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53 限界を超えろ

 親蜘蛛に圧し掛かられるフラン。蜘蛛の口から、鋭い牙が見えている。


 それを見た瞬間。思考が沸騰した。


 アマンダにばれる? 何を気にしてるんだ、馬鹿か俺は! 何が大事なのか、考えろ!


『うおおおぉぉぉぉぉっ! どけぇっ!』

「オオオォン!」

『――ファイア・ジャベリン!』


 キュイィィィン――ボボボボボォン!


 ウルシの放った漆黒の矢が、蜘蛛どもを射抜いて砕く。そして俺の放った炎槍が、邪魔な蜘蛛の巣を貫いて燃え上がらせた。


 20近い蜘蛛を葬っただろう。


『くそっ!』


 だが、それだけだ。


 通路の先にはまだまだ蜘蛛たちが蠢いている。やはりトラップ・スパイダーに比べて、明らかに炎耐性が上がっていた。


『だったら――』


 念動カタパルトでぶち抜く! フランを発見してから、10数秒。念動を溜め続けてきた。半ば無意識に。これはもはや癖みたいなものだ。戦闘の気配を感じ取った剣士が柄に手を置くように、俺は無意識に念動を溜めてしまうようになっていた。


 だが、さっきの俺はそれを解き放つのをためらってしまった。アマンダの目を気にして。


 ただ、それだけじゃない。俺はどこかで、これじゃダメだと感じていた。このダンジョンで蜘蛛たちを相手に戦ってきた経験故に、やつらの硬さや、巣の強度を知っている。そして、単なる念動カタパルトでは、フランに届かないと、感覚で理解できてしまった。


 ならどうする?


『限界を超えればいいだけだ!』


 実のところ、いつもの念動カタパルトは、限界ギリギリまで力を込めている。正真正銘、全力だ。


 だが、本当に限界なのか? いや、絶対にあれが限界じゃない。


 自分では限界のつもりでも、無意識に安全マージンを確保した上での限界だった。自分が反動でダメージを受けない、リミッターをかけた上での限界。なら、そんなものは取っ払ってしまえばいい。


 限界を超えろ! 魔力が刀身の中で暴れ回る。もはや、どれだけの魔力を込めているのか自分でもよく分からん! だが、制御してみせる!


 まだだ。もっと威力を上げる必要がある! 俺は属性剣で炎を纏った。これも限界まで魔力を込めてやる!


 赤熱して輝く刀身。ウルシが熱がって、俺を離したな。なにせ、刀身が僅かに溶け始めているほどの熱量だ。


 異変を感じた通路の蜘蛛たちが、俺に向かって糸を吐きかけてきた。だが、無駄だ。灼熱の剣と化した俺に近づいただけで、糸は燃え上がって消滅していく。


『蜘蛛ども、邪魔をするなぁぁ!』


 ギュドォォォォォォォォォォォオオッ!


 俺は、溜めに溜めた念動を爆発させた。


 かつてない程の加速で、俺は蜘蛛の防壁を貫いてく。十重二十重に張り巡らされた強固な蜘蛛の巣が、まるで紙の様だ。固い外殻を持つ蜘蛛でさえも、ぶち当たった瞬間に燃え上がり、消し炭と化していた。


 いつもの念動カタパルトだったら、半分くらいで糸に絡めとられていただろう。しかし、今の俺は違った。熱と衝撃波で、蜘蛛たちを粉砕しながら突き進む。


 通路に築かれた蜘蛛の防壁をあっさりと抜けた。その瞬間、さらに念動カタパルトを発動。だが、これは逆方向に向けてだ。


『うぉぉぉぉぉっ!』


 今の俺はまさに砲弾。直撃しなくても、衝撃波だけで凄まじい破壊をまき散らしている。フランの近くを通ったら、フランにもダメージを与えてしまうだろう。だからこその、念動急ブレーキだった。蜘蛛の巣を抜けてきたことと合わせていい具合にブレーキがかかり、速度が落ちる。


『フランから離れやがれ! このクソ蜘蛛がぁ!』


 そのまま、俺は親蜘蛛に向かって普通に突進し、魔石をぶち抜く。ビクビクと痙攣する蜘蛛を、念動でかち上げて吹き飛ばした。


 そして、直ぐにフランに対して回復魔術を使用する。


『――ヒール!』


 速度優先で下等の魔法だ。一先ずは危険を脱しただろう。


 状態はどうだ?


