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540 キャローナ

「あの……」

「ん?」


 ロビーに戻ってきたフランに話しかけてくる人物がいた。先ほどの金髪ドリル、キャローナさんだ。その顔はやや引きつっているようにも思える。


「先ほどは申し訳ありませんでした。まさか高ランクの冒険者様と知らず、大変無礼をいたしました」


 受付のお姉さんに、フランが本物の高位冒険者であると教えてもらい、恐縮しているらしい。プライドが高そうなお貴族様の令嬢なのに、躊躇することなくその場で深々と頭を下げた。


「別に怒ってない」

「ほ、本当ですか?」

「ん」


 フランがそう告げると、露骨にホッとした顔をしている。


 高位の冒険者なんて、下級冒険者からしたら化け物だろうしな。たとえ見た目が幼くとも――むしろ幼くして高位冒険者に登りつめたというフランは、彼女にとっては正真正銘の怪物なのかもしれない。


「ギルドマスターも褒めてた」

「え? 私を、ですか?」

「ん。後輩のために不審者の前に立ちはだかるのは凄いって」

「あれは、その……」


 キャローナは困った顔で俯いてしまう。


 勘違いでフランを下級生扱いしたことや、ギルドマスターの顔を知らずに不審者扱いしたことを揶揄されているようにも思えるし、褒められて嬉しいという気持ちもあるのだろう。


 どちらにせよ、何も言えないに違いない。


『フラン、話を変えた方がいい』

「? 私が学院の生徒に見えたの?」

「申し訳ありません。てっきり、学則を知らない基礎学科生なのかと……」

「基礎学科生?」

「え、ええ。魔術学院には多種多様な学科が存在しますが、どんな生徒でも最初は基礎学科で魔術の習得を目指します」


 魔術学院というだけあって、最初に必ず魔術を習得させられるらしい。ここで魔術を習得すれば、半年に1回の進級期間で新たな学科を選ぶことが許されるという。


 属性などは問わないが、3年以内に基礎学科を卒業できないと退学になるそうだ。まあ、魔術学院だから、仕方ないのだろう。


「基礎学科に在籍しているうちは、冒険者ギルドへの登録は禁止されておりますの」


 魔術も使えない、本当の素人の子供ばかりなのだろうし、当然の措置だ。


 しかし、魔術学院の生徒が冒険者ギルドに出入りしているという噂話だけを聞き、ろくに説明も聞かずに冒険者ギルドに突撃する基礎学科生が毎年いるらしい。


「わがままを言って、ギルドに迷惑をかける生徒もいますの」


 学院の生徒が冒険者ギルドに迷惑をかけると、それは学院全体の評判を落とすことにもなりかねない。魔術学院の生徒であるということに誇りを持っている彼女からすれば、それは許せないことであるようだった。


 てっきり風紀委員とか生徒会的な役割なのかと思ったら、単なるおせっかいだったようだ。その後も、学則を守らない生徒の失敗談などを色々と教えてくれた。珍しくフランも大人しく話を聞いているな。


「おい、そろそろ時間だぞ」

「ああ、今行きます。その、この度は本当に申し訳ございませんでした。私はこれで失礼いたしますわ」

「ん」

「私などにできることなどあるか分かりませんが、困ったことがあったら頼ってくださいまし。週に1度は冒険者ギルドに顔を出しますので」

「わかった。ありがと」

「では」


 仲間に呼ばれたドリルさんは、最後にもう一度頭を下げ、ギルドから出ていった。


 それを見送りながら、フランが俺に話しかけてくる。


(師匠)

『どうした?』

(師匠が、面白い髪型って言ってた意味、分かった)

『ん?』

(動く度に、髪の毛がビヨンビヨンしてた)

『大人しく話を聞いてるなーって思ったら、髪に集中してたんかい!』

(あれは面白い)



 冒険者ギルドを出た俺たちは、仕入れた情報を基に、レディブルーの観光を楽しむことにした。


 受付のお姉さんはこの町で生まれた人であるらしく、穴場のお店や、観光名所を熟知していたのだ。


 美味しい屋台や、美味しいレストランを巡る合間に、景色の良い高台や、珍しい建物などを堪能していく。


 そうやって町を観光していると、いくつか他の町と違う点に気が付いた。


「ここも綺麗」

「オン」

『こっちを見張っているような奴もいないな』


 どれだけ狭い裏道を行こうが、町外れへと行こうが、いわゆるスラム的な場所がなかったのだ。所得などの関係で貧富の差はあるのだろうが、ある一定水準を下回る雰囲気にはならない。


 当然、裏の雰囲気を身に纏った、盗賊ギルドや裏組織の構成員的な人間にも出くわさない。カツアゲをしてくるチンピラ的な相手にも出会わなかった。絡んできて、こっちの懐を潤してくれるごろつきもいない。


 これだけの都市では珍しいのではないだろうか?


 さらに、そういった犯罪組織が少ない影響なのか、町中で見かける兵士や騎士の数も少なかった。いないわけではないが、他の町に比べれば半分以下だろう。


『治安がいいってことかね?』

「ん。子供も多い」

『そういえばそうかもな』


 治安が悪い町で、子供の姿を見かけることは少ない。最悪の事態を考え、外で遊ばせたりしないからだ。だが、この町ではどこに行っても子供がいる。


 子供たちだけで裏道を走り回り、遊んでいるのだ。安全に過ごせるということなんだろう。


 宿への帰り際、美味しい店を紹介してもらったお礼の焼き菓子を冒険者ギルドに渡しに行った時に、治安が良い理由を教えてもらった。


 ごく単純に、ウィーナレーンが犯罪組織や犯罪者を端から潰しているだけだった。そして、いつしかどんな組織も手出しをしなくなったらしい。


 ウィーナレーンのやり方は過激で、例えば麻薬の売人がいたとする。するとその売人だけではなく、背後の組織と、流通に関わった組織、製造に関わった組織など、とにかく全てを叩き潰すんだそうだ。


 それが貴族や他国であってもお構いなしで。


 その過激な対処のせいで幾度となく外交問題に悩まされることになったベリオス王国は、いつしか国を挙げて自治区を守るようになったらしい。


 ウィーナレーンに好き勝手に暴れられるより、予算を割いて自治区を守る方がマシってことなのだろう。いや、もしかしたらそうなるようにウィーナレーンが仕向けたのだろうか?


 ともかく、レディブルーは今まで巡ったどんな都市よりも、治安が良いということである。


『にしても、子供好きで、過激で、エルフ……』

(アマンダみたい)

『似てるのは確かだな』


 そういえば、アリステアの口から魔術学院の話が出たとき、隣にいたアマンダは何も言わなかった。アマンダとウィーナレーンなら、知人同士でも不思議はないと思うんだが……。まあ。知り合いならあの時に何か言うだろう。


『どんな人物なのかね?』


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