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54 ウルシとフラン

「この犬は?」

『犬って……』

「クゥゥ」


 さすがに犬扱いは可哀想だ。


『俺が召喚したんだ』

「ウルシちゃんが出てきたときには驚いたわ~」

『フラン、こいつはウルシ。俺が召喚したダークネスウルフだ』

「ウルシ?」

「クゥン」

「良い子」


 フランが頭を撫でると、ウルシは嬉しそうな声を上げる。


「よしよし」

「ワフ」


 こいつ、狼だよな? なんか、本気で犬に見えてきたぞ。


「ん」

「ハッハッハ」

「あら~、可愛い」


 鼻面、顎、首筋と撫でられる度に、気持ちよさげに目を細め、フランの顔をベロベロと舐めるウルシ。おい、さっき蜘蛛を喰ってたな? フラン、顔を拭きなさい。


 フランも無事だったし、これからどうするか? まずは、冒険者たちとの合流かな。焦っていて全然気にしてなかったが、このダンジョンはクラッドやフリーオンたちにとって、結構危険じゃね? これでやつらが死んでたりしたら寝覚めが悪い。


「ほら、あんたたち起きなさい」

「う……ん」

「ここは、どこだ?」

「あなたたちがパニックになって作動させた、罠の転移先よ」

「あ、そう言えばお嬢ちゃんは!」

「だ、大丈夫か?」


 2人は転移してきてすぐに戦闘不能に陥ってしまったらしい。毒と出血で遠のく意識。朦朧とする中で、フランが自分たちを庇い、戦ってくれていたのは理解できていたらしい。


「助かった」

「ありがとうな」


 ほほう。殊勝に頭を下げる姿は、クラッドの仲間とは思えんな。まあ、命の恩人相手に悪態つくようなクズだったら、ちょっとばかりお仕置きをしてやったけどな!


「オン」

「うわぁ! なんだ!」

「おおお、狼! 魔獣だ!」


 良い反応をしてくれるな。腰を抜かさんばかり――というか、マジで腰を抜かしている。尻餅をついて、絶望的な表情でウルシを見上げていた。


「あああ、アマンダ様! 助けてください!」

「オゥ?」

「ひぃ! ベロが! ベロがぁ!」

「ウルシ、めっ」

「クゥゥゥ」


 アマンダが、ウルシはフランの眷属だと説明してやると、2人はようやっと落ち着いたようだ。


「こんな高ランクの魔獣を眷属にしているなんて!」

「魔獣武器なんて、初めて見た!」


 とか言って、改めて尊敬の目でフランを見ているぞ。完全にフランの虜だな。今にも姐さんとか呼び始めそうだ。


「さて、これからどうするかなんだけど」

「他の人たちは?」

「あなたたちを探しに行ってるわ」


 さて、どうやって探すか……。


「ウルシ、他の人間を探せる?」

「オン!」


 ウルシがサッと寝そべった。そして、フランをじっと見つめる。


「乗せてくれる?」

「オンオン!」

「ん。ありがと」

「あら、頭いいのね」


 伏せてもまだウルシの背は高いが、フランはその背によじ登る。


「ふかふか」

「オウ!」


 フランはウルシの首筋にしがみついた。さらに、俺が念動でフランの体を固定する。これで、振り落とされたりはしないだろう。


 ただ、冒険者A、Bはどうしよう。こいつらの足じゃ付いてこれんだろうし、残していっても危険だし。アマンダに護衛を頼むか?


「ウルシ、運べる?」

「オン」


 ウルシがフランを見て軽く鳴いた。フランがコクリと頷く。


「犬は好き?」

「うん? 唐突に何だお嬢ちゃん? 犬? いや、犬は好きだけど……」

「じゃあ、大丈夫」

「え? うぉぉぉ?」


 冒険者Aの革鎧の襟首を咥えて持ち上げるウルシ。親猫が子猫を運ぶ時の様な格好だ。


『乗せてやりゃいいんじゃ?』

(ワフン!)