名称:フラン  年齢:12歳

種族:獣人・黒猫族

職業:魔剣士

状態:契約・猛毒・朦朧

ステータス レベル:25

HP:106/250 MP:31/166 

腕力:115 体力:104 敏捷:105 

知力:75 魔力:87 器用:78

スキル

隠密:Lv1、宮廷作法:Lv4、気配察知:Lv1、剣技:Lv1、剣術:Lv3、瞬発:Lv1、料理:Lv1、インセクトキラー、気力操作、ゴブリンキラー、精神安定、デーモンキラー、剥ぎ取り上手、不退転、方向感覚、夜目

称号

一騎当千、インセクトキラー、解体王、回復術師、ゴブリンキラー、殺戮者、スキルコレクター、ダンジョン攻略者、超大物喰い、デーモンキラー、火術師、風術師、料理王


 猛毒&朦朧な上に、HPが残り106だった。ヒール1回かけてこれか! 俺は大慌てでアンチ・ドート、グレーター・ヒールでフランを完全回復させた。


『ふぅ。これで一安心だ……』


 一応、気絶しているクラッドの仲間たちにもヒールとアンチ・ドートをかけてやった。フランを巻き込みやがった馬鹿どもだが、身を挺して守ったフランに免じて許してやろう。今はとりあえず寝かしとくか。


 他の蜘蛛はどうなった?


「モムン?」

『ウルシいつの間に! そうか、影渡りか!』


 やばい、俺はどんだけ動転してるんだ。すっかり忘れていた! 影渡りを使えば、もっと簡単に行ったんじゃ……。

 

 ウルシが全滅した蜘蛛の残骸の真ん中で、何かを頬張っている。おい、足が口からはみ出てるぞ! はぁ、こいつの食費を考えたら、頭痛くなってきた。


 まあ、全滅させたんなら、とりあえずはいいや。


『フラン。フラン』

「……ん?」

『目が覚めたか?』

「師匠?」

『おう。もう大丈夫だぞ』

「蜘蛛はどうなった?」

『もういないよ』

「そう」


 改めてフランのステータスを見ると、剣術がLv3もある。剣技も気力操作もあった。ついでに瞬発と料理も。出会った時には、持っていなかったスキルだ。俺を装備していても、フランには熟練度が入っているみたいだな。


 それと、スキルが無くなっても、得た称号は消えないらしい。火術師が残ったままだし。


 しかし、成長が速くないか? 1ヶ月で、剣術が2つもレベルアップしている。俺を使っていた影響だろうか? 多分、高レベルのスキルを使う感覚を身に着けることによって、スキルの成長に良い効果があったのだと思うが。


 しかし、スキルなんて関係ない。蜘蛛に囲まれても諦めず、毒を喰らっても闘志を失わなかったのは、紛れもなくフランだったのだから。


『よく頑張ったな』

「師匠、ボロボロ」

『まあ、ちょっとな』


 限界以上の魔力を込めて、念動カタパルトを放った代償は、俺が思っていた以上に大きかった。


 まず、ブレーキと合わせて魔力を1200以上も消費した。普段の念動カタパルトの4倍以上だ。そして、耐久値の残りが800まで減っていた。念動急ブレーキをかけてこれだ。あの勢いのまま硬い壁にでもぶつかっていたら、結構ヤバかったかもしれない。


 刀身には半ばまでの深い亀裂が入り、熱で溶けた部分が黒く変色している。まさしく半壊。普通の剣がこうなったら、廃棄決定だろう。


『少し時間が経てば元通りになるさ』

「ん……」

『おいおい、何て顔してるんだよ』

「私のせい」

『違うって、俺がバカやったせいだ。もう少し加減できれば良かったんだが』


 限界以上の魔力を制御するのは、思った以上に難しかった。正直、込める魔力を加減するのは難しいだろう。


 ただ、魔法使いスキルの真価が分かった気がした。今まで俺は、魔力感知の上位互換代わりか、魔術に魔力を多く込めて威力を上げる程度の使い方しかしてこなかった。


 だが、その先があったのだ。魔力の流れが分かるから、限界を超えた魔力を込めることができる。魔力の流れを感じ取れるから、かろうじて制御もできる。言わば、魔力のオーバーブーストが可能なのだ。まあ、諸刃の剣ではあるが。


