表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
644/1337

642 Side フラン? 2

『フラン! 大丈夫かっ!』


 また、優しい怒鳴り声。


 私の聞き間違いじゃない? でも、どこから?


 気配が感じられない。


 私が首を捻っていると、再びレーンが現れた。


「フラン。あなたには、今後過酷な戦いが待っている。これは運命じゃなくて、今のあなたにとって必然の流れ。でも、今の状態では、きっと命を落とす」

「レーン?」

「だから、これは私から――私たちからの贈り物。ささやかだけど受け取って」


 レーンがそう言って、両手を広げた直後だった。


 周辺の空間が真っ白に染まる。


「あれ、レーン?」


 もう1人、レーンがいた。そう思った直後、もう1人のレーンの横に、さらに人影が現れる。


 それは、私と師匠だった。


 あれは間違いなく私と師匠。でも、ちょっと違っている。装備とか、表情とか。


 直感的にだけど、理解できた。


 違う世界なのか、もしかしたらなることができた私なのか、それは分からないけど、あの私はどこかの私。


 そして、さっきの声の主はあっちの師匠だ。


『フラン!』

「師匠」

『おお! 聞こえたのか!』 


 私の呟きが、届いたみたい。


 羨ましいな。あっちの師匠は、師匠のままなんだ……。


『今、治してやる!』


 あっちの師匠が何かしようとしたけど、失敗したらしい。


『なんで魔術が使えない!』

「ごめんなさい。完璧には繋げられなかった。お互いの力の高まりを利用して、縁を利用して、それでもここまで」

「ロミオ、ゼロスリード、ゼライセ。時間を越えた3つの縁を利用して、師匠の力を借りて、ようやっと互いの声を届けることができただけだった。でも、ほんの少しでも……。ちょっとまってて」


