61 新防具入手
「防具、できてる?」
「おう、完璧よ!」
飲み会から4日後、俺達はガルス爺さんの店に来ていた。
俺たちが町に来て1ヶ月。今日が約束の日なのだ。
『どんな出来だい?』
「がははは。最高の出来だ! わしの生涯の中でも会心のな!」
『それは言いすぎじゃないか?』
俺たちが渡したのは、C、Dランクの魔獣素材だ。確かに弱くはないけど、ガルス爺さんクラスの鍛冶師だったら、もっと上級の素材を扱ったことだってあるはずだ。
『もっと強い武器とか防具を作った経験があるはずだろ?』
「いやいや、強けりゃいい仕事って訳じゃないんだぜ?」
「?」
「なんつーか、魂が入ってるかどうか? それが重要なんだよ。そりゃ、いつだって魂込めて仕事してるぜ? でもな、特に満足いく仕事ができる瞬間っていうのがあるんだ」
分かる様な、分からないような。
「今回みたいな時がそうだ。自分の技術と、創意工夫と、魂と、その他もろもろ。色んなものが最高にかみ合う時があるのさ」
『じゃあ、期待できるんだな?』
「おうよ。何せ、神様が認めて下さった防具だからな!」
「神様?」
ガルスが一旦店の奥に引っ込むと、大きな箱を持ってきた。そして、自信満々の表情で中から取り出したものを、カウンターの上に並べた。
「見てくれ、これがお嬢ちゃんの新たな防具だ!」
名称:黒猫の闘衣
防御力:100 耐久値:600/600
効果:快眠、消臭、浄化、精神異常耐性中付与
名称:黒猫の手袋
防御力:70 耐久値:600/600
効果:衝撃耐性中付与、腕力中上昇
名称:黒猫の軽靴
防御力:65 耐久値:600/600
効果:跳躍付与、敏捷中上昇
名称:黒猫の天耳輪
防御力:15 耐久値:300/300
効果:毒耐性中付与、騒音耐性大付与、属性耐性中付与
名称:黒猫の外套
防御力:85 耐久値:600/600
効果:耐寒付与、耐暑付与、装備自動修復
名称:黒猫の革帯
防御力:15 耐久値:300/300
効果:魔術耐性小付与、状態異常耐性小付与、アイテム袋能力小
うん、凄い強いな。今装備している装備よりはるかに強い。これだってガルスから15万で買ったんだけどな。それに、ギュランから奪った高級防具に比べても、こっちの方が優秀だ。
因みにギュランから奪った防具はこんな感じだ。
名称:炎熱獅子の革鎧
防御力:90 耐久値:500/500
効果:火炎耐性大付与、毒耐性小付与
名称:偽竜の手甲
防御力:61 耐久値:400/400
効果:衝撃耐性小付与、腕力小上昇
名称:百眼蜥蜴の靴
防御力:45 耐久値:330/330
効果:麻痺耐性小上昇、敏捷小上昇
名称:黒石樹の盾
防御力:68 耐久値:900/900
効果:受流し上昇、衝撃耐性小付与
名称:防護の腕輪
防御力:15 耐久値:300/300
効果:魔力消費で、物理障壁展開
名称:耐毒の腕輪
防御力:5 耐久値:100/100
効果:毒耐性中付与
ガルス爺さんが作った新しい防具は、防御力は勿論、効果も素晴らしい。しかも、今までより軽いとか、どうなってんだ? それと、神様に認められたっていうのは、どういうことだ?
「これがわしの最高傑作、黒猫シリーズだ!」
「良い名前」
『でも、爺さんにしちゃ可愛すぎるな』
「オン」
「ほっとけ! まあ、わしが付けた訳じゃないけどな」
「じゃあ、誰が付けた?」
「そりゃあ、神様さ」
「?」
「オウン?」
『どういう意味だ?』
「なんだ、知らんのか? これはネームドアイテムだ」
ネームドアイテムっていうのは、神様によって名前を付けられた、特殊なアイテムの事らしい。例えば、鍛冶師が全身全霊をかけて作った武器が神様に認められると、神様から啓示が下り、名前が与えられたりするのだ。
他には、迷宮で見つかる伝説級の武具は、ネームドアイテムが多いらしい。
元々最高の出来のアイテムに、神様の加護が付くのだ。その性能は推して知るべしだった。
「自分が作ったモノが神様に認められるなんて、鍛冶師にとっちゃ最高の栄誉だ。その機会をくれたお前さんらには感謝しとる。製作を手伝ってくれた知人も、泣いて喜んどった。ありがとうよ」
『いやー、こっちこそ最高の防具をありがとうな』
「がはははは。元々、複合素材で頑丈なところに神様の加護が付いたんだ。ランクB魔獣の素材を使った防具と比較しても、負けちゃいないぜ?」
『それは凄いな』
「しかも、加護が凄いんだよ」
『え? 耐性とかが付いたってことじゃないのか?』
「まあまあ、装備してみりゃ分かるからよ」
「わかった」
奥の部屋を借りて、フランが黒猫シリーズを装備する。黒地に白の縁取りのされた統一感のある防具は、フランによく似合っているな。
ベースとなる黒猫の闘衣は、ボーイッシュな雰囲気の中にも、可愛らしさが同居している。尻尾穴の開いたキュロット。衿の大きいワイシャツとビスチェを合わせた様な、ややピッタリめの上着。宝石をあしらった胸元の留め金が、女性らしさも添えているな。へそが見えてるが、可愛いから許す。