『まあ、フランが無事でよかったよ』

「ありがと」


 師弟の感動の再会。そんな雰囲気だったろう。この場に他の誰もいなければ。


「ね、ねえ。その剣、勝手に動いた? しかも、何度か声を出したように思えるんだけど……。魔術も使ったし」


 アマンダ忘れてたーっ! いや、ある程度は覚悟してたんだけどさ、途中からは本気で忘れてた。


 あまりにも焦りすぎて、普通に念話で叫んでたし。いつもは話したい相手だけに念話を飛ばしてるけど……。叫んでる時とか完全に全方位発信だった。当然、アマンダの耳にも俺の声が聞こえただろう。


 魔術も使ったし、念動で飛んだし。


「ん……」

「あ、待って。いいの。無理やり聞きたいわけじゃないの。ごめんなさい」

「?」

「その、思わず聞いちゃっただけだから。言いたくなければいいの。誰だって、事情はあるから」


 そう言ってはくれるものの、俺が喋って動ける剣だって、確実にバレたよな? なんか、わざわざ隠す意味あるのか? いや、ないだろう。


(師匠、話していい?)

『フランは、アマンダに教えたいのか?』

(ん……)


 ずいぶん懐いたね。ぶっちゃけ、模擬戦して半殺しにあっただけな気がするんだが……。まあ、フランが教えたいっていうんなら、俺も反対しないさ。


「アマンダ」

「なーに?」

「話がある――」



 3分後。


 俺やウルシについての説明を聞いたアマンダは、メチャクチャ興奮していた。


「インテリジェンス・ウェポンって、お伽噺に出てくる、意思を持った武器と同じってこと? きゃーっ! 実在したのね!」


 やはり、インテリジェンス・ウェポンが珍しいらしい。初めて見たと驚いている。


 だが、それ以上に彼女をはしゃがせているのは、そんな凄い秘密を自分に打ち明けてくれたという喜びの様だった。


「私に教えてくれてありがとう! フランちゃん。それと、師匠?」

『おう』

「凄いわね。本当に喋れるのね~」

『まあ、よろしく頼む』

「ええ。こちらこそ! 安心して、2人の秘密は、墓場まで持っていくから! それに、困ったら何でも相談してね? 私はどんな時でもフランちゃんの味方よ?」

「ん」

「何せ私には、子供の守護者っていう称号があるんだから。だから、いつでも私を頼ってきていいんだからね?」

「ありがと」

「あー。可愛いわねぇ! 私、フランちゃんの為だったら何でもするわ!」


 やっぱり打ち明けてよかった。本当はこんな無粋な真似はしたくなかったが、虚言の理を使ってみた。アマンダの言葉は全て本当だ。嘘偽りなく、アマンダはフランのために何でもやると言ってくれている。


『よかったな、フラン』

「ん」

「でも、フランちゃんが蜘蛛に攻撃された時の師匠の慌てた感じ、フランちゃんに見せたかったわ~。いきなり剣から『フラン無茶するな!』 ていう声が聞こえて驚いたんだから」

「師匠、慌てた?」

『お、おう。面目ない』

「オオカミ――ウルシちゃんもいきなり飛び出すから、魔術で援護もできないし。巻き込んじゃうからね。私も慌てたわ~」

「オゥゥ……」


 俺は全然ダメダメだ! 慌てて、焦って、判断ミス連発で! もっといろいろやり方があったはずだ。アマンダに助けを求めるとか、最初からウルシの影渡りを使うとか!


 はぁ、フランだけじゃない。俺だって、成長しなきゃな……。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 外付けの師匠頼りじゃなくてフラン自身が成長しているとはっきりわかったこと
[良い点] 師匠が脇目も降らず助けにいったから、アマンダも師匠を信頼したんだろうなぁ。
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