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621 商業船団のその後


 セフテントに戻ると、すでに町は大混乱であった。港では多くの人々が右往左往している。


 港には大小の船が停泊しており、中にはマストが折れた船や、焼け焦げた跡が残る船もあった。


 商業船団の船に違いない。


 しかし、それにしては数が少なかった。全体の5分の1ほどだろう。まさか、あれだけの数の船が沈んでしまった?


 その港の一角には冒険者たちが集まって、厳しい顔で大魔獣を見つめていた。


 ここからでは相当小さくしか見えないが、湖を知り尽くした冒険者たちにはその大きさがしっかり理解できるらしい。


 彼らはすぐにフランに気付いたようだ。まあ、明らかに異変が起きた方角から、デカい狼に乗って戻ってきたんだからな。目立つのは当然だろう。


「おおーい! もしかして黒雷姫か?」

「あ! 本当だ! 黒雷姫殿!」

「な、何があったんだ! あれは何だ?」


 口々に声をかけてくる。


「大きな魔獣が出た」

「そりゃあ、見れば分かるんだが……」

「私も詳しくは知らない。それよりも、いくつか聞きたい」

「うん? なんだ?」

「シエラを見た?」

「シエラ?」

「ああ、あの子供だろ? いや、見てない」

「そう……」


 結局、ゼライセがシエラをどうしたのか、聞き出すことはできなかった。フランはやはり、シエラの行方を気にしているんだろう。


 だが、セフテントでは目撃されていないようだ。俺たちの察知にも引っかからない。


 今はこれ以上は探せなかった。


「あと、商業船団はどうなった?」

「酷いもんだ」

「船団がああなっちまうとはなぁ」


 冒険者たちが暗い顔で教えてくれた。


 モドキの襲撃や大爆発のせいで、かなりの船が被害を受け、相当な人死にが出たらしい。


 それでも、無事だった船はなんとか周辺の町に分散して停泊し、大勢の人間が下船できたそうだ。


 セフテントには特に被害を受けた船が多く停泊し、先程まで人々の救護が行われていた。


「今は、亡くなった人らの身元の確認をしてるよ。そこの広場だ」

「そう」

「案内してやるよ」


 俺たちはその広場に行ってみた。

 

 広場には大勢の人間と、十数人分の遺体が並べられている。親しかった人物の遺体に縋りつき、泣きじゃくる人々の姿が痛々しい。


 特に、子供たちの悲鳴のような泣き声は、やるせない。


 フランが拳を握り、静かに怒りを押し殺すのが分かった。俺だって同じ気持ちだ。


 この光景を見ると、改めてゼライセへの殺意が湧いてくる。神殿から脱出するとき、少し無理をしてでも、カンナカムイをきっちりぶち込んでやればよかった。


 ただ、あの時は何を置いてもフランの脱出が最優先だったからな。余計な行動をする余裕がなかったのだ。


「まだ見つかってない奴らもいるらしい……」

(師匠)

『ああ、そうだな』

 

 俺たちは広場にいた船の関係者に声をかけ、収納していた犠牲者たちの遺体を広場に並べる。時間はないが、これだけは疎かにしてはいけないと思ったのだ。


 ここにいた乗組員の中には友人や親類がいたらしく、広場にはさらに多くの嘆きの声が響くことになった。


(ゼライセ……! 次にあったら、必ず倒す)

『ああ、そうだな』

(ガル!)


 その後、俺たちは静かに黙祷を捧げると、その場を後にした。


 向かう先は、ウィーナレーンの気配がある学院の野営地だ。


 野営地に戻ると、生徒たちが不安げに集合していた。まだ、事態が把握できていないのだろう。


 野営地にフランが降りたつと、生徒たちが周囲に寄ってきた。真っ先に声をかけてきたのは、キャローナである。


「フランさん! 町が騒がしいのですが、何があったのか分かりませんか?」

「……商業船団が魔獣に襲われた」

「まあ! 被害は?」

「けっこう酷い。そのことで、ウィーナレーンに報告がある」

「そうですか。お手間を取らせて申し訳ありません」


 フランがウィーナレーンの名前を出すと、生徒たちが自然と道を譲ってくれた。


 さすが学院の生徒だ。こういう時にパニックになっても意味がないと理解しているのだろう。


「……ここにいると危険かもしれない。避難する準備を進めて」

「え? ですが……」

「教官命令」

「わ、分かりましたわ」

「ん」


 こういう時に、権力があると便利だ。まあ、本来であればそんな命令を出せるような権限はないんだが、今は緊急事態だからな。


『みんなの避難を始めるためにも、まずはウィーナレーンと話そう。あいつなら、何かが起きたことは分かっているはずだ』

「ん!」


 それどころか、精霊を通じて全てを把握していたっておかしくはない。


「ウィーナレーン!」

「フラン……」


 椅子に座るウィーナレーンの顔は、可哀想になるほどの悲壮感に支配されていた。髪が乱れているところを見るに、頭を何度もかきむしったのかもしれない。


 そんなことをしたと言われても納得できるほどに、今のウィーナレーンは追い詰められているように思えた。


「なんで、湖の魔獣が復活するの! 封印の綻びはまだ大きくなかったはずよ……? このままじゃレーンが消えてしまう!」



ちょっと風邪気味なので、次回は21日更新とさせてください

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