57 アレッサに帰ってきました
本日2回目。
帰還の途についた翌日。
俺達はアレッサの町へと帰ってきた。ただ、門の前が騒がしいな。
『何か騒いでるぞ?』
「人がたくさん来る」
確かに、大勢の人間が向かってきていた。その恰好は、どこかで見た覚えがあるな。どこだっけ?
「騎士団だな。どうしたんだ?」
クルスの言葉で思い出した。そうだ、オーギュストの身に着けていた鎧とそっくりなのだ。特に、先頭を走ってくる男性の鎧は、オーギュストの物に似ていながら、より豪華な装飾が施されている。
「雑魚騎士団」
「あら、言い得て妙ね」
「ちょっと、お二人とも。騎士団の前で絶対に言わないでくださいよ! プライドだけは高いんですから!」
「分かってるわよ」
「ん」
分かっているさ。正直、騎士団に対して良い印象はないけど、わざわざ敵対しようとも思っていないし。でも、向こうから絡んで来たら分からないぞ?
『とりあえず、ウルシは大人しくしとけよ?』
「オン」
すでに小型化しているが、目立つことに違いはないんだし。騎士に難癖付けられても面倒だからな。
「それに、大丈夫じゃない? あれは団長のウルスだし」
そう言えばギルマスも、団長だけはまともだって言ってたな。
「おお、そこにおるのはアマンダ殿か!」
「ええ。お久しぶり」
「うむ。お主が居るのであれば心強い!」
豪快そうなオヤジだな。ドナドよりも背は低いが、顔の濃さは同じくらいか。一言で表すのならマッチョダンディだ。
名称:ウルス・ベンドーロ 年齢:52歳
種族:人間
職業:盾騎士
状態:平常
ステータス レベル:50
HP:527 MP:223 腕力:218 体力:274 敏捷:132 知力:103 魔力:119 器用:122
スキル
威圧:Lv3、拳闘術:Lv4、硬化:Lv4、危機察知:Lv2、騎乗:Lv4、指揮:Lv6、盾技:Lv8、盾術:Lv8、状態異常耐性:Lv4、槍技:Lv3、槍術:Lv6、挑発:Lv7、毒耐性:Lv7、魔力感知:Lv2、気力操作、体力中上昇、不屈
称号
男爵、アレッサ騎士団長、守る者
装備
上質のミスリルの槍、上質のアダマンタイトの重盾、銀鉄の全身鎧、赤獅子のマント、精神異常耐性の腕輪
ドナドよりちょっと強いかな。ドナドは攻撃型の重戦士、ウルスは防御型の重騎士だ。
「何かあったのかしら?」
「うむ、結界に反応があった。脅威度Cの魔獣がこの近辺におるぞ」
「それで、討伐に?」
「ああ、まずは外出を制限して、町の外をしらみつぶしにせねば。ギルドへの応援要請もすませておるぞ」
へえ。本当にまともみたいだな。なんか、普通に騎士だ。
「若い騎士が多いわね」
「我が騎士団も色々あってな。綱紀粛正を行ったのだ。問題のあった者たちが消え、やる気のある若いのが増えたのだよ」
間違いなくオーギュストの問題が発端だろうな。奴とその取り巻きが消えて、まともな騎士が増えたわけか。
というか、脅威度Cの魔獣? それって――。
ダンジョン調査に同行していた冒険者たち全員の視線が、フランの横でお座りをしているウルシに向けられた。
「ウルシのこと」
「オン」
「むお! そ、それは……魔獣かね? 小さいが、凄まじい魔力!」
「多分、あなたが言ってる魔獣って、このウルシちゃんのことじゃないかしら?」
「……アマンダ殿の従魔かね?」
「いいえ。このフランちゃんのペットよ」
「ほほう。この少女の……? いや、もしかして噂の魔剣少女かね?」
誰かも言ってたな、魔剣少女。そのうち広まったりしないよな。
「まあ、従魔であるなら構わんが……。何か目印を付けてくれんかね?」
「分かってるわよ。門を通る前にスカーフでも巻いてあげるわ。あとで従魔証を発行してね?」
