表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
585/1337

583 人と剣


 俺が、精神まで剣になりかけている。傍観者になろうとしてる。


 レーンはそう言っていた。


 だったら、人間らしく、そしてフランの保護者らしく在ろう。


 言われてみれば、最近の俺は口数が少なかったように思う。それに、フランに行動の決定を投げてしまっていた。いや、今までだって、フランがやりたいと言うことは全部やらせてきたつもりだ。


 だが、最近の俺はフランを信頼して任せるというよりも、判断を投げている感じだったかもしれない。


 意識してしまうと逆に難しい気もするが、まずは会話から取り戻していこうと思う。


『なあ、フラン』

「なに?」

『さっき、ゼロスリードがロミオの名前を呼んだのを聞いたとき、驚いてただろ? あれ、どうしたんだ?』


 こんな会話でも、フランは嬉しそうに応じてくれる。


「あいつの声、同じだったから」

『同じって、誰と?』

「師匠」

『は? 俺と同じ?』

「ん。師匠が、私に『大丈夫か?』って聞く時と、同じ声だった……。優しい声」


 予想外の答えだった。


 俺と奴の声が似ている? 優しい声? 勿論、声質ではなく、その雰囲気がということだろうが……。俺自身には分からないが、フランには確信があるらしい。


『ゼロスリードが、ロミオを本当に心配してるっていうのか?』

「ん」


 マグノリア家の血が、何か影響を及ぼしているという話はあったが……。


『マグノリアの血っていうのは、そこまで強力なのか? 精神の根底から変えてしまうほどに?』

「分からない。でも、あの言葉は本当だった。絶対に」

『……フランがそう思うのであれば、俺はそれを信じる』

「ん」


 フランが狼狽していた理由も分かった。仇であるゼロスリードがロミオに向ける優しさを目の当たりにして、驚いたのだろう。


 あとは、ゼロスリードの良い変化と、俺の悪い変化を比べて、悲しい気持ちになったらしい。


 俺は……ダメな保護者だな。フランを悲しませていたことに、気づきもしなかった。


「ねえ、師匠」

『うん? なんだ?』

「今日は、一緒に寝て、いい?」

『……勿論だ』

「オンオン!」

「ウルシも一緒」

「オン!」


 こんな楽し気な笑みを浮かべるフラン、久しぶりに見たかもしれない。その事実に愕然としてしまう。


『じゃあ、みんなで一緒に寝るか!』

「オン!」

「ん!」


 フランが俺を抱きかかえたまま、ベッドにダイブする。


 俺の刀身は剥き出しである。フランは甘えたいときは、こうやって鞘無しで抱きついてくるからな。ああ、すでに形態変形で刃は消してある。


「ねえ、師匠」

『なんだ?』

「……明日、朝ご飯作って?」

『明日?』

「ん。ダメ?」

『いいぞ。何がいい?』

「パンケーキ」

『お、そうか。久しぶりに作るか』

「ん。ねえ、師匠」

『なんだ~?』

「あのね――」


 ウルシの毛皮に包まれながら、俺とフランは語り合った。特に実のある話ではなく、単なる雑談だ。


 だが、今の俺たちには、一番重要なものだろう。フランが嬉しそうにしてくれている。

それだけで俺も嬉しくなる。


 1時間近く話をしていただろうか。フランが眠気に耐えられずに寝落ちしたことで、俺たちの会話は終了した。


『……寝たか』

「すーすー」

「グーグー」

 

 もう、俺のことでフランを悲しませない。絶対にただの剣なんかになってたまるか。


 ウルシと抱き合って寝ているフランを見て、そう思えた。


『アナウンスさん』

〈はい〉

『俺の精神は……。俺の心は、剣になりかけているのか?』

〈是。個体名・師匠の精神は、剣という器に適応し始めています〉

『そうか。なあ、どうすれば防ぐことができる? どうすれば、フランを悲しませずに済む?』

〈その要求は、相反しています。明確な回答を用意できません〉

『は? どういうことだ?』

〈精神を人として保つ方法は簡単です。剣への適応システムを消去すれば、解決します〉


 適応システム。そんなものが俺に備わっていたのか。それによって俺の精神が剣になりつつあるらしい。


『相反するって、俺が剣への適応をやめたら、フランが悲しむってことか? なんでだ?』

〈適応システムは、神が用意した救済です。適応を止める事で、個体名・師匠が精神的安定を欠き、狂ってしまう確率88%〉

『な……!』


 俺の精神が剣になろうとしているのは、神様が与えてくれた救いだっていうのか? いや、確かに剣に人の精神を入れたら狂うっていう話だった……。


〈個体名・師匠が狂うことで、個体名・フランが悲しむ確率100%〉


 つまり、俺が剣になることを止めれば、いつか狂ってフランを悲しませる。だが、このまま剣になってしまえば、それもフランを悲しませるってことか?


『だったら……どうすればいい? 俺は、どうすれば……』

〈提案。個体名・師匠が人の精神を保持しながら、剣として狂わないだけの精神の柔軟さ、強靭さを身に付けることに成功すれば、問題ありません〉

『それって、可能なのか?』

〈成功する確率5%〉

『……ゼロじゃないんだな?』

〈是〉


 ついさっき、もうフランを悲しませないって決めたばかりなんだ。だったら、可能性は低くても諦めるつもりはなかった。


『やってやろうじゃないか。アナウンスさんも、手伝ってくれよ?』

〈是〉


 何故だろう。いつも通りの無機質な声なのに、アナウンスさんが喜んでいるような気がした。気のせいか?


次回、次々回は2/12、2/15の更新です。その後、2日に1回に戻す予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言]人化をスキルとして持ってるやつを狩る…うーん、居るか?良心痛まずちょうど良いやつ。もしくは人に擬態出来るタイプのスキル…とにかく五感が復活すれば多少は人格復帰するはず…!
分身使っても五感とかは感じられないんだよな?せめてそこら辺機能すりゃ人間であるという意識が薄まるのをある程度防げそうだけど
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