オープンフィンガーの手袋と、ふくらはぎまでを覆うブーツの様な形状の軽靴。革帯はガンベルトっぽい形状で、短剣を忍ばすことができる。しかも、小さいアイテム袋能力が付いており、ポーションの瓶を最大で5つほど入れておくことができるらしい。白金色の天耳輪は、動物の認識票っぽく見えなくもないが、フランが付けているとオシャレに見えるな。
一番上に羽織る闘衣は、マントと言うよりはレインコートの形状に近かった。それでいて、軽くてしなやかで、動きを阻害しないのだ。
「金属系の素材はほとんど使用していない。革や糸でこの強度を出すのは苦労したぜ? タイラント・サーベルタイガーの皮と、ドッペル・スネイクの鱗、ブラスト・トータスの甲殻を、薬品と混ぜ合わせたグラトニー・スライムロードの粘液に漬け込んで強度を上げ、張り合わせて作った複合素材がメインになっている」
『聞くだけで凄いな』
「失敗の連続だったが、満足いくものが出来た。中は複合素材を編み込んだ特殊な作りになっているから、下手な金属鎧よりよほど強いぜ? なにより、軽い」
軽さは重要だ。フランは俊敏さを利用して戦うスタイルだからな。まさに最高の防具だ。もう一度鑑定してみると、あることに気づいた。
『黒猫の加護?』
「気づいたか? これが神様の祝福の効果だ。黒猫装備を全て身に着けている間、黒猫の加護が与えられる。効果は、全ステータス+10。さらに、即死無効だ。その代わり、黒猫族しか装備できんがな」
装備してるだけで得られる加護とか、凄すぎじゃないか? ステータス+10って、チート称号並だし。単純な防御力だけで言ったら、金属系の重鎧には敵わないだろうが、効果と軽さを考えたら、十分に強い防具と言えるだろう。効果が多彩で、金属装備並の防御力も実現しているし。
「凄くかっこいい」
『その上可愛いし。メチャクチャ強い』
「だろう? 最高の防具だろう? がはは」
『これがタダで良いのか?』
「ああ、そういう約束だしな。余った素材は貰えるんだ、赤字は出てない。それに、この仕事をさせてくれたお前らには感謝してる、頼まれたって、金は受け取れんよ。ただ――」
「ただ?」
「1つだけ、言っておかなきゃならんことがある。これは最高の防具だ。だが、そのせいで修復にかなり高純度の魔水晶が必要になっちまった。その分、かかる金額も結構な……」
『どれくらいだ?』
「最初に10万程度。その後、倍々で増えていくと思ってくれ」
『げっ。それって、結構まずいんじゃ……』
「うむ。しかし、外套の効果に、装備自動修復がある。これは、その時に装備している全装備に効果があるから、急ぎじゃなければ、何日か放っておけば元通りだ」
それは助かる。というか、全然修復に出さなくてもいいかもしれないな。ふぅ。焦ったぜ。
『あとは、ウルシの装備だな』
「そっちの犬っころの?」
『ああ、従魔証ってやつを付けなきゃならないらしくてさ。狼でも装備できそうな防具なんてあるか?』
他の問題もある。ウルシは平時と戦闘時で大きさを変える。その度に壊れたりしたらお金がいくらあっても足りん。小さい方に合わせたら、デカくなったときに首がギュウギュウに絞められるだろうし。
そんな心配をガルスに伝えると、問題ないという答えだった。
「防具には、サイズの自動調整機能が付いてるやつも多い。それを応用すれば、問題なかろうて」
「ほんと?」
「オン?」
「おう。任せとけ。2日もあれば作れる」
『じゃあ、頼むよ』
「オオォォン!」
『で、お代はいかほど?』
「そうだな……5万もあれば、色々用意してやるぜ?」
「じゃあ、お願い」
その後、サイズを測るために本当の姿になったウルシが、ガルス爺さんをベロンと舐めて壁まで吹っ飛ばしてしまったり、ブンブン振った尻尾が後ろ足のサイズを測っていたガルス爺さんを再び吹っ飛ばしたりと、色々なハプニングがあった。
ガルス爺さんが丈夫でよかったぜ。普通の鍛冶師だったら、命の危険があっただろう。というか、大してダメージを負ってない爺さんが凄すぎなんだが。
ウルシにももう少し加減を覚えさせなきゃいけないかもな。いつか大変な事件が起きる気がする。
「お前さんらは、次は何処に行くんだ?」
「ウルムット」
「ほほう。わしもそろそろこの町でやれることはやりつくしたしなぁ。次の目的地はウルムットでもいいか」
『おっ。じゃあ一緒に行くか?』
ガルス爺さんなら大歓迎だ。
「ちなみに、どういう経路だ?」
『ここからダーズに行って、船で南下してバルボラに。そこから陸路でウルムットかな? 陸路よりも割高だが、早いし。何より、フランに船旅を経験させてやりたい』
「一緒に行く?」
「……すまねぇな、嬢ちゃん。一緒には行けそうもねぇ」
「?」
『なんでだ?』
「……ドワーフっていうのは、山の民だ」
「ん」
「つまり、水との相性が悪いっていうか……。ぶっちゃけ泳げん!」
なるほどね。ドワーフっぽい理由だ。確かに、ガルス爺さんを見てると、筋肉ムキムキで、水に浮かびそうには見えない。
「そう。残念」
「クゥ」
「悪いな」
『じゃあ、ウルムットで再会できればいいな』
「おう!」




