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622 決意するウィーナレーン


 ウィーナレーンが、片手で顔を覆いながら悲痛な言葉を漏らす。


「このままじゃレーンが消えてしまう!」

「そのレーンが、魔獣を復活させた」

「……は? レーンが? うそ……」

「ほんと」

「どうして……?」

「わかんない」

『そりゃあ、俺たちが聞きたいくらいだ』


 そして、フランと俺は湖の底で起きた出来事を全て伝えた。


 ゼライセが封印を破ろうとしていたが、俺たちが阻止したこと。だが、レーンが魔獣を復活させてしまったこと。


 しかし、ウィーナレーンは信じられないようだ。呆けた顔で虚空を見上げている。


「レーンから伝言」

「!」

「覚悟を決めろって」

「……だって、それじゃあ、あの子は……自分で……?」


 やはり、ウィーナレーンとレーンの関係が分からんな。あの子っていうのはレーンのことか? だとしたら、只の知人ではないだろう。なんらかの親しい関係であると思われた。


「ウィーナレーンとレーンはどんな関係?」

「……私たちは……なんて言えばいいのかしらね?」

「私が聞いてる」

「そうだったわね」


 ウィーナレーンが疲れた顔で微笑む。大分、精神的に参っているらしい。


「簡単に言えば、双子の姉妹なのよ。私たちはね」

「精霊と双子?」

『エルフだと、そんなことがあり得るのか?』


 さすが精霊に守護されてる種族だ。だが、そうではなかったらしい。ウィーナレーンが首を振っている。


「違うわ。レーンはね、元々ハイエルフだったの」


 ウィーナレーンが、自らとレーンの関係を語る。


「レーンは大魔獣を封印するために、大魔獣に取り込まれてしまった湖の精霊と契約を結び、自らを精霊と一体化させたわ」

「そんなことできるの?」

「ハイエルフの中でも、特に精霊魔術に秀でていたレーンだからこそ可能だったのでしょうね。私には絶対に無理だわ」


 大魔獣と一体化する湖の精霊と同化したということは、レーンも大魔獣の一部となったということである。


 後は、レーンが内部から大魔獣を弱らせ、自らが用意していた封印術で湖の中心に封印をしたのであった。


 大魔獣を封印したウィーナレーンの知人というのは、双子の姉妹であるレーンのことだったのだ。


「私はその後、精霊となったレーンと契約を結んだわ……。あのまま放っておけば、いつかレーンは魔獣に完全に同化し、消えてしまう運命だったから」


 普通、精霊術師と精霊の契約は、同化と言えるほど深くはない。一緒にいて、力の貸し借りをする、ギブ&テイクに近いものである。


 しかし、ウィーナレーンのレーンへの強すぎる想いと、元々双子であったことによる通常ではありえない深い繋がり。そして、ハイエルフの持つ高い精霊への親和性が、意外な事態をもたらす。


「私はね。元々はウィーナという名前だったのよ?」

「レーンと契約して、名前を変えたの?」

「いいえ、違うわ。レーンと契約をしたら、魂が融合してしまったのよ。結果、私たちはウィーナでもレーンでもなく、ウィーナレーンという個人になった」


 基本はウィーナであるらしい。記憶も、外見も、ウィーナのままだ。だが、確実に変化があった。レーンの趣味嗜好や、意識がウィーナに混ざり込んだのだ。


 自分の中に誰かの精神が同化して、変化が起きる。悪い言い方をすれば、自分が自分ではなくなるということだ。


 普通であれば嫌がりそうなものであるが……。


「私は、嬉しくて仕方がなかったわ。これで、永遠に一緒にいられる。そう思ったから」


 やはり長命者の思考はいまいち分からんな。だが、今の説明を聞いた後では、ひとつ腑に落ちないことがる。


「じゃあ、私が会ったレーンは?」

「私が契約を結んだレーンは、湖の精霊と一体化し、自らも精霊と化したレーン。でも、大魔獣の中には、レーンの半身が残っている」


 つまり、精霊と一体化したレーンのごく一部がウィーナレーンになり、残りはまだ大魔獣の中で封印されているってことか?


 だからこそ、ウィーナレーンの主導権はウィーナが握ったのかもしれないな。


「レーンは短い間であれば封印から抜け出して、顕現することができるみたいね。湖の周辺で目撃される謎の精霊は、レーンのことでしょう。でも、私には会いにきてはくれなかったけれど」

「なんで?」

「私の中のレーンと、魔獣の中のレーンが引き合って活性化すると、封印が弱ってしまうから……。それでも、私は会いたいのに……」


 ウィーナレーンは、レーンのことを語る際だけは妙に不安定だ。双子の姉妹に対するというよりは、まるで惚れた相手の行動に一喜一憂する女子のようであった。


「レーンが言ってた、覚悟を決めろってどういうこと?」

「……よ」

「レーンは、ウィーナレーンに言えばわかるって」

「嫌よ。そんなことさせない。レーンは絶対に消えさせたりしないわ……!」


 ウィーナレーンは少しの間ブツブツと何やら呟いていたが、唐突に椅子から立ち上がった。


「大魔獣を封印するわ」

「できるの?」

「今までなら無理だったわね。でも、今ならなんとかなるはず」


 ウィーナレーンはそう言うと、小走りで駆け出した。その決意の表情とは裏腹に、その足取りはどこか頼りない。


「私は、行くわ」

「その前に生徒たちをどうする?」

「ああ、そう言えばそうね……。この町を離れて避難するように指示を出して。フランは、他の教官を纏めて、脱出までの面倒を見て」

「わかった」


 まるで、生徒のことなんて忘れていたかのような反応をするウィーナレーン。やはり、どこか変だ。


 だが、大魔獣を封印できるのはウィーナレーンだけである。任せる他なかった。


「だいじょぶ?」

「大丈夫。私は大丈夫よ」


 大丈夫には見えない。だが、それを指摘するのは憚られる。それ程に、今のウィーナレーンは張りつめた雰囲気を纏っていた。


「絶対に、封印してみせるわ」


前回、誤って21日更新とお伝えしていました。お待ちいただいた方々、申し訳ありません。

また、風邪が少々悪化してしまいました。次回は29日更新予定です。

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