60 検証してみた
「おお、今日も来たのかね魔剣少女」
「ん」
その名前やめれ。シューレン爺さん。
俺たちの姿は資料室にあった。旅途中でアマンダから得た知識を、より詳しく調べるために。
フランは昼寝とか釣りとかならいくらでもじっとしてられるのだが、資料室で勉強となると集中力が長続きしないのだ。
なので、パッと調べて、サッと覚える。
朝はアマンダと模擬戦、午後からは調べ物、オヤツを食べたら昼寝や釣りをしてまったり、と言うのがここ数日の過ごし方だった。
「今日は魔術の資料が読みたい」
「魔術の資料と言っても、多岐にわたるが?」
「とりあえず複合魔術」
「ほうほう。なら、そこの棚の、下から3段目の、右端の方じゃな。複合魔術のことが初心者向けに書かれている」
相変わらずスゲー記憶力だ。
シューレン爺さんにお薦めされた資料は、複合属性のことが簡単に紹介されており、非常に読みやすかった。
フランにページをめくってもらいながら、俺が読む。フランは完全にボーっとしているだけだな。その後、他の魔術に関しても、色々と調べてみたが、レアな属性に関しては、あまり多くの資料が存在していなかった。
そして、ここ数日で読み終えたことを簡単にまとめるとこんな感じだ。
樹木:水+土。その名の通り、草木を操る系統。成長させるだけではなく、枯らすこともできる。また、樹海で迷わないための術などがあるらしい。
氷雪:水+風。冷気を操る。氷や雪で攻撃したり、熱を奪って凍結させるようなことも可能。寒冷地での耐性を得たりもできる。
生命:水+火。生命を司る。回復なども出来るが、その真価はより深い。生命を育むことも、弄ぶことも可能。錬金術と組み合わせたホムンクルス研究などにも用いられている。
雷鳴:風+火。電撃や磁力を操ることができる魔術。攻撃だけではなく、肉体に纏って反応速度を上げる様な術も存在している。
砂塵:風+土。砂を操るだけではなく、乾燥、脱水、風化なども操ることができる。食料品の加工などにも用いられているらしい。
溶鉄:土+火。金属や鉱石、溶岩などを司る。所謂、地面の下からイメージされる属性。鍛冶師にはこの術を利用する者も多い。
特殊属性はこんな感じだ。
時空:時と空間を操る。転移、時間操作、召喚などが確認されているらしい。
月光:反射と精神操作、肉体操作。俺的には、吸血鬼とか、狼男を連想したな。
補助:ステータスアップや、バリアなどの補助に特化した属性。他属性にも似た術はあるが、補助属性程の効果は得られない。
ああ、もう一つ気になっていたガルス爺さんのスキルも、他のスキルを調べるついでに確認してみた。
鍛冶魔術:鍛冶に必要な魔術を寄せ集めた体系。鍛冶の神が鍛冶師のために作り上げたという。火や風、溶鉄など様々な魔術が含まれるが、戦闘に使うと威力が激減するため、鍛冶にしか使えないらしい。
魔法鍛冶:鍛冶の際に魔力を込めることで、魔法武具を作り上げる技術。普通の鍛冶とは比べ物にならない程の高度な魔力制御が可能で、狙った効果や属性を付与することが可能。
似た名前でも、全然違っていたな。
本当は他にも調べたい事はたくさんあるんだが、俺達は資料室を出ることにした。フランの腹減ったアピールに負けたのだ。いや、昼飯をたらふく喰っただろ。
仕方ない、オヤツを食べたら、スキルの検証にでも行くか。フランはもう資料室は嫌だろうし。
町の外に移動すると、ウルシに人がいないことを確認してもらい、さあスキルの検証だ。
まずは、蜘蛛の巣で手に入れたスキルの確認だな。残念ながらトリックスター・スパイダーの魔石は手に入らなかったし、人目があったため大量の吸収とはいかなかったが、トラップ、トリック、合わせて10程は吸収できた。
混乱毒生成:Lv1、赤外線視覚:Lv1、毒噴射:Lv1、麻痺毒生成:Lv1、猛毒生成:Lv1
毒生成系スキルは、自らの体内で毒を作り出す能力だった。血液や体液に毒属性を与えることができる。その毒は本人には影響がないらしく、フランが使っても全く問題がなかった。
赤外線視覚は、まあ、その名の通りだ。
