62 新たなる翼?
防具を受け取ってから3日後。
「またね~」
「待ってるぞ!」
「ウルムットで会おう!」
「またお待ちしておりますよ!」
「じゃあな~」
俺たちは、アマンダ、ドナド、ガルス爺さん、ランデル、デルトらの見送りを受けながら、アレッサを出立した。
『良い町だったな』
この世界の町を、アレッサ以外に知っているわけじゃないけどさ。最初がここで良かった。
「ん」
『じゃあ、このまま西へ向かうぞ。目指すは港町ダーズだ!』
港町ダーズで船に乗り、そのまま南下する。そして、クランゼル王国の海の玄関口と言われる大都市バルボラへ。そこからは陸路を使い、ウルムットを目指すのだ。
まあ、全て資料の受け売りなので、全然イメージはわかないんだけどね。
目下の目標は、ちょっとだけ良い船に乗ることだ。単なる輸送船ではなく、客船に乗れればベストだろう。
高すぎて金が足らなかったら、ダーズで少し稼ぐつもりだ。ポーション類を結構な数買い込んだが、まだ手持ちは100万ゴルドもある。何とかなるだろう。
『じゃあ、ウルシ頼むぞ』
「オン!」
ウルシがサッと伏せる。そして、フランがヒラリと飛び乗った。
『しっかり掴まれよ?』
「ん」
フランが首輪の紐をしっかりと掴む。ガルスがウルシのために拵えてくれた首輪には、フランが掴まるための短い紐が付いている。これを掴んでいれば、振り落とされるようなことはないだろう。いい仕事するぜ、ガルス爺さん。
ウルシの左右の前足には、それぞれ黒金色のアンクレットが装備されている。それぞれ、腕力小上昇、敏捷小上昇の効果がある上、大きさ調整の機能が付いているので、ウルシが小型化しても問題ないという優れものだ。これも、ガルスが作ってくれたものだった。
2日でこれを作ってくれるのが凄いよな。有名な凄腕鍛冶師だと、改めて理解できた感じだ。
「ウルシ、ゴー」
「オオオォォォォォォン!」
ウルシは景気よく一吠えすると、西へ向かって駆け出す。
速い速い! あっと言う間にアレッサが遠ざかる。
『このまま突っ走れ、ウルシ!』
「オンオン!」
俺の号令でウルシはさらに速度を上げる。尻尾ブンブン振りまくって、テンションアゲアゲだな。だが、1人だけテンションダダ下がりの子がいるね。いや、フランなんだが。
「目、痛い」
ウルシが速すぎたか。風圧で目が開けられないみたいだな。気流操作で、風圧をやわらげてやる。
『どうだ?』
「ん。気持ちよい」
良かった。フランは気持ちよさげに目を細め、風景を見る余裕も出てきたみたいだ。
「あれ、何?」
「鳥いた」
「あの山、天辺が白い」
と、道中を楽しんでいる。高速で流れる風景も珍しいみたいだ。しかも、ほとんど減速しない。障害物があっても、空中跳躍で飛びこせるしな。一直線で突き進む。
『お、あれは魔獣か?』
「どこ?」
『ほら、あの木の向こう』
「いく」
「オーン」
そして、時折魔獣を見つけては、襲い掛かって仕留めた。この辺には強い魔獣がいないようで、ウルシの一撃であっさりお陀仏だ。魔石は吸収し、肉は収納、内臓や骨はウルシが食べる。うん、無駄がなくていいね。
ただ、高速移動はそう長くは続かなかった。いくら魔獣のウルシでも、走り続けてたら疲れるし。腹も減る。
空中跳躍を多用することもあり、MPもだいぶ減っているな。
『仕方ない。暫くは徒歩で移動だな』
「お疲れ」
『ウルシはどうする?』
「オウ!」
ウルシは軽く咆えると、フランの影に沈み込んでいく。ウルシには、影潜り、影渡りと言う、影に入り込むスキルが二つある。影潜りは対象の影に潜り込むだけ、影渡りは影から影へと移動が可能だ。
魔力消費の多い影渡りと違って、影潜りは魔力をほとんど消費しないようだった。どうやら、影に入る時にだけ魔力を消費し、入っている間は消費がないようだ。なので、影潜り中は普通に自然回復できるようだった。
フランの影に入ってれば、フランと一緒に移動もできるし、便利なスキルだ。
『じゃあ、ゆっくり行くか』
「ん」
昼飯を喰ったら、徒歩で出発だ。
この辺りはアレッサ周辺と様変わりし、森林地帯が途切れて平原が続く。ただ、サバンナの様だった魔狼の平原とは違い、短い草が生い茂った野原っぽい感じだな。
景色が変わるくらい、アレッサから離れたってことか。ウルシの速さがよく分かるな。
アレッサを出発して半日。何気なく空を見上げた俺は、思わず驚きの声を上げていた。
『うぉぉぉぉ? な、なあ! あれなんだ!』
「ん?」
『ほら、あれだよあれ!』
「どれ?」
「オン?」
『あの、雲の横! 空に浮かんでるやつ!』
「あれは浮遊島」
『浮遊島? 何それ? ファンタジー!』
だって浮遊島だぞ? 浮遊する島だぞ? ジブリファン垂涎だろう。いや、そうじゃなくても、ファンタジー好きには堪らないのだ。
俺達の直上。上空にポツンと浮かぶ島。見ているだけでワクワクが止まらん!
