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592 カーナの情報


 ウィーナレーンから改めて原因の調査を頼まれた俺たちは、ロブレンとの合流地点ではなく、未だに野営地の中を歩いていた。


 キャローナたちに挨拶するためだ。


 フランはウィーナレーンからの依頼で、キャローナたちの班の教官役を外れることになってしまった。しかも、ウィーナレーンの迫力に負けて、挨拶もできずに調査に出てしまったのだ。


 キャローナやカーナに何も言えなかったことを、フランが気にしているようだった。それを責めるような娘たちではないだろうが、挨拶くらいはしておきたい。


 そのまま生徒たち用の天幕に向かうと、中ではキャローナたちの班と、冒険者のチャールズ。さらに顔見知りの教官がいた。彼がフランの代りにキャローナたちの護衛になったのだろう。


 どうやらこれから依頼に向かうところであったらしい。しかし、フランを見付けると笑顔で出迎えてくれた。


「フラン! 戻ってきたのですか?」

「ん。ウィーナレーンに頼まれた仕事のせいで、キャローナたちに挨拶できなかったから」

「では、わざわざ挨拶に? ありがとうございます。しかし、湖の異変の調査と聞いていますし、仕方ありませんわ」


 ウィーナレーン直々の頼みの重さを理解しているらしい。それに、キャローナたちもこの国で生まれた身として湖の異変に興味があるらしく、皆から質問攻めにあった。


 フランはキャローナたちに、モドキが緋水薬を狙っている可能性が極めて高いことを伝え、水辺に近寄る際は周囲に緋水草がないかどうかを確認するように忠告する。


 ああ、当然ウィーナレーンの許可は取っているぞ?


 キャローナたちにはまだ調査中であることなどを理由に、情報を広めないように言ってある。ウィーナレーンの命令だと伝えたので、言いふらすことはしないだろう。


 ほぼ間違いないとは思うが、それでも未確定な情報だからな。ウィーナレーンはこの情報が変に広まったら、民衆の間に不安が広まったり、吊し上げが横行するかもしれないと危惧していた。


 魔女狩りめいたことが行われないとも限らないのだ。


 そう考えると、今の段階で噂が広まるのはまずいということなのだろう。


 まずは、モドキが本当に緋水薬を狙っているのかどうか、確定させる必要があった。まあ、そちらはウィーナレーンが調べてくれるそうなので、俺たちは当初の予定通りロブレンと一緒に商業船団に向かうつもりだ。


 キャローナたちは不安そうな表情をしている。風土病の特効薬が魔獣に狙われているとなれば、やはり国民にとっては他人事ではないのだろう。


 そんな中、少し違う反応をしているのがカーナである。不安よりも、驚きの方が強いように見える。


「カーナ?」

「あ、いえ……」


 フランも気になったらしく、カーナに声をかけた。


「どうしたの?」

「……フランさん、少しいいでしょうか?」


 すると、カーナが意を決した表情でフランを見つめた。そのままフランの手を取り、皆から少し離れようとする。


「……実は、提供できる情報があります」

「湖の異変に関して?」

「まだそこに繋がるかは分かりませんが……。実家の伝手を使って調べてもらった情報なので、できればフランさんにだけお伝えしたいのですが」


 カーナがそう言うと、キャローナは納得した様子で自ら距離をとった。他の班員たちもキャローナに促され、それに倣う。


 貴族や商会の伝手というと、それだけで色々と重要な情報が含まれているかもしれないからな。自身が貴族なだけあって、キャローナは自分たちが聞かない方がいいと理解したのだろう。


「それで?」

「情報は、緋水薬に関するものです」


 カーナはこの国に入った直後から、緋水草やそれを使った薬に関して調べていたそうだ。価格や原料、効能に至るまで、移動中も色々と情報を仕入れていた。


「なんで?」

「商材として使えないかと考えたのです」


 この国では、風土病の特効薬の原料としてしか認識されていない緋水草。だが、まがりなりにも魔法薬の素材である。研究次第では様々な利用方法があってもよさそうだった。


 カーナは緋水草を仕入れて、国外に販売できないかと考えたらしい。さすが商会の娘である。


 しかし、それがかなり難しいようだった。命に関わることは少ないとは言え、病は病。その特効薬の原料で、栽培が不可能である緋水草は、国外への販売がほぼされていない状況だった。


 禁止されているわけではない。ただ、多くの国民が国外へ大量に出荷することを嫌がる傾向があった。商人も例外ではない。やはり、いざという時に特効薬が不足したらと考えると、緋水草を輸出することに二の足を踏むようだ。


 もし自分の仕事が原因で薬不足になれば、この国で生きていくのも難しくなるだろうしな。


「それでも何か道はないかと思い、色々と調べていたんですが……。ある時に違和感を覚えまして」

「どんな?」

「大量の輸出は無理でも、少量を購入することは難しくありません。そこで、まずは緋水草を各地で購入して、実家に送ることにしました」


 購入場所をあえて変えたのは、生育地域による差異を調べる目的があるからだ。まあ、そうしないと、研究用に必要な数を集められなかったということもあるが。


 しかし、カーナがふと値段の差に気が付く。普通は多く採取できる湖近辺が安く、離れれば離れるほどに高くなるのが当然だ。しかし、緋水草は湖周辺が一番高く、魔術学院の周辺では例年通りの値段で販売されていた。


 しかも高騰の理由が、東部地域での患者数の増加と言われていたんだが……。


「風土病患者の増加など、起きていません」

「……ほんと?」

「はい。実家の伝手を使い、ベリオス王国内の各都市の風土病患者の数を調べました。どこも例年通りだそうです」


 だが、実際に緋水薬の不足が起きているぞ?


「では、国内で販売されたことになっている緋水薬は、どこに消えたのでしょうか?」

「それも分かってる?」

「緋水薬の流通は特殊です。開発に成功した工房と契約を結んだある商会が、ほぼ独占している状態ですね。そして、その商会は――裏でレイドス王国とつながりがあります」

「!」


 まじかよ。じゃあ、今回の異変、レイドス王国が裏で何かをしている? 


「まだ、何が起きているかは分かりません。しかし、湖の異変と同時期に、新たな特効薬が開発され、その商売にレイドス王国の影がちらついている……。さらに、情報が何者かに操作されている形跡があります。よほどしっかり調べないと、風土病患者の増加がデマである可能性には気付けないでしょう」


 その商会が今回の異変に無関係なのか。それとも何らかの陰謀が絡んでいるのか。急にきな臭くなってきたぞ。


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