そして、毒噴射。生成した毒を、噴射する能力だった。毒生成スキルが無ければ、無意味なスキルかと思いきや、魔毒牙の毒を噴射できてしまった。これって、かなりえげつないんじゃ……。
あと、属性剣の確認もしたいな。
『まずは火炎属性だ』
「ん」
これは蜘蛛の巣でも使ったが、かなり強力だ。
『熱くないか?』
「だいじょうぶ」
「オオゥ」
真っ赤に燃える剣と化した俺をブンブン振り回しながら、フランが涼しい顔で答えた。我慢している感じはなさそうだ。
だが、ウルシは熱そうにしている。使用者は影響が少ないんだろう。
問題は、魔法使いスキルを使ったオーバーブースト時だろうな。軽く魔力を込めてみる。
『どうだ?』
「あつい」
「キャウン」
うーん、やっぱりこの状態の俺を振るのは無理かな。カタパルト時にしか使えそうもない。残念。
『じゃあ、他の属性も試すか。まずは基本属性だな』
土と水は微妙だな。威力は勿論上がるが、どちらも衝撃力が増す効果の様だ。打撃武器なら有用なんだろう。
ただ、風は良い。切れ味が凄まじく上昇するのだ。火属性の熱の様な追加効果は薄いが、単純な攻撃力なら風の方が上だろう。
『闇はどうだ? そもそも込められるのか?』
「やってみる」
おお、闇の剣だ。かっこいい! ただ、効果がよく分からないな。切れ味が上昇してるのは確かなんだけど……。
『ウルシは分からないか?』
「オウン」
闇魔術はウルシの方が得意だし。何かヒントにでもなればと思ったんだが。
『あ、ウルシ!』
「ギャン!」
ウルシがクンクン匂いを嗅ごうとして、悲鳴を上げる。おいおい、何してるんだ。
ステータスを確認してみると、MPが減っているな。どうも、MPにダメージを与えるみたいだ。しかも、触れただけでこれか。
「クゥ」
「だいじょうぶ?」
「オン……」
尊い犠牲のおかげで効果が分かったぞ。よし、次行こうか。
「次は雷」
『よし、やるぞ』
俺の刀身で、パチパチと電気がはじけた。フランが木に切りつけて試す。
これはかなり有用だった。弱ければスタンガン的に。強ければ相手を内部から焦がすことも出来そうだ。しかも、電気なので防ぐのも難しいだろう。対人戦ではかなり効果的なはずだ。
「雷鳴剣かっこいい」
『フランはこれが気に入ったか』
「ん。ビリビリ凄い」
「オン!」
フランがパチパチしている俺をシャキーンと掲げる。隣にいるウルシの体毛が逆立って、まるでハリネズミみたいになっていた。ぶっちゃけダサキモイ。どちらも楽しそうだからいいけどね。
次に試すのは特殊属性だな。回復、補助あたりを試す。だが、どうやっても属性剣は発動しなかった。基本属性と、光闇、複合属性しか属性剣にできないらしい。
『次は、フランが新たに得た固有スキルだ』
「ん。魔力収束」
魔導戦士に転職したことで得た新スキルだし、俺とは共有できないスキルだからな。アドバイスもできない。まずは、フランに使ってもらうか。
魔力収束:魔力を操り収束させることで、魔力消費を上げる代わりに、魔術や戦技の威力をアップさせる。
説明的には、俺が魔法使いスキルでやった、限界突破っぽい。
『慎重にな?』
「ん」
フランがまずは普通のファイア・アローを放つ。いつも通りの炎の矢が、5本生み出される。1番使い慣れてるしな。比較にはちょうどいい。
そして、次に魔力収束verだ。
「ファイア・アロー」
ボボウ!
『おお! これは凄いんじゃないか?』
大きさは倍ほど、矢の数も倍近い。1発1発の威力もかなり高いみたいだ。
『もっと精密にできるか?』
「やってみる」
実験の結果、魔力収束は相当使えることが分かった。1発だけしか生み出さず、威力を数倍に引き上げたり。威力は変えず、20発近くを打ち出すことも可能なのだ。
その代り消費は3倍近いけどね。まあ、俺が居れば、魔力は心配ない。
何よりも、専用スキルで行う故に無理がないのがいい。俺は魔法使いスキルで無理やり行っているので、どうしても制御がきかない。威力が高すぎて、自分にまで影響が出るし。
フランの魔力収束は、魔法使いスキルほどの出力はないが、きちんと制御が可能なのだ。さすが上位職の固有スキルだね。
スキルの検証はこんなところかな?
