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588 都市伝説・幻の屋台


 俺たちは、キアーラゼンの町にやってきていた。


 ここにロブレンがいると聞いたのだ。


 他国にも近く、湖畔の乙女の伝説も残る。湖に起きた異変の調査をするには、外せない場所と言えるだろう。


 それに、レーンの屋台にも、もう一度行ってみたい。


 だが、以前の場所に彼女の屋台はなかった。場所を移したのかと思って町を巡ってみたが、どこにもいない。


 最後は、この町の屋台を取りまとめている商会に向かって、話を聞くことまでしたのだ。すると、そんな名前の商売人などいないという返答であった。


 嘘ではなかったし、いい加減な返答でもないだろう。なにせ、ウィーナレーンの名前を出したうえに、冒険者カードまで見せたのだ。さらに俺も分体創造を使って、保護者として同伴している。


 これは人としての精神を保つために、このスキルが有効かどうか試す意味もあった。この状態で人と会話をしてみて、どうなるか。


 大物の名前に加え、高ランク冒険者が相手だ。町の屋台を差配している担当者は、青い顔で震えていた。名簿を何度も見直す姿を見て、ちょっと可哀そうになったほどだ。


 その様子を見かねた商会長が対応を代わってくれたのだが、彼が調べても結果は変わらなかった。


 ただ、1つだけ心当たりがあるという。


「この町には、ある都市伝説がございます」

「都市伝説?」

「真偽定かではない、非常に不確定な話なのですが……」


 いつからか分からないが、普通には出会うことのできない幻の屋台があるという噂が、商人の間で囁かれているらしい。


 いつ何時、どんな場所に現れるかは分からないが、旅の人間が不思議な屋台に遭遇し、驚くほど美味い食べ物を売ってもらったという話があるそうだ。


「その屋台の売り子は、黒い布で目を隠した、不思議な姿をした少女だそうです」

「ん。間違いない。それ」

「まさか本当だったとは……。ただ、そうなりますと、我らとしてもこれ以上の情報はありませぬ。以前にも探そうとした者がおるそうですが、結局見つけることはできなかったと」

「そう……」

「その正体にしても、湖畔の乙女が人の営みを見るために少女に扮しているのだとか、悪魔が人の姿をとったのだとか、無数にありますからな」


 結局、何もわからんということか。ただ、過去に探し出せた者はいないらしい。手掛かりすらつかめないそうだ。


 レーンはステータス偽装系の能力を所持しているんだろう。それこそ、俺の鑑定さえ完璧に欺くレベルだ。


 まあ、ウィーナレーンの話では、元々高位の精霊であるうえ、大魔獣と融合している。さらに、ウィーナレーンとも契約状態なのだ。圧倒的に格上だろう。何もされていなくても、鑑定できない可能性が高い。そこに偽装スキルを重ねられては、どうしようもなかった。


 あとは、認識阻害能力も持っているかな? 精霊だから普通の人間には見えないんだが、それだけでは屋台まで発見されない理由にはならない。多分、自分以外の者にも及ぶ認識阻害を使えるんだろう。


『まあ、発見できないものは仕方ない。ロブレンのところにいこう』

「どう? 何か変わった?」

『うん? ああ、この体か?』

「ん」


 フランが首を傾げて分体を見ている。ただ、俺的には微妙な感じだった。


『うーん、なんだろうな……』

「ダメだった?」


 そもそも本体は剣で、同時に分体も動かしているわけで、完全に人の体に戻ったわけではない。それに、分体は感覚が弱く、人の体であるとは到底感じられなかった。


 フルダイブVRゲームのアバター風? ともかく、これじゃない感が非常に強かった。むしろ、人のふりをすることで、より自分が剣なのだと思い知らされた気がする。


 あと、フランが微妙に嫌そうなんだよね。フランにとって俺は剣だ。それが当然で、久しぶりに見る俺の分体は違和感があるらしい。


『まあ、目指している方向とはちょっと違うし、頻繁にこのスキルを使うほどじゃないかな?』

「ふーん」


 と言いつつ、フランはちょっと嬉しそうだ。やはり分体創造があまり好きではないらしかった。


 今後は、時おり使っていってはみるが、ずっと分体を出しっぱなしということはないだろう。


 俺は分体を消して、フランを促す。


『さ、港いくぞー』

「おー」


 情報によると、ロブレンは1時間ほど前までは港にいたそうだ。


 この辺ではすさまじい有名人なので、商人たちに聞いたらすぐに居場所が判明したのである。


 言われた通りの場所に向かうが、そこで俺たちは予定外の人物と鉢合わせしていた。


「あれ……えーっと……」

『シエラだ』


 そこにいたのは、殺気の少年こと、シエラであった。


 漆黒の刃を持ったどこか禍々しい印象の剣を逆手に持って、何故か湖に剣先を浸けている。何をしているんだ?


「――だね」

「――かな?」


 小声で何かをブツブツと呟いているが、ハッキリとは聞き取れない。誰かと喋っているような雰囲気もあるが、周りには誰もいない。独り言をつぶやく癖があるんだろうか?


 そのままさらに近づくと、シエラ少年がバッとこちらを振り向く。


「……!」

「……」


 暫し見つめ合うシエラとフラン。


 興味深げなフランとは対照的に、シエラがフランに向ける視線には殺気が籠っていた。


数日家を空けるので、誤字の反映が少し遅れると思います。ご了承ください。

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