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573 校外へ

『想像以上に車列が長いな』

「ん。馬車がたくさん」

「オフ」


 思わず漏らした俺の呟きに、フランとウルシが同意するように呟いた。


 今俺たちがいるのは、レディブルーの外。20メートルほどの上空だ。サラブレッドサイズのウルシに跨ったフランが、長い馬車の列を見下ろしている。


 今日から校外サバイバル実習だ。資材運搬用も含めて、40台の馬車でヴィヴィアン湖まで移動する。


 参加する生徒は200名を超え、その護衛役の教官たちも30名が同行するそうだ。フランの場合は遊撃役を与えられており、全体を見ながら危険な魔獣が出た場合に対応をする。


 逆に、雑魚の場合は生徒たちが対応することになっているので、手出しはしないことになっていた。


 特戦クラスなどの上級生は交代で馬車の護衛をしながら移動する。ただ、目的地まで馬車からほとんど降りず、ずっと護衛をされるだけの生徒たちもいた。


 実は、新入生が30名ほど、この校外サバイバル実習に同行しているのだ。これは学院の伝統らしく、特戦クラスの生徒たちも入学時に経験しているらしい。


 地球でも、上級生との合同林間学校とかあったし、それに近いイベントなのだろう。


 今は幌が取り外された馬車の1台には、同級生と談笑しているカーナの姿が見えた。


 1つの馬車には3人の新入生と、3人の上級生が乗っている。ただし、上級生は常に2人が馬車の外で護衛を行い、交代で休憩する形になっている。


 カーナたちの馬車の護衛役は、キャローナたちの班だ。まあ、そのキャローナたちで対処ができなければ、御者台に乗っている教官が出るし、それでもだめならフランやウィーナレーンがいるのだ。


『さて、俺たちもいくぞ』

「ん。ウルシ」

「オンオーン!」


 しばらくはウルシに乗って、上空から警戒するつもりだ。


 ウルシが空中跳躍によって駆け出すと、眼下の生徒たちがこちらを見上げているのが分かった。


 巨大な狼が空を蹴って走る姿なんて、そうそう見れるものではないからな。ウルシは特に立派だし、きっと絵になっていることだろう。


『デカイのが1匹だけよりも、小さいのがワラワラ出る方が面倒そうだ』

「ゴブリンとか?」

『あとは盗賊とか、虫タイプの群れとかだろうな』


 それに大型の魔獣が突っ込むような事態になれば大惨事だ。強そうなやつは早めに撃破してしまう方がいいかもしれない。


『索敵だけは怠らないようにな』

「ん!」

「オン!」



 出発から6時間。


 車列は最初の休憩所を過ぎ、平原から森林地帯に突入している。ここからは見通しも非常に悪く、今まで以上に警戒が必要だ。


 護衛役の生徒たちにとっては難所と言えるだろう。明らかに全体の緊張感が増しているのが分かった。


 フランはというと、今は車列から少し離れた場所にいる。さぼっているわけじゃないぞ?


 むしろ仕事中だ。


「はぁぁ!」

「ギィイ! ギギッ!」


 森林地帯に生息する魔獣と戦闘中なのだ。相手は、トールトールマンティス。手足が異常に長い、巨大なカマキリだ。体が7、8メートルなのに対して、足が10メートル以上あるだろう。その手足を生かして、深い木々の上を器用に移動する脅威度Eの魔獣である。


 たくさんの獲物が移動する気配や匂いを感じ取ったのだろう。かなりの速さで近づいてきていたので、フランが迎撃に出たのだ。


 魔獣には珍しく、鎌術という武術スキルを所持している。なんと、フランの初撃を鎌で受けるという芸当を見せてくれた。相手の力量を測るために放った牽制とはいえ、中々やるものだ。


 しかも、鎌には電撃を纏っている。雷鳴無効のあるフランじゃなかったら、麻痺させられていたかもしれない。


 ただ、魔獣の抵抗はそこまでだった。鎌の届かない死角を見極めたフランに背中から一刀両断され、崩れ落ちていく。


 こいつは、深い森の中で戦うと頭上から鎌が降ってくる厄介な敵であるそうだが、俺たちのように常に空から攻撃できる者からすると、隙だらけの相手だった。


『大物は片付けたし、馬車に戻るぞ。どうもゴブリンと戦っているみたいだし』

「わかった」


 戻るのは加勢するためではなく、大きな怪我をした生徒がいたら癒すためである。とはいえ、相手はノーマルのゴブリンだし、回復魔術が必要なほどの怪我を負う者はいないだろう。


 特戦クラスの生徒たちは、その程度には実力がある。倒したゴブリンからきっちり角などを剥ぎ取っているし、その手際も悪くない。表情も余裕がある。


 ただ、新入生たちは青い顔をしていた。


 カーナのように落ち着いていられる生徒が稀なのだ。彼女の場合はすでに実戦経験もあるし、ゴブリンを倒せる程度の実力もある。


 しかし、多くの子供たちは戦闘経験などないだろう。それで、いきなり目の前で魔獣との殺し合いを見せられれば、ああなるのも仕方なかった。


「師匠」

『どうした?』

「あれ」

『ああ、天龍の寝床か。よく見えるな』

「ん!」


 フランは眼下の小競り合いには興味がないらしく、遥か上空に悠然と佇む浮遊島を見上げている。


 今日も天龍の姿は見られない。しかし、白い雲に包まれた浮遊島の姿は、何度見ても飽きることはなかった。


 フランもウルシも目をキラキラと輝かせて、浮遊島を見つめている。だが、すぐに視線を大地に戻すと、鋭い目で森林の奥を睨みつけた。


「師匠、ウルシ、いく!」

「オン!」

『今度は群れだな。一気に仕留めるぞ』

「わかった!」


 接近する魔獣の気配を感じ取ったのだ。ゴブリンなどよりも遥かに強い。


 アサシン・エイプという、隠密行動からの一撃必殺を得意とする魔獣だった。大きさはマウンテンゴリラより少し大きい程度だが、その脅威度は巨大なトールトールマンティスと同じEである。


 実際、的の大きなトールトールマンティスよりも、素早く動くうえに人間を即死させるだけの攻撃力を備えたこいつらの方が、厄介な相手である。


 それが6匹。木の枝を踏み台に跳躍を繰り返しながら、凄まじい速度で学院の生徒たちに向かってきていた。


 気配の消し方は熟練冒険者のそれであり、生徒たちは未だにその存在に気付いていないだろう。


「ウルシは右の2匹」

「オン」

『じゃあ、俺が左の2匹をやる』

「ん!」


 そんなアサシン・エイプたちに、俺たちが先制攻撃をしかける。気配の消し方も、察知能力も、俺たちの方が一枚上手だ。しかも転移もある。


 最初の1匹が転移して現れたフランに切り捨てられてから、全滅までに1分かからなかった。森の中で自分たちが奇襲をしかけられるなんて、考えてもいなかったらしい。事切れる大猿の顔には驚愕の表情が張り付いたままだった。


『しかし、この短時間で脅威度E以上が2回。ヴィヴィアン湖に到着するまでは結構忙しそうだな』

「ん!」


 うなずくフランは嬉しそうだ。魔獣相手に暴れてすっきりしたからだろう。まあ、ストレスを溜めてイライラするよりはましか。


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― 新着の感想 ―
[一言]体長7〜8メートルに鎌が10メートル電撃・麻痺付きとか…モンハンのショウグンギザミの開鎌状態よりデカいし状態異常付きかよ、え?これがE?マジ?
なんか思ったよりEランク魔獣、強そうだな……
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