 ああ、フラン以外を乗せたくないのね。


「じゃあ、あなたは私が運んであげるわ」

「え? ちょ、アマンダ様?」

「はい、大人しくしてなさいよ」

「うわぁ!」


 アマンダが冒険者Bを小脇に抱えた。いや、明らかに男の方が大きいんだけどさ。異様な光景だな。


「じゃあ、行く」

「ホォォン!」


 ウルシが走り出す。因みに、俺は鞘に入ってフランに背負われている。一応亀裂だけは塞いだけど、完全回復はダンジョンを出てからだな。それまでは、応急処置で我慢しないと。


「ウルシ凄い。空を走ってる」

『空中跳躍がLv8だからな』


 俺たちの持っている空中跳躍:Lv1の様な多段ジャンプ程度とは違い、完全に空中を蹴って走っている。フランはどこか楽しそうだな。


「前方、蜘蛛」


 5匹のトリック・スパイダーがこっちへ向かってくるのが見えた。


「いっちゃえ」

「ホーン!」


 おいおい、ウルシの奴、立ち止まるどころかさらに加速したぞ。冒険者の悲鳴が聞こえるが、あえて無視だ。


「ホフン!」


 ウルシの咆哮に呼応して、漆黒の槍が蜘蛛たちに降り注ぐ。さらに、ウルシが通路を通り抜けた瞬間、左右にいた蜘蛛たちが千切れて舞い散っていた。目にも留まらぬ速さで、前足を振るっているらしい。


『――フレア・ブラスト!』

「――ファイア・アロー」

「――ウィンド・カッター!」


 巣で覆われた通路は、魔術を連打して道を作り出した。巣の強度が上がっているとはいえ、この連打には耐えられないようだな。俺たちは蜘蛛を排除しながら、ノンストップで洞窟を駆け抜ける。


「手ごたえ無いわね」

「ひぃひぃ」

「はぁはぁ」


 アマンダは余裕の表情だが、他の2人は死にそうな顔だな。


 しばらく走ると、一際大きな通路に出た。そして、大量の蜘蛛。張り巡らされた巣のせいで、先の様子が見えない程に、蜘蛛の密集度合いが凄い。しかし、この先から人間の気配が感じられるな。クルスくんたちだろう。どうやって、ここを突破して中に入ったんだ? 他に通路でもあるんだろうか。


 まあ、この程度で今の俺たちは止められんが。魔術を連打して通路を突破すると、そこそこ大きな広間に出た。ゴブリンの巣で、アーミー・ビートルと戦った広場に比べて倍くらいはある。


 そんな大広間に、蜘蛛たちがひしめいていた。床だけじゃなく、天井や壁一面に巣が張り巡らされ、その数は50を下らないだろう。そんな広間に、クルスたちの姿があった。他のやつらも一緒だ。しかし、あの戦力で挑むのはメチャクチャ危険じゃないか? 実際、壁際に追い詰められているし。何人かは状態異常を喰らっている様だ。


「くそっ、斬っても斬っても……!」

「退路さえ塞がれなかったら!」


 どうやら深入りし過ぎて閉じ込められたらしいな。


 しかも、蜘蛛の群れの中央に、一際大きな蜘蛛がいた。全身に生える毒々しい紫色の体毛が、見る者の不快感を煽る。


種族名:トリックスター・スパイダー:妖蟲:魔獣 Lv13

HP:196 MP:110 腕力:71 体力:89 敏捷:103 知力:61 魔力:45 器用:108

スキル

鋭敏聴覚:Lv5、再生:Lv3、跳躍:Lv1、毒噴射:Lv3、投げ縄:Lv4、罠改造:Lv7、罠感知:Lv6、罠作成:Lv6、混乱毒生成、混乱牙、甲殻強化、赤外線視覚、超脱皮、麻痺毒生成、麻痺牙、猛毒生成、猛毒牙

説明:トリック・スパイダーの上位種。罠を利用した狩りを行う。特に、ダンジョンなどに設置された罠を改造する罠改造スキルは非常に厄介。単なる毒噴射の罠が致死性の罠に改造された例や、転移罠の転移先を自らの巣に設定する例などもある。身体能力が低く、接近戦に弱い。脅威度C。魔石位置:頭部。



 やっぱり居たか。トリックスター・スパイダーだ。ステータスも他の蜘蛛より断トツに高い。


 あれがフランを酷い目に遭わせた、蜘蛛どもの親玉か!


『よっしゃ、いっちょリベンジと行くか!』

「ん」

「オオォォン!」



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