581 時と水の精霊
ちょっと短めm(__)m
「! 私はもういく」
フランは最後にロミオの顔を見ると、足早に天幕の入口へと向かった。
「……」
「……!」
ゼロスリードが戻ってくるのを察知したのだ。入り口ですれ違うが、互いに言葉を発することはない。
しかし、すぐに背後からゼロスリードの声が聞こえた。
「ロミオ!」
顔を見た時は無表情だったフランが、ゼロスリードの声を聞いて目を見開く。その顔に浮かぶのは、苛立ちや怒りの感情ではない。どちらかと言えば、驚きと狼狽だろうか?
『フラン、どうした?』
「……なんでもない」
とてもそうは見えないんだが……。今の言葉のどこにそんな驚く部分があったんだ?
フランは無言のまま歩き続け、自らの天幕に戻ってきた。
先程見せた狼狽の表情はもうなく、表面上では落ち着いているように見える。ただ、フランはゼロスリードのことになると、かなり感情的になる。ナーバスと言ってもいい。
声をかけるべきかどうか……。
俺が悩んでいると、不意にフランに声がかけられた。
「何か悩んでいるの?」
「誰!」
『誰だっ!』
「ガルゥ!」
俺もフランもウルシも、大慌てで背後を振り返る。
何せ、気配を一切感じることができなかったのだ。多少気を抜いてはいたものの、決して無防備だったわけではない。しかし、全員がその声の主の気配を一切察知できなかった。
これは異常な事態である。
いや、1つだけ可能な存在がいたな。
それは相手が精霊であった場合だ。俺とウルシには一切の気配を感じ取ることができず、フランもかなり集中していなければ見逃してしまう。
だが、その可能性もなさそうだ。
目の前にいたのは、精霊などではなかった。それどころか、見覚えのある少女だ。
ただし、以前とは違って、眼帯は付けていないが。
「屋台の?」
「お久しぶりね」
それは、キアーラゼンの町で屋台を営んでいた盲目の少女、レーンであった。美しいゆるふわ金髪をハーフツインにした、白い肌の美少女である。
しかし、今は両目を覆っていた黒い眼帯を外し、その瞳を晒している。右目が紫、左目が緑という、いわゆるヘテロクロミアだった。
小さな魔道具によって淡い光が1つ灯されただけの薄暗い天幕の中であっても、まるで彼女の瞳は輝いているかのようにハッキリと見える。
吸い込まれそうな瞳というのは、こういう目のことを言うのだろう。まるで宝石のように煌めきを放つレーンのオッドアイから、目を離すことができなかった。
目の焦点はしっかりとフランに合わされているように思える。盲目ではなかったのか? あの時の鑑定では確かに欠損・両目と表示されていたはずなんだが……。
再度鑑定を試みる。
『なっ!』
(師匠?)
『鑑定が弾かれた』
以前は確かに鑑定ができたはずなのに。それだけではない。
「ふふ。剣さん。無駄よ?」
「……なんのこと?」
「ふふふ」
完全に俺のことがばれている! だが、レーンはそれに関しては追及するつもりがないらしい。微笑みながら、とぼけるフランを見つめている。
「今日は、フランに会いに来たわ」
「なんで? それに、貴方は……精霊なの?」
『なに?』
(レーンから精霊の気配がする)
マジか? 確かに、俺はレーンの気配を全く感じられない。まるで実体のない幻が目の前に立っているかのようだった。キアーラゼンでは人の気配があったはずなんだが……。
本当に精霊なのだろうか? こんな人型の精霊は見たことがない。いや、かなり前に、クリムトが人型の精霊は上級だと語っていたはずだ。
だとしたら、目の前にいる少女は、上級の精霊なのか?
「改めて名乗るわ。私は精霊のレーン。時と水の精霊よ」
「やっぱり、精霊……。すごい。人間みたい」
精霊。しかも右目が紫で、左目が緑? それって、ヴィヴィアン湖を守っているという、大精霊の特徴なんじゃないか?
ただ、精霊と言われると、その神秘さや美しさに納得できた。むしろ、そうでなくては納得できないほどの、浮世離れ感がある。
「今日は、貴方たちに伝えたいことがあって、来たの」
仕事はなんとかなりそうなのですが、無理し過ぎて風邪をひいてしまいました。
申し訳ありません。
次回は2/4更新予定です。
 




