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580 ロミオの異常


 輸送船を襲っていたモドキを倒した日の夜。


 野営地に戻った俺たちは、キャローナたちと反省会をしていた。一日の実習が終了した時、護衛役も助言をすることが許されている。


 フランとチャールズはその日の依頼に関して、失敗点などを挙げていく。ランクが低いとはいえ、チャールズもこの湖を拠点とする冒険者のはしくれだ。


 採取や探索に関しては、フランよりも的確にアドバイスをしていく。


 その反省会が終わったころ、フランは寝床として充がわれている天幕へと向かっていた。ウルシがいるからなのか、1人用の天幕を使わせてもらっている。


 その道中。


 草むらにうずくまっている、小さい影を発見する。動物ではない。ちゃんと服を着ている。小さな子供だ。


 それはロミオだった。


 いや、気配察知でそこにいることは知っていたが、近づいてみるとどうも様子がおかしい。頬と額を真っ赤に上気させ、荒い息を吐いていたのだ。


「っ!」


 フランが急いで駆け寄ると、その小さな体を慌てて抱き起す。熱がかなり高そうだ。幼児特有のぷにぷにのほっぺは熱で赤く染まり、額には大粒の汗が浮かんでいる。


「……」


 ロミオが薄目を開けてフランの姿を確認したのだが、もう言葉を口にする元気さえないようだった。


 フランも、大丈夫かなどと聞くことはしない。明らかに大丈夫じゃないからね。


(師匠、どうしたらいい? ヒール?)

『回復魔術はちょっと待て』

(なんで?)

『体力の消耗がどうなるか……』


 体力のない子供に回復魔術を使うと、余計に体力を消耗してしまい、悪化することがあると聞いたことがある。


 ポーション類も同様だ。それに、怪我なのか病気なのか、単に疲れたせいで体調を崩しているのかも分からない。


 単純に魔術を使えばいいというものではなかった。


 鑑定した結果、ロミオの状態は疲労になっている。だが、それがどこまで信用できるか分からない。


 邪人であるゼロスリードと契約状態にあることで、奴の邪気の影響を受けてしまっている。そのせいで一部の鑑定結果が不明と表示されてしまうのだ。


 スキルにも正体が不明なものがいくつかあるし、ステータスも穴あきになっていて、全てを見ることができない。


『すぐにウィーナレーンのところに連れていくんだ!』

「ん!」


 フランは、そっとロミオを抱き上げる。いわゆるお姫様抱っこという奴だ。フランが誰かをこうやって抱えている姿は新鮮だな。


 ロミオは微かに身じろぎしたが、大きく動く体力は残っていない。結局、されるがままであった。


「頑張って」

「……!」


 フランが声をかけてやると、ロミオの目が驚いたように見開かれる。


 この少年にとって、フランは敵だ。まだ4歳ほどであるロミオにとって、世界はつい最近始まった物であり、その世界においてゼロスリードは頼りになる保護者なんだろう。少なくともロミオはそう認識している。


 奴がロミオの前でどのように振る舞っているか分からないが、少なくとも邪険にしていないのは確実だろう。でなければロミオが懐くはずがない。


 そんな、ロミオにとって無二の存在であるゼロスリードを、理不尽にも攻撃してくる敵。それがフランだ。


 まあ、それに関しては、何も知らない子供に怒っても仕方がないとフランも理解できている。


 だからこそ、ロミオに対して思うところはほとんどない。全く何も思わないわけではないが、敵意に結びつくほどではなかった。せいぜい、苦手意識があるくらいだ。


 今も、体調の悪いロミオを、素直に心配している。


 そして、それがロミオには驚きなのだ。


 混乱した様子のロミオを見て、青猫族のゼフメートと出会った時のフランを思い出した。ゼフメートは、フランが生まれて初めて遭遇した、黒猫族に好意的な青猫族である。


 あの時のフランも、混乱した表情をしていた。今のロミオの顔は、その時のフランそっくりなのだ。


 ロミオは子供ながらに――いや、子供だからこそ、世界は敵味方でハッキリ分かれていると思っている。


 それなのに、自分たちの敵であるはずのフランが、なぜ自分を助けるのか? 理解が及ばないのだろう。


「ウィーナレーン! ロミオが倒れてた!」

「……こちらへ寝かせてくれるかしら?」

「わかった」


 ゼロスリードはいない。どうやら何か雑用をしているようだ。もしかしたらロミオはゼロスリードを捜しにいったのかもしれないな。


 ウィーナレーンに言われた通り、ぐったりとしているロミオをベッドの上に寝かせた。焦る様子もなく、何やら診察めいたことを始めるウィーナレーン。


「ふむ……。疲れが出ただけね。まあ、ゼロスリードの側にいるだけで、邪気の影響も受けるし、仕方ないわ」

「そう」

「これほど消耗していたのね」


 ウィーナレーンがそう言って肩を竦める。他人事だな。いや、他人なんだが……。


 まあ、ハイエルフである彼女にとって、子供時代など遥か昔のことである。ロミオの苦しみにいまいち共感できていないのかもしれない。


「ロミオ、治る?」

「命に別状はないわ」

「そう。よかった」

「意外ね。この子のこと、あなたは嫌っているのではないの?」

「別に」


 ウィーナレーンの質問に、フランがフルフルと首を振って答える。


 嫌ってなどいない。


 ただ、どう接すればいいか分からないだけだ。


次回は2/1更新予定です。

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