635 生命魔術の効果
『早速、回復阻害の術。ヒール・ディスターブを試してみるか』
「ん!」
軽くうなずいたフランが、ウルシに声をかけた。
「ウルシ」
「オン!」
『まてまてまてまて! もしかして、またアレをやるつもりか?』
アレ――フランとウルシの協力攻撃だ。名前がないので、アレとしか言えんが、それで伝わるだろう。
「ん。今度は生命魔術もある。奴を倒す!」
『いや、さすがにぶっつけ本番でアレに組み合わせるのは怖い』
どっちの術も、どれくらいの効果があるか、まだ分からないんだぞ? 怖いもの知らずすぎる!
「ん……」
『アレは、少し試した後にしような?』
「わかった。あと師匠、アレじゃない。名前考えた」
『ほう? なんていうんだ?』
珍しいな。フランは意外とその辺はアバウトなので、自分でそんなことを言い出すのは初めてじゃないか?
「ん。天狼抜刀――」
『ストーップ! ダメ! それはダメです!』
「なんで?」
『確かに、天から狼の力で加速して抜刀術とかで攻撃するけど!』
その名前は色々まずいから!
「本気で出したら、絶・天狼――」
『アウトー! 完璧にアウトー!』
あれー? 俺、どっかであの漫画の話をフランに聞かせたことあったっけ?
「なんで?」
『と、とにかく、その名前はダメです。もうあるから』
「む。もうあるのはダメ」
『だろ?』
「じゃあ、候補があと3つある」
『ほほう?』
結構多いな。ぜひ聞かせてもらいましょう。
『1つめは?』
「ハイパースペシャルエクセレントミラクルスラッシュ」
『却下で』
「? ダメ?」
『いや、その……。できれば違うのがいいかなーって』
なんだろう。フランが子供なんだって、改めて思い知るよね。可愛いんだけどさ……。
今後、技名のことでフランが馬鹿にされても嫌だし、できればハイパーミラクル――あ~、なんだったか?
《ハイパースペシャルエクセレントミラクルスラッシュです》
『アナウンスさん! 忘れていいから!』
ともかく、それは却下で。
「わかった。じゃあ、2つめ」
『お、おう』
「スーパーウルシアタック」
『……な、なるほど……』
さっきよりはマシか? いや、さっきのが酷かったせいでマシに思えるだけか? ヤバい、よく分からなくなってきた。
『さ、最後のも聞いてみたいなー』
「ん! 狼式抜刀術」
『おお! それ、いいじゃないか!』
というか、選択肢がない! まあ、最後ので決まりだな。
『狼式抜刀術。いいと思うぞ?』
「そう? スーパーウルシアタックの方がかっこいい」
「オン!」
フランもウルシも、キラキラした目で俺を見るなって! なんか否定しづらくなっちゃうだろ!
『そ、そんなことないって! ろ、狼式抜刀術にしようぜ! な?』
その後、俺の必死の説得の結果、フランとウルシの合体技は、狼式抜刀術という名称になったのであった。
『まあ、今は俺に任せておけ』
「ん!」
フランは、俺を逆手に持って大きく振りかぶる。いきなり全力攻撃をするのではなく、遠距離からお試ししないとな。
そう考えると、念動カタパルトはかなり凶悪だ。普通は武器などにヒール・ディスターブをかけて直接攻撃を仕掛けなくてはいけない。だが、俺なら、遠距離なのに直接攻撃という、いいとこ取りができてしまう。
「いく!」
『ひゃっはぁぁぁ!』
再びの念動カタパルト。今度は破邪顕正に加え、生命魔術も乗っている。ただ、誤算もあった。
『うーむ……俺、生命体じゃないからな』
回復を促進する術や、肉体を強化する術は、俺には効果がなかった。俺は剣だし、仕方ないと言えば仕方ないんだが……。
ストロングボディの効果があれば、念動カタパルトなどの反動を減らせるかもしれないと考えていたので、少し残念だ。
『まあ、肝心のヒール・ディスターブは問題なく発動してるし、いっか』
俺は魔力放出などを利用して、速度をグングン上げていく。そして、大量の触手を切り裂きながら、大魔獣の体に突き刺さった。
先程と同じように、大きなクレーターが穿たれた。やはり、強度はさほどではない。こいつほどの再生力があれば、それでも問題ないのだろうが……。
『さらに抉ってやるよ!』
俺は大魔獣の肉体に開いたクレーターの中心に突き刺さったまま、形態変形を発動させた。
今回姿を変えるのは鋼糸ではない。いくら強度が低いといっても、細い糸が体内で暴れるのを許してくれるほどではない。
それよりももう少し太い、針のイメージだ。俺の刀身が100近くに枝分かれし、十数メートルもの長さの針となって大魔獣の体内を蹂躙した。
これでも大魔獣にとっては大した傷の大きさではないだろうが、少しでも多く削ってやらないとな。
『さて……どうだ?』
転移でフランの下に戻った俺は、大魔獣を観察する。
俺が開けた穴は、目に見えて再生速度が遅かった。他の傷の、100分の1以下の速度だろう。
『よし、効果ありだ!』
「ん! 全然再生しない!」
「オン!」