「次は何する?」
『うーん、そうだな。じゃあ、あれ試しちゃうか?』
「あれ?」
「オウン?」
『スキルスペリオル化だ!』
「おお」
今回の依頼で、途中倒したゴブリンの魔石は確保してある。勿論、剣術持ちだ。
『色々あって、自己進化ポイントをどう使おうか迷ったが……。スペリオル化の実験はやっておくべきだと思うんだ』
スペリオル化が有用かどうかは知っておきたいし。残念スキルなら、心置きなく切り捨てられる。
「ん、賛成」
『じゃあ、やるぞ?』
「ん」
残り自己進化ポイントは41。そこから10支払い、剣術をスペリオル化する。
〈剣術:LvMaxのスペリオル化を行います〉
アナウンスが響いてから数秒。俺がまばゆく輝く。なんかすごいぞ!
〈スペリオル化が完了しました。剣術:LvMaxが、剣術:SPに変化しました〉
名前は微妙だな。単にSPという表記に変わっただけ。さて、どんなスキルなのか。
剣術:SP。特殊スキル。装備登録者の剣術スキル成長速度を大幅上昇。装備登録者の全ステータス+2。剣術系スキルの威力上昇。
剣術の威力上昇は予想の範囲内だ。ただ、成長速度大上昇と、ステータス+2は、地味に凄い能力だ。スペリオル化は、俺ではなく、装備登録者の成長と強化をメインで考えられているってことか。
しかし、剣術成長速度大上昇ね。いずれ、俺の力が無くても、フランが剣術の高みに到達する日が来るのかもしれないな。
『フラン、剣を振るう感覚はどうだ?』
「いつもと変わらない」
『剣技は?』
「ん。ドラゴン・ファング」
ちゃんと発動しているな。剣技も問題ないか。フランの持つ剣術:Lv3よりレベルが上の剣技も発動しているってことは、剣聖術があれば剣技の発動は問題ないってことだろう。まあ、剣術を取り直して育てる必要はなくなったみたいだな。
スペリオル化。悪くないよ。ただ、絶対にした方がいいかと言うと、微妙だ。優先順位で上に来づらい感じだよね。まあ、今回試した剣術は下位スキルだし、魔術なんかはどう変化するかも分からないし。もう少し試してみたいが……。
「他のスキルもスペリオル化する?」
『うーん。いや、今はやめておこう。それよりも、相談したいことがあるんだ』
「相談?」
『ああ。今回のダンジョンで、俺も色々反省した』
「ん。わたしも」
『それで、今までは剣術とか魔術とか、戦闘に有用なスキルばかりレベルを上げてきたじゃないか? でも、もっと違うスキルを上げるべきかと考えたわけだ』
「なるほど」
広い空間のある屋外と違って、ダンジョンでは逃げ道も限定される。そこで生き延びるためには、戦闘能力だけではダメなのだ。それを思い知った。
俺の考えた候補がこれだ。
詠唱短縮:Lv1、危機察知:Lv1、気配察知:Lv2、瞬間再生:Lv1、状態異常耐性:Lv3、魔力障壁:Lv1、罠感知:Lv1
危機察知、気配察知、罠感知は、罠や危険な敵を事前に回避することを目的に選んでみた。
詠唱短縮は戦術の幅を広げることが目的だ。
瞬間再生、状態異常耐性、魔力障壁は、ピンチを乗り切る際に有用だろう。
残り自己進化ポイントは31。1つはMaxに出来る。もしくは、3つほどに分散して平均的に上げるか。
俺としては、探知系スキルは1つ上げておきたい。ダンジョンに向かう事を考えると、罠感知かね?
『フランはどうしたい?』
「うーん」
フランと話し合った結果、気配察知、罠感知、詠唱短縮、状態異常耐性をLv5ずつに上げることにした。
今すぐダンジョンに潜る訳じゃないから、緊急用にポイントを取っておこうかとも思ったのだが……。今レベルを上げてしまうことにした。俺達ってば、結構ポイント使いが荒いし? 気になるスキルを手に入れたら、使いたくなるかもしれない。だから、ここで必要なスキルに割り振っておくことにしたのだ。
これで、ダンジョン探索の安全性がぐっと上がったぞ。ポイントは5まで減っちゃったけどね。
『これでダンジョンでも安心だ』
「ん」
「オン」
『でも、油断はしないぞ?』
「もちろん」
「オウン!」