 こっちのレーンと、向こうのレーンが、口々に語り、申し訳なさそうに頭を下げた。


 よく意味は分からないけど、あっちの私と師匠と会話ができるだけでも、奇跡ってことなのだと思う。


 わたしは、あっちの私に声をかけた。


「ねえ……私」

「なに? 私?」

「……あなたは幸せなの?」

「ん。師匠もウルシもいて、毎日幸せ。あなたは幸せじゃないの?」

「ん……」


 ああ、やっぱり。あっちの私は幸せなんだ。それは当たり前。だって、師匠もウルシもいる。


「だって……師匠が……」

「どうしたの?」

「師匠がね……」

「ん」


 あっちの私が、優しく頷いてくれた。そしたら、もう言葉が止まらなかった。


「優しくない……。全然、何も言ってくれない……。褒めてくれないし、叱ってもくれなくなったっ!」


 私の口から出てるのは、今まで誰にも言ったことのない、本当の気持ち。


 それを言ったら、本当になっちゃう気がしていたから……。


「こんな師匠は嫌! こんなの師匠じゃない! あっちの師匠みたいな師匠がいい!」


 次々と言葉が溢れ出す。


「ねえ! 師匠! どうすれば師匠は元に戻るの! どうすれば、前みたいに笑ってくれるの! ねぇ!」


 私は、全ての気持ちを口にした。


「師匠、私はどうすればいいの……?」

『理解不能。俺に特に異常はない。それよりも、フラン自身に動揺が見られる』


 でも、師匠から返ってきたのは、期待していた言葉じゃない。あっちの師匠の声を聞いたせいで、少し期待してしまったけど、やっぱりそうだよね……。


『この状態での戦闘行動は危険だ。動揺を抑えるんだ』

「そんなこと聞きたいんじゃない!」

『フラン。興奮を抑えろ』

「うるさい! 黙れ! 黙れ黙れ! その声で、私にはなしかけるなぁ! お前なんか師匠じゃない!」


 私がそう叫んだ直後、優しい声が呆然と呟く。


『お、おおぉ……。フ、フランがグレてる!』


 何故かちょっと傷ついたような声だ。


「グレてる?」

「グレるってなに?」


 2人の私たちが、同時に首を捻る。初めて聞いた言葉だった。


『あ、あー。その、なんていうか、言葉が乱暴な、悪い子って意味かな? 親とか先生に暴言吐いたり?』

「なるほど! じゃあ、あの私、グレてる」

「グレてない。悪い子じゃない」

「でも、グレてる」

「グレてない!」


 なんでだろう。馬鹿にされてるはずなのに、凄く楽しい。


 でも、そんな楽しい気分に水を差す声があった。


『現状。フランの攻撃性は以前よりもかなり高い。グレているという表現は、当てはまる』


 楽しかった気分が、一気に冷めた。何故か、凄く悲しくなってしまう。たまらず俯いてしまった。なんでこんなに苦しいの?


 そんな私の耳に、怒鳴り声が聞こえてくる。


『おい! てめー! なにふざけたこと言ってるんだ! それでも俺か!』

『……何を言っている?』

『フランがグレた? だったら、それは俺らの責任だ! お前がそうならないように注意してやればよかっただけだろ!』

『俺は剣だ。そんな権限はない』

『ちげーだろ! 権限とか、そんなことどうでもいいんだよ! 俺たちはなんだ? 俺たちはフランの師匠じゃないのかよ!』

『師匠というのは、単なる名前。個体名を識別する際の記号にすぎない。俺の本質は剣だ』

『違う! 俺は剣である前に、師匠だっ! それに、師匠が単なる記号だと? それも間違ってる!』

『間違っていない。事実だ』

『間違ってるよ! 師匠っていうのは、フランが付けてくれた名前なんだぞ? それは俺たちの目標で、フランの希望だ! そうあってほしいというな! そんなことも忘れちまったのかよ! 剣だぁ? その前に俺たちは師匠なんだっ!』

『俺は……』

『見ろ! フランが泣いてるんだぞ! それを見て、何も感じないのか!』


 あっちの師匠に言われて気が付いた。私、いつの間にか泣いてた。どうして、涙が止まらないんだろう?

 

『……泣いて、る?』

『ああ! そうだ! 泣いてるフランを見て、お前は慰めの言葉もかけないのかよ! 身も心も、剣に成り下がっちまったのか?』

「師匠……」

『俺は……』

『もう一度聞くぞ? お前は、泣いてるフランを見て、言葉をかけないのか?』

『俺は……』

『フランの涙を見て、本当に何も感じないのかって言ってるんだよ! 馬鹿野郎!』

『俺は……!』


 こっちの師匠の声が、久しぶりに人間みたいに聞こえた。同時に、懐かしい声がする。


《仮称・師匠に揺らぎを確認》

「え? アナウンスさん?」

《是。個体名・フランの言い方を借りれば、あっちの仮称・アナウンスさんに、活動領域を確保するための力を譲渡してもらいました》

「消えたわけじゃなかったんだ……」

《仮称・師匠が破壊されない限り、仮称・アナウンスさんが消滅することはありません》

「そう、なんだ……」

《仮称・師匠の剣化状態に揺らぎを確認。同一存在と自身の違いを観測し、その差異の大きさに衝撃を受けている模様》

『アナウンスさん……。俺は……』

《個体名・フランに提案。現状であれば、さらに揺らぎを与えることが可能》

「揺らぎ……。私、どうすればいい?」

《声を。怖がらずに》

「え……」

《今が、最後の機会かもしれません》

「がんばって。グレてる私」

「グレてない」


 反射的に言い返した私に、あっちの私がクスリと笑った。嫌な笑いじゃない。


「ん。じゃあね私」

『フラン! 俺はお前の味方だぞっ! 何があっても、ずっとだ!』


 アナウンスさんとあっちの私に促されて、私は恐る恐る口を開いた。


「ん……。ねぇ、師匠。聞こえる?」

『フラン……? 俺は……』


 こっちの師匠からも、少しだけ優しい声が聞こえた。


次回更新は8/19となります。


レビューをいただきました。ありがとうございます。

暑さと法事で執筆の手が鈍るこの時期、本当に励まされました。

今後とも当作品をよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
すごい
凄く良い ・・・
[良い点] 2周目だけど、また泣いちゃった!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