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559 ヒミツの花園



 模擬戦の授業、初日が終了した。


 ボロボロになった生徒たちが、悲壮な顔で整列している。ただ、その顔にはどことなく悔しさも滲んでいるようだった。


 絶望的な力の差を見せつけられて、それでもこの顔ができるとは……。俺の想像以上に根性があったらしい。


「では、本日の模擬戦授業を終了する! 装備などの整備をしっかりと行うように!」

「「「はい!」」」

「それとキャローナ」

「はい、なんでしょうか?」

「フラン殿を生徒用の更衣室に案内してくれ」

「わかりましたわ」


 キャローナがこのクラスに居てくれてよかった。他の生徒だと、確実に怯えられてるし。


 いや、キャローナだって少しビビッている。他の生徒と同じように腹パンしたり、剣技でぶっ飛ばしたりしたからな。


 ただ、多少なりとも会話をしたことがあり、戦闘時でなければ話が通じる相手だと分かっていることが大きいのだろう。


「では、ご案内いたしますわ」

「ん。ありがと」


 キャローナに先導されて、フランが歩き始める。


 しかし、両者の間に会話はなく、沈黙が続いていた。フランはいつも通りだし、キャローナは緊張しているからだ。


 その沈黙を破ったのはキャローナだった。


「あの……」

「ん? なに?」

「その、私たちはどうでしたか?」


 アバウトな質問だな。多分、沈黙に耐え切れずに、思わず口にしてしまった質問だったのだろう。フランも首を傾げている。


「どうって?」

「フラン様に及ばないことは分かっているのですが――」

「ねえ」

「は、はい?」

「様、いらない」

「え?」

「フラン様じゃなくて、フランでいい」


 フランに言葉を遮られて不安そうな表情をしたキャローナだったが、すぐにホッとした様子になる。その代わり困惑してしまったが。


「ですが、フラン様は――」

「同じクラスだから、対等。ウィーナレーンが言ってた。貴族も流民も、強者も弱者も、同じクラスだったら関係ないって」


 実は、ウィーナレーンから学院の説明を軽く受けた時に、言われた言葉なのだ。


 この学院は、かなり特殊な場所だ。外の地位や名誉など関係なく、生徒たちは精霊の下に平等である。貴族が権力を笠に着て横暴に振る舞うことも、強者が暴力を以って他者を脅すことも、許されない。


 逆に、弱者が立場や弱さを理由に怠けることや、平民が貴族に対して日頃の鬱憤を晴らすことも許されないが。


 つまり、フランとキャローナは互いの強さも立場も関係なく、今は対等であるということだった。


 フラン的には、教官の時は偉い。生徒の時は生徒と同じ立場。そんな認識であるのだろう。


「で、では、フラン?」

「ん」

「私たちは弱いのでしょうか?」


 難しい質問だな。フランからすれば弱い。だが、世間的にはそれなりに強いと言えるだろう。それぞれがランクE冒険者並の実力があり、連携も一応できていた。


 オーガあたりであれば問題なく勝てていただろう。今回は相手が悪過ぎた。


 だが、キャローナはそうは思えないらしい。多少なりとも持っていた自信が、木っ端みじんに砕けてしまったようだ。


「私たちは戦いを生業とすることを目標に、特戦クラスを志望しました。私は冒険者を目指しています」

「ん」

「ですが、今回の模擬戦では手も足も出ませんでした。勝てるとは思っていませんでしたが、結局一撃も返すことすらできずに……。このような体たらくで、本当に冒険者になどなれるのでしょうか?」


 自分たちの実力がどの程度のものなのか、分からなくなったらしい。不安げに俯くキャローナに対して、フランが口を開く。


「ん。弱かった」

「そ、そうですか……。そうですよね」

「魔術を使うのに時間がかかり過ぎ。判断も遅かった。レベルも低い」

「はい……」

「キャローナは魔術師なのに前に出過ぎ」

「はい……」

「体術に自信があるのかもしれないけど、あれで倒せるのはゴブリンくらい。もっと鍛えないとダメ」

「うう……」


 おいおい。キャローナが涙目だぞ。でも、本当のことだからなぁ。だが、フランの言葉はまだ止まらなかった。


「あれじゃ、強い魔獣から逃げることもできない」

「……っ。確かに、そうかもしれません。私たちは……弱いのですね」

「ん」

「やはり、私たちなど――」

「でも、誰だって初めは弱い。キャローナたちはこれから強くなればいい」


 キャローナは思わずといった様子で足を止め、フランの顔を見つめた。


「ん?」

「……私たちでも、強くなれますか?」

「当然。鍛えれば強くなる。それは誰でもおんなじ」

「そうですか……」

「ん」


 フランの言葉が慰めではないことが理解できたのだろう。キャローナの目に強い光が宿ったのが分かった。


「私、頑張りますわ。もっともっともっと鍛錬します」

「ん。頑張って」

「はい」


 まだぎこちないものの、ようやく笑顔になったキャローナを見てフランも微笑む。


 その後は、驚くほど会話が増えていた。距離が縮まったということなのだろう。学食の食事が微妙だとか、どこの食堂が美味しいとか、そんな話ばかりだったが。


 楽しく談笑していれば、あっという間に更衣室に到着だ。女子更衣室という看板がかかっている。


 そう、女子更衣室なのだ。


『フ、フラン! まずい! 俺はここに置いていけ!』

(どうして?)

『あ、あ~……』


 入ってしまいました! ヒミツの花園に、中身がオッサンの俺が!


 見てません! 見てませんから! 目はないけど、目瞑ってますから! 俺は無害で紳士なジェントル・ウェポンですよ!


「やだー、お尻にアザできちゃった」

「また胸大きくなった?」

「ちょ、触らないでよ~」


 み、見てないから! 本当に! でもね、音だけはどうにもできんのです! 耳を塞ぐことができないんだもん!


 魔術を使って遮断する方法はあるけど、ここでそんなことしたら不審に思われるかもしれんし。仕方なく! そう、仕方なく声は聞いてしまっているのです。


「あなた、そんなところにホクロあるんだぁ。なんかエッチ~」

「やぁん! みないでよ!」

『……』

(師匠? なんでカタカタ震えてる?)

『何でもないから。早く着替えを済ませて、ここから出ような?』

(?)


 全国の男子諸君。本当に申し訳ない。


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― 新着の感想 ―
師匠…がんば
これまで楽しく物語を読んでいたのに、差別的な感じ方をしてしまって残念に思う気持ちはよくわかるので、難しい問題ですね。 批判された方も、R18とか男性をメインターゲットにしている作品についてはしっかり…
許しがたい 妬ましい
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