「分かっておる。では、少し質問をさせてもらうぞ? 書類はこちらで代筆しておくのでな」
「気が利くじゃない」
「まず、種族はダークネスウルフで間違いないな?」
「ん」
ウルスが取り出した小さい羊皮紙に、何やら書き込んでいる。従魔証ってやつを発行するために必要な項目をメモってるみたいだな。
「えー、個体名は?」
「ウルシ」
「ウルシね。主人はお主じゃな? 名前は?」
「フラン」
「では、性別は?」
「? ちょっとまって」
あれ? そう言えば、俺も知らんかったな。全然気にしてなかった。
「ヒャイン!」
きゃー、フランてば大胆! なんとウルシの後ろに回り込むと、クイッと尻尾を持ち上げて、アレの有無を確認したではないか! ふっ、幼さゆえの過ちか……。ウルシは災難だったね。
「雄だった」
「クゥゥン……」
「お、おお、そうか」
この後ウルシは赤いスカーフを巻いてもらい、無事にアレッサに入ることができた。従魔証という、使い魔だという事を証明するワッペンも貰ったし。これを首輪か装備品に付けないといけないらしい。
まあ、冒険者ギルドで似た様な騒ぎがあったけどね。
「……まったく、今度は脅威度Cの従魔ですか? 本当に話題に事欠かない方ですね」
開口一番、ギルマスに嫌味を言われた。仕方ないんだけどさ。ちょっかい出してきた冒険者が、本当の大きさに戻ったウルシに頭から丸齧りにされたりしたし。いや、殺してないよ。ウルシだって加減して甘噛みだったし。それでも血だらけで半死半生だったけど。
「しかもユニーク個体のダークネスウルフ? ただでさえ珍しい種族だというのに」
なぬ? ユニーク個体? 聞き捨てならんことを聞いたぞ? ウルシってば、単なるダークネスウルフじゃないのか?
「ユニーク個体? ウルシが?」
「おや、気づいていませんでしたか? 普通のダークネスウルフは完全な漆黒の毛並みですが、この個体は首周りの毛に赤い物が混じっています。スカーフに隠れて見え辛いですがね。それに、ユニークスキル。これも、本来のダークネスウルフは持っていなかったはずです。レベル1で習得しているなど、ユニーク個体としか考えられない」
まじっすか。全然知らなかった。他の個体を知らないし。ダークネスウルフのデフォルトなんだとばかり思っていた。
「まあ、それは置いておいて。依頼達成ご苦労様でした。アマンダがあなたの強さを証明していますし、従魔のこともあります。貴女を侮るものはもういないでしょう。特に、アマンダのお墨付きは商人や冒険者の口からすぐに広まります。ウルムットに着くころには、噂になっているかもしれませんよ?」
「ん」
「あとでギルドカードを受付へ持って行ってください。ウルムットのダンジョンへの入場許可印を押させていただきます」
よしよし。これでダンジョンへ入れるぞ。
「ん。じゃあ行く」
「ああ、下でご職業を確認されたらいかがです? 就ける職業が増えているかもしれませんよ? 普通は変更に500ゴルドかかりますが、今回は無料で構いません。餞別のかわりです」
それが餞別って……。けち臭! まあ、もらえる物は貰っとくけどさ。
「ありがとう」
「ウルムットへはいつ発たれるので?」
「近日」
「そうですか。寂しくなりますね」
「……心がない」
「はっはは。そんなことは有りませんよ。良くも悪くも、貴女には驚かされましたからね。まあ、これでまた静かな日常が戻るという安心感もありますがね」
「ん。お世話をかけました」
フランがペコリと頭を下げたのを見て、ギルマスが目を丸くしている。よほど驚いたらしい。ふふん。フランだって、これくらいはできるんだぜ?
バタン
「ふぅ。最後まで驚かされっぱなしでしたねぇ」