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549 職員室


 ウィーナレーンに続いて入ったその部屋は、予想よりもかなり広かった。職員室という言葉で想像する部屋の、5倍はあるだろう。


 やや大きめの木製机が、それこそオフィスや職員室のように向かい合わせで綺麗に並べられており、100人近い人間が仕事をしていた。


 それでも机は半分ほどしか埋まっていないので、実際は200~250人くらいがこの部屋を利用していると思われる。


 ウィーナレーンと一緒に登った朝礼台のような物に乗らなければ、奥までは見渡せそうもない。


「はーい、みんな注目ー!」


 ウィーナレーンが台の上からパンパンと手を叩きながら声をかけると、すぐに部屋中の視線がこちらに集中する。


「彼女は冒険者のフラン。特別職員内定者及び短期編入予定者として、しばらく学院に出入りするわ。それと、隣がその従魔のウルシ。サイズは少し変わるけど、頭がいい子よ。よろしくお願いね」

「よろしく」

「オン!」


 ウィーナレーンがそう告げると、教師陣の反応は綺麗に分かれた。


 戸惑っている者と、納得している者だ。戸惑っている人の方が多いかな。こっちはいわゆる教師という感じの人たちが多く、フランの実力を理解できないのだろう。


 逆に納得した様子の教師たちはいかにも元冒険者ですという感じの人間や、魔術師風の格好をした者たちだった。


 まあ、座学の教師に戦闘力は必要ないのだろうし、仕方ないけどね。


 一番近くにいた、背広風の服に身を包んだ男性が代表して口を開く。見た目は50歳程度の、運動不足のぽっちゃりおじちゃんという感じだ。


「短期編入というのは、分かります。年齢的にも問題はないでしょう。ただ、特別職員ですか? どういった扱いになるのでしょう?」


 生徒で教師というのは、さすがにこの学院でも珍しいらしい。


「まず、フランの担当は上級クラスや特戦クラスの教官よ」

「え? 特戦クラスに入学ということではなく?」

「模擬戦教官よ」


 その言葉に微かなざわめきが起きた。


「模擬戦教官って……」

「冒険者ランクがD以上の人間しか教官は務められないはずじゃ……」

「しかも、上級や特戦の模擬戦教官は、最低でもランクCっていう話だぞ?」


 どうやらフランが担当するクラスは、生徒も教師も実力主義のクラスであるらしい。普通の教師たちにはとてもその役が務まるとは思えないのだろう。


「大丈夫よ。フランはこれでも、異名持ちのランクB冒険者。戦闘力だけで言えば文句なしにランクA以上よ」

「え? いえ、学長がそうおっしゃられるのであれば本当なのでしょう」

「ふふ。何せ何百年かぶりに学校の中で血を流したもの」


 先程よりも大きなざわめきが起きる。ウィーナレーンが血を流したという言葉が余程衝撃だったんだろう。


「が、学長って、この学院を守るために守護精霊と契約を結んでたよな?」

「ああ。学内で戦う際は、強化されるって……」

「そ、その学長に傷をつけたってことか? 嘘だろっ」


 彼らにとっては、常勝不敗の伝説的な存在なのだろうし、苦戦したという話さえ聞いたことがないらしい。


 中には冗談だと思った者もいるようだが、大抵の人間は信じたようだ。だが、そのせいでこちらを睨んでいる者もいる。それも仕方がないだろう。


 ウィーナレーンは世界最強の魔術師で、悠久の時を生きるハイエルフだ。そして魔術学院の創始者で、世界的に有名な英雄である。信奉者も多いはずだ。


 そんな信奉者たちにとっては、ウィーナレーンが傷つけられたという話は不快であるに違いなかった。


 何があったのか知らないおじちゃんも戸惑っている。


「それはどういう……?」

「色々あったのよ。まあ、フランの実力が突き抜けていることは私が保証するから」

「わ、わかりました」


 おじちゃんがフランを見る目が変わったね。それまでは謎の美少女を見定めるような眼だったのが、確実に畏怖が加わった。恐怖ではないのは、ウィーナレーンが認めている相手だからだろう。


「それでは、クラスはどうなりますか?」

「特戦クラスになるわ」

「よろしいので?」

「教官をやってもらうにはその方が都合がいいしね。それに、フランは魔術の腕も一流だから問題ないわ」


 どうやら特戦クラスに入るには戦闘力だけではなく、魔術の実力も必要であるようだ。


「特戦クラスへの編入が問題ない程ですか?」

「むしろ、フランからしたら得る物がないんじゃないかしら? 残念だけどね。何せフランの魔術の腕前はうちの学院で学科長を任せられるレベルだもの」

「は? そ、それは……。す、凄まじいですな」


 もうざわめきとかそういうレベルではない。皆がガヤガヤと言葉を交わしている。悲鳴に近いかもしれなかった。


 多分だけど、相当な実力が必要とされる役職なんだろうな。


(師匠)

『どうした? 注目されるのが嫌か?』

(ん? そんなのどうでもいい。それよりも、精霊魔術が習いたい)


 教師たちの反応を全く気にしていなかった。むしろずっと編入先を考えていたらしい。


『いいんじゃないか? それ系のクラスがあるか聞いてみろよ』

「ん。ねえ、精霊魔術を習えるクラスがいい」

「ああ、フランはそれが気になっていたわね。じゃあ、選択授業で精霊魔術の授業を選べばいいわよ」


 特戦クラスのカリキュラムとは別に、生徒が好きに授業を選択できる、選択授業というのがあるそうだ。そこに、精霊魔術の講座があるらしい。


「特戦クラスの授業には、精霊魔術がないの?」

「基本的な知識は、それこそ基礎学科の間に習うわね。この学院にいる以上、それらの知識は絶対に必要だし。でも、精霊魔術の習得となると、選択授業で習うしかないわ」

「ふーん」

「ただ、精霊魔術を絶対に習得できるかは分からないわよ? フランには精霊を視る才能は有りそうだけど、それで精霊とうまく付き合えるかどうかは全くの別物だし」

「そうなの?」

「ええ」


 精霊というのは個体によって性格も、好む相手も違うため、画一的な使役方法も契約の仕方も存在しないそうだ。それ故、教えることも難しい。


 また、エルフ以外で精霊魔術の才能を持つ者が少なく、その才能があっても上達する者はもっと少ないという。しかも、上達したとしても精霊魔術は非常に不安定で、使いこなせるかどうかも分からない。


 そのせいで、正規の授業に組み込むのはなかなか難しいそうだ。フランのように精霊を感じる人間が、個別に授業を選ぶくらいでちょうどいいらしい。


 因みに、エルフであれば学院に通うまでもなく、里や親から精霊魔術の手解きをされる。ただ、エルフは個人主義の者が多く、基礎以上の鍛錬は個人で行うことが推奨されているらしい。それ故、この学院に通うエルフのほとんどは、授業で精霊魔術を選ぶことはしないのだった。


「でも、それならやっぱり特戦クラスがいいかしら。あのクラスの担当教師には精霊魔術師がいるから。話を聞いてみるといいわ」

「ん。そこでいい」

「うんうん。じゃあ、早速手続きをしちゃいましょうか」


 さてさて、どんなクラスなんだろうかね?

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