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555 特戦クラスでの再会

 

 ガラララ。


「おはよ」

「おはようございますフラン殿。おお、ちゃんと制服で来てくださいましたね」

「ん」


 魔術学院にやってきたフランは、昨日も案内された模擬戦教官用の準備室を訪れていた。


 職員室よりも大分小さい部屋に、10人ほどの大人がいる。全員が革鎧などを着込んだ、冒険者風の姿だ。彼らは全員が模擬戦教官である。戦闘準備を整えた今の姿こそ、彼らの正装であると言えた。


 筋肉ムキムキの元冒険者が狭い部屋にひしめくその光景は、暑苦しさ満点だ。なんだろう。鼻がないのに、汗臭い気がする。体育教官室を想像してもらえばよいだろう。


 イネスが直立で出迎えてくれた。他の教官たちに対しては昨日のうちに紹介と格付けが終わっているので、こちらもやはり真面目な顔で直立である。それがさらに暑苦しさをプラスしているんだけどね。


「では、これから特戦クラスの教室に案内させていただきます」

「わかった」

「では、こちらへどうぞ」


 案内されたのは三連学科塔の2階にある教室の1つであった。


 見た目は他の部屋と変わらない。ごく普通の教室だ。


 内部から感じられる気配も、特に他の教室と変わりはない。やや緊張した、20人ほどの人間の気配があった。


 緊張しているのは、フランが来ると分かっているからだろう。ちょっとでも耳が早い人間がいれば、教官兼生徒の美少女がやってくるというのは耳に入るだろうしな。


 緊張感以外に変わったところはない。


 教室の手前から凄まじい威圧感が醸し出されていたり、こちらを驚かせるほどの魔力をまき散らしていたりもしない。ごく普通の、少年少女たちの気配だった。


 特別戦闘クラスなどと言われていたので、どれほど凄いのかと思っていたんだが……。


 まあ、考えてみたら当たり前か。まだ学生なんだし、フランの方が圧倒的に強いということだしな。


 さらに言えば、イネスが複数の学生を相手にできているという時点でその実力は推して知るべしだ。学生の中でなら戦闘力が高いという程度なのだろう。俺が少し期待し過ぎていたらしい。


「午後の授業は模擬戦の予定なのですが、その前にフラン殿を紹介する時間を設けました。質問などもされるかもしれませんが、答えられない質問は無視してくださって結構です」

「わかった」

「では、行きましょう」

「ん」


 扉の曇りガラスに映った人影を見て、イネスが来たと分かったのだろう。生徒たちの話し声が一気に静まる。


 そんな特戦クラスの教室の扉を、イネスがゆっくりと開けた。最初はイネスに、次いでその後について教室に足を踏み入れたフランに、全員の視線が向けられる。


 生徒たちの顔に侮りはない。ただ、強い困惑があった。


「マジで子供だ……」

「び、美少女! 負けたっ!」

「じゃあ、キャロの言ってたことは本当だったのか!」


 昨日のうちにフランと対面を済ませた他クラスに話を聞いたのかと思ったら、どうもそれだけではなさそうだ。


「あ、あなたは! やはり!」


 喧噪に包まれた教室の中、突如1人の学生が驚きの表情で立ち上がった。だが、驚きなのは俺たちも同じである。その少女に見覚えがあったのだ。


「キャローナ?」

「は、はい! 覚えていてくださったのですね」

「ん」


 そう。そこにいたのは、金髪デコ出しドリルさんことキャローナだった。特戦クラスの一員であったようだ。


 どうやら、キャローナが事前にフランの情報をクラスメイトたちに教えていたらしい。


 多分、教官兼生徒の話を他クラスから聞く→その情報を聞いたキャローナがフランのことだと理解する→キャローナがクラスメイトにフランのことを話す。という流れだったのだろう。ただ、クラスメイトたちも半信半疑だったらしい。


 黒猫族の少女、実は超実力派冒険者で、ギルマスと親しげに話していたなど、荒唐無稽すぎるし、仕方ないが。


 しかし、他のクラス、キャローナ、イネスが共謀して彼らを担いでいない限り、目の前の少女が新たな特別模擬戦教官であることは確実となった。それが分かり、フランが強者であるとようやく信じたようだ。


「フラン殿、彼女は知り合いですか?」

「ん。冒険者ギルドで少し話した」

「そうでしたか。おい! 静まれ!」

「「「……」」」


 相変わらず見事な統制力である。生徒たちが一斉に口を閉じた。


「紹介しよう。この方はフラン殿。この度、特別模擬戦教官として着任された! フラン殿の冒険者ランクはB。しかし戦闘力はランクAに比肩する! 学院長のお墨付きだぞ。さらに、異名もお持ちだ。黒雷姫の名前は聞いたことがあるだろう?」


 聞いたことがないとは言えない雰囲気である。クラスの大半の人間は首を縦に振っていた。ただ、本当にフランのことを知っているらしい。


「きっちり情報収集はしているようだな。知らんという奴がいたら、情報収集の大切さについて小一時間ほど説教をせねばならなかったところだ」


 どうやら冒険者教育の一環であるようだった。キャローナが最初にフランに気付かなかったところを見ると、活かされているかどうかはわからんが。


 名前と種族、異名くらいは覚えているのだろう。しかし、それだけで相手の正体を見抜くには、実力も洞察力も足りていない。


 イネスだって、それは分かっているはずだ。それでも、今のうちからそういった情報の大切さを教えているようだった。


「次は模擬戦の授業となるが、その前にフラン殿に何か質問がある者はいるか?」


 これが地球の学校だったら、謎の美少女転校生へと様々な質問が飛んでいることだろう。彼氏の有無や出身地、好みのタイプ等々、その質問攻撃にきりはないはずだ。


 しかし、生徒たちは静まり返ってしまう。教官で、格上冒険者。迂闊な質問をして機嫌を損ねるのも怖いし、なにを聞けばいいのか分からないらしい。ただし、誰も質問をしないのはそれはそれで失礼だとも分かっている。


 生徒同士が目配せをし合い、妙な緊張感が教室を包み込んだ。そんな空気を破ったのは、さすがの金髪ドリルさんだ。


「……はい!」

「キャローナか。いいぞ」

「フラン様は教官と生徒を兼ねるということでしたが、どのような受け持ちとなるのですか?」

「それには私が答えよう。基本は特戦クラスで生徒として過ごされる。ただし、特戦、上級、さらに他複数のクラスの教官も兼ねられるので、その時間だけは席を外されるだろう」

「わかりました。ありがとうございます」


 これは事前に俺たちも説明を受けている。特別模擬戦教官としての仕事以外は、特戦クラスの生徒であるということだった。


 まあ、フランの場合は単位を取得する必要がないので、多少授業を休んでも問題ないからな。


 事前に授業の内容を説明してもらったが、半分くらいは受ける必要がなかった。罠解除とか、ゴブリンの解剖授業とか、冒険者として活動するための技能を身に付ける授業が多いらしい。


 その後の質問は、用いる武器や、得意な魔術に関してのものが多かったな。模擬戦の前に、情報を集めたかったようだ。


 それが活かせるかどうかは分からんが。


「では、そろそろ時間だな。第五模擬戦場へ移れ! 私とフラン殿が到着するまでに、全ての準備を済ませておくように!」

「「「はい!」」」

「フラン殿はこちらへどうぞ。とりあえず教官用の更衣室をお使いください。明日以降は、生徒用でも教官用でも、好きな方を使っていただいて構いませんので」

「わかった」


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