どうやって飛んでるんだ? あれか? 飛行石的な? それとも風魔術か? もっと特別なファンタジーパワーなのか? いいなぁ、行ってみたいなぁ!
『な、なあ、あれって珍しくないのか?』
フランが、あまり驚いてないし。もしかして、こっちの世界じゃ当たり前なのか?
「ん。たまに飛んでる」
『まじか!』
不覚だった! この世界に転生して2ヶ月とちょっと、こんな素敵スポットを知らずにいたなんて!
いや、待てよ? 普通の場所っていうなら、結構簡単に行けちゃったりするのか?
『あそこ行きたい!』
「無理」
『え? そうなの?』
「とてもお高い」
何でも、空に上がるにはそれ専用の魔道具を使わないといけないらしい。それの使用料が凄まじく高いんだとか。フランも詳しくは知らないそうだが、一般人が観光で行くのは無理な金額らしい。
生前の宇宙旅行みたいなものなのか?
でも行きたい!
『なあ、他に方法ないかな?』
「魔術師は、自分で飛んで行く人もいるらしい」
『なるほど』
じゃあ、ウルシの空中跳躍じゃダメかね。限界まで跳んで行けば、もしかして……。
『ウルシ、どうだ?』
「クゥゥゥ……」
無理っぽいな。まあ、MPが続かなそうだしな。
じゃあ、俺達の浮遊なら? いや、無理だ。浮遊には高度制限があり、一定以上の高さから上に行けないのである。念動で制限より高く上がったとしても、浮遊で高度を維持することができないのだ。落下速度を弱める効果はあるけどね。
『念動で行けるかな?』
「師匠、ずるい」
『ん?』
「私も」
『行きたいのか?』
「勿論」
「オン!」
「抜け駆けはダメ」
ということでした。さすがに全員では――。いや、待てよ。閃いてしまった。
『じゃあ、ちょっと試してみるか』
俺は念動で浮かび上がると、フランの前で剣の腹を上向きに、水平にホバリングする。
『さあ、乗るんだ!』
「乗る?」
『そうだ。サーフィン――って言っても分からんか。とにかく、俺の上に立ってみろ』
「ん……」
フランが恐る恐る俺の上に足を乗せ、体重をかける。
「平気?」
『おう。ただ、浮遊を使ってくれたら有り難い。あと、気流操作で、風の抵抗を弱めるんだ』
「わかった」
『ウルシはとりあえず影に入ってろ』
「オン!」
『じゃあ、行くぞ!』
俺は念動と浮遊を駆使して、飛び上がった。サーフィンボードよろしく、フランを上に乗せて。
「おー。飛んでる」
成功だ! 名付けて、念動エアライド!
最初は水平に移動してみる。フランも大丈夫そうだな。足を念動で固定したのが良かったらしい。徐々にスピードを上げながら、右曲がり、左曲がり、上昇下降を試していく。うん。問題なさそうだ。
『じゃあ、いくぜ?』
「ん!」
『おりゃー!』
俺は螺旋を描くような軌道で、グングン上昇していった。一気に垂直上昇しないのは、フランが振り落とされないようにするためだ。
「凄い。師匠凄い」
「オンオン!」
『うりゃうりゃー!』
念動全開! 浮遊島が少しずつ近づいてくる。豆粒みたいな黒い点にしか見えていなかった島が、拳くらいには見える様になってきたか?
もう少しで雲に突入できそうな高度まで上がってきたというのに。島はさらに上に漂っている。メチャクチャ高い位置にあるんだな。
島の底部は、普通に岩だな。むき出しの岩石だ。上に何があるか見てみたい!
『フラン……』
「ん?」
『すまん!』
だが、俺はそこで力尽きた。だめだ、さすがにフランを乗せたまま空を飛ぶのは無理があったらしい。一気に力を爆発させる念動カタパルトとは、また違った負荷がかかっていたようだな。あっというまに魔力が切れてしまった。
多分、練習と合わせても15分くらいしか飛んでいられなかったんじゃないか?
これが上手く行ったら、新たな移動手段になったのに。まあ、速度も相当出せそうだし、危険な場所を迂回したり、脱出する際には使えるだろう。
「残念」
「オウゥゥ……」
『くそぅ! いつか絶対に行ってやるからな! 覚悟しとけよ!』
ガルスに渡したグラトニー・スライムロードの素材は、1樽分となっております。少々描写が短く、読者様に伝わりきっていないようでした。




