつはこの辺じゃなかなか採取できないから、助かるよ!」
おや? そうなのか? 結構この村の近くで群生地を見つけたけど……。
「実際、この辺は魔力が澱んだ場所が多いらしくてね、アンデッドがそこそこ出没するんだ。普通の魔獣よりも、アンデッドの方が多いくらいじゃないかな。レッサー・ゾンビやレッサー・スケルトンが多いから、危険は少ないけどね」
(師匠、どうする?)
『群生地の場所か?』
(ん。教える?)
うーん、教えちゃってもいいかな。別に独占したいわけじゃないし。この辺にまた来るかも分からないし。情報を独り占めしておく理由もない。
「近くで群生地を見つけた」
「へぇ?」
「この子が」
「それは凄いな。薬師には、犬を調教して薬草を探す奴もいるって話だが。その犬もそういう訓練を?」
「してないけど、鼻が良いから」
「オン!」
「なあ、群生地の情報を売ってくれないか? そんな場所があれば、定期的に採取できるし」
「そのつもり」
「有り難い!」
俺達は彼を群生地まで案内することにした。最初は地図に場所を書き込む様に言われたんだが、この辺の地理なんて全然知らんし。いや、実際ふらふらと動き回りながら旅をしてきたので、地図を見ても詳しい場所がよく分からないのだ。ウルシの鼻が頼りだろう。
報酬は群生地の大きさ次第だが、最低でも5万ゴルドにはなるだろうという事だった。
「俺はランクE冒険者のアーゲンだ。よろしく頼む」
「ん」




