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556 最初が肝心


 教官用更衣室でいつもの装備に着替えて、模擬戦場に向かう。残念ながら髪型もいつも通りだ。結ぶのに慣れていないせいで違和感があるらしい。短いツインテール姿でした。


 向かったのは三連塔からやや離れた場所にある、広いグラウンドだ。


 だだっ広い、何もない土のフィールドが広がっている。それこそ、東京ドーム何面分という言葉で表現するような規模だ。


 その模擬戦場に、特戦クラスの面々が着替えを済ませて待っている。先日、冒険者ギルドでキャローナが身に着けていた物と似ているな。本格的な革鎧や金属鎧の上に、学院のエンブレムのあしらわれた外套やローブを身に付けている。


 キッチリ隊列も組んでおり、練度の高さもうかがわせた。無駄口を叩かずに直立して待っている生徒たちの姿に、イネスが満足げに頷いている。


「では、これからフラン殿が貴様らに力の一端を見せて下さる!」


 教官として赴任した者は、最初に実力を示すために模範演武のようなものをするのが習わしであるらしい。


 教官の中から人を選んで斬り合ってもいいし、この広いグラウンドで魔術などをぶっ放してもよいそうだ。大抵の新任教官は、的となる打ち込み用の人形などに武技や魔術を放つことが多いらしい。


 イネスは土魔術が使えるので、人形を生み出すこともできると言われたが、俺たちはもう少し派手にいくことにした。


 こういうのは最初が肝心だし、ここで舐められる訳にはいかないからな。


「ではフラン殿、お願いします」

「「「よろしくお願いします!」」」

「わかった」


 値踏みするような生徒たちの視線に見守られる中、フランはトコトコとグラウンドに進み出る。せいぜい度肝を抜いてやるとしますか。


『じゃあ、まずはこいつからだ』

「ん!」


 まず俺たちが行ったのは、的づくりである。フランが地面に両手を付き、魔術を発動させた。


 直後、生徒たちから悲鳴があがる。


 目の前で地面が急激に盛り上がり、高さ15メートルほどの尖塔ができあがったのだから仕方ないが。


「あ、あれ。どう見ても高位の大地魔術だよな?」

「こ、黒雷姫って、雷鳴魔術使いじゃないのかよ!」

「っていうか、もしかして魔術師なのか? 剣士じゃなく?」


 フランが雷鳴魔術も使える剣士だと思っていたんだろう。しかし、大地魔術を使ったことで、魔術の腕前も凄まじいことに気づいたらしい。


 だが、これはまだまだ序の口である。


「覚醒。閃華迅雷」

「あんな黒い雷、初めて見た!」

「ひぇぇ!」

「こ、こんな魔力……。あ、あんな子供が……!」


 黒雷を纏ったフランの放つ魔力を感じ、多くの生徒たちが顔を青ざめさせている。口数が多いのは、自分たちを落ち着かせるためなのだろう。


 もう実力を見せつけるには十分な気がしてきたが、ここからが本番だ。


(師匠、あわせて)

『おう!』

「はぁぁぁ!」

『せいぜい派手にいくぞ!』


 最初に放ったのは、雷鳴魔術のサンダーボルトだ。フランが2発。俺が4発。計6発の雷撃が土の尖塔に襲いかかり、轟音と共に大きな穴を穿つ。


 だが、これで尖塔が崩れる程の威力はない。最初なので、音と見た目のインパクトを重視してみたのだ。


「次!」

『おう!』


 こちらが本命である。俺とフランがトールハンマーを同時に使用した。フランのトールハンマーに俺の放った2発が重なり合い、凄まじい閃光を放つ。


 上空に描かれた魔法陣から降り注いだ極太の雷光が、土の尖塔を飲み込んでいた。


 生徒たちはもう目も開けていられないらしい。爆風と轟音、閃光にもみくちゃにされながら、その場で踏ん張りつつ悲鳴を上げている。


 十数秒後。目を開いた生徒たちが見たのは、無残な姿の尖塔だった。


「……は、はは」

「い、一発であんな?」

「き、極大魔術じゃないよな?」


 半分以下の長さになった尖塔は、表面がドロドロに溶けて煙を上げている。上半分の一部は蒸発し、一部は粉々に砕けたのだろう。


 それは、生徒たちからすれば信じ難いレベルの魔術であるに違いない。血の気が引くを通り越して、もう笑うしかないという感じだった。


 でも、フランはまだ止まっていないのだ。


 フランの姿が見えないことに気づいた生徒たちが、周囲を見回す。


 直後、上空から凄まじい魔力が発せられ、ようやくフランを発見したらしい。一斉にその顔が上空を仰ぎ見た。


「じゃあ、これで仕上げ」

『おう。かましてやれ』

「ん!」


 フランが繰り出したのは、渾身の空気抜刀術だ。魔術と剣技。フランの実力を見せつけるにはやはりこちらも重要だ。


 生徒たちの目の前で、残っていた尖塔の下半分が斜めに斬り裂かれる。一瞬後に、切断面からズルリと崩れ落ちる尖塔を、生徒たちが最早呆然の体で見送っていた。


 実際、あまりの凄まじさにどれくらい凄いのかさえ理解できていないだろう。超凄いとしか言いようがない。そんな感じだった。


「ふぅ」

『お疲れ』

「ん」


 これで終了。そのつもりだったんだが、ここで物言いが入る。


「オンオン!」

「ん? ウルシもやりたい?」

「オン!」


 ウルシも久しぶりにスカッとしたいらしかった。フランの残した破壊跡を見たウルシの尻尾が、ショボーンと垂れ下がっている。


「じゃあ、あれやる?」

「オン!」


 ウルシのおねだりに応えて、フランが再度空中に飛び上がった。空中跳躍である程度の高さを維持すると、2つの魔術を発動させる。


 大地魔術で直径五メートルほどの板を作り出し、その上部で光源を生み出す光魔術を発動したのだ。結果、地面に濃い影が生み出される。


「オオオオォォーン!」


 ウルシの咆哮に応え、フランの生み出した影の内側に直径10メートルほどの漆黒の円が描き出された。


 ウルシが発動したのは、暗黒魔術ボトムレス・シャドウ。影のフィールドを作り出し、その底に全てを飲み込むという凶悪な魔術である。


 まあ、欠点も多いが。まず影がないと発動しない。さらに、飲み込む速度は遅いので、意外と簡単に抜け出されてしまう。制御がかなり難しいらしく、使用中はウルシが動けない。


 また、ボトムレスと名乗っておきながら、1度に飲み込める質量には限界がある。さらにさらに、完全に飲み込んだものを出すことはできないので、素材や魔石も回収不可能。それでいて魔力の消耗が桁違いである。


 見た目は派手だが、使い勝手はあまり良くないという術であった。少なくとも高速戦闘中には絶対に使えない。まあ、相手の動きを一瞬阻害するような使い方は可能かもしれんが。


 鈍い相手や、夜中に奇襲をかけたりすれば使い道はあるかもしれない。また、今回のようなゴミ掃除にも適している。


 グラウンドに残っていた尖塔の残骸が、底なし沼に飲み込まれるかの如く、ゆっくりと影の中に沈み込んでいく。そして、1分後には綺麗さっぱりと消え去っていた。元の更地に戻ったな。


 フランだけではなく、ウルシまで規格外であると思い知った生徒たちは、口をあんぐりと開いてグラウンドを見つめていた。


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