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539 面接は難しい?


 ギルドマスターに促されて、フランは執務室にやってきた。


「まあ、座ってくれ」

「……ん」

「ああ、さっきの面倒見が良さそうなお嬢ちゃんには、こっちでフォローを入れておくから気にするな」


 初対面でありながら、フランの物憂げな表情を読み取ったらしい。さすがギルマスになるだけはあるぜ。観察力が凄い。逆に、俺がばれる可能性も高いってことだが。


「怒ってない?」

「ははは。むしろ俺はあのお嬢ちゃんを気に入ったぜ? 自分の後輩のために、不審者の前に立ちふさがるなんてなかなかできん。まあ、勘違いだったわけだがな。それにしても――」


 ギルドマスターがしげしげとフランを観察する。


「見極めができない人間からすれば、か弱い獣人の少女に見えるのかもなぁ。防具も見た目で性能は分かりづらいしよ」


 確かに、何もわからなければヒラヒラした布の装備にしか見えないのかもしれない。


「魔剣は確かに目立つが……。新人の中には騙されたり見栄を張ったりで、見た目だけ派手なナマクラを装備している奴も多い」


 つまり金髪ドリルさん――キャローナはフランを見て、冒険者に憧れる魔術学院の下級生が、見た目だけは一人前のナマクラ装備で冒険者になろうとしていたと思ったわけか。


「それで、黒雷姫フランが、こんな場所でどうしたんだ? 長期滞在の予定があるってことだろ?」


 この人、口調はかなりぞんざいなんだが、美形エルフがこんな喋り方だとイケメン度が増すから不思議である。ちょい悪イケメンエルフにしか見えん。エルフずるい。


「魔術学院で教官をやる」

「ほう?」

「かも?」

「は? かもって、未だ本決まりじゃないってことかよ?」

「ん」

「どういうこった?」


 フランがざっくりと経緯を説明する。知人が魔術学院の関係者であること。その知人が魔術学院で模擬戦の教官をする人材を探していたこと。そして、フランが誘われ、紹介状を持ってレディブルーまで来たこと。


「なるほどな。そういうことだったか」

「今日、学院に行ったけど、学院長がいなくて面接はまた今度だって」


 フランの言葉を聞いて、ギルドマスターが唸っている。


「学院の面接は結構厳しいぜ?」

「そうなの?」

「おうよ。この町の冒険者でも、学院指定の冒険者は30人程度しかいないからな」

「学院指定?」

「ああ、魔術学院の生徒を引率することを認められている冒険者さ」


 魔術学院の生徒たちの一部は、冒険者として活動することが認められている。技能や成績などが一定水準に達している生徒だけが、冒険者ギルドに登録することが許されるらしい。


 しかも、依頼を受けるにはさらに厳しいルールがあった。まず、ランクE以上の依頼は、生徒だけでは受けられない。魔術学院が指定する冒険者に付き添ってもらうことが、絶対条件であるそうだ。


 生徒を無駄に死なせないための措置なのだろう。その魔術学院の生徒を引率する資格がある冒険者を、学院指定冒険者と呼ぶらしい。


 この学院指定を受けると、生徒を引率する義務が生じる代わりに、毎年一定の報酬が学院から支払われる。


 これが結構な額であるらしく、レディブルーの冒険者からは人気の仕事であるそうだ。


「冒険者登録が許される生徒は学院の方で厳しく審査されて、それでも合格したやつらだからな。問題行動を起こすような奴は稀なのさ」


 それ故、引率といってもクソガキのお守りというわけではなく、新人冒険者への指南に近いそうだ。しかも、魔術が使え、学ぶ意思のある優秀な新人冒険者である。それでいて依頼とは別に高額の報酬が支払われるとなれば、人気が出てもおかしくはないだろう。


 ただ、誰でも学院指定を受けられるわけではない。大事な生徒を任せるわけだから、学院としてもかなり厳正に審査を行うらしい。性格、能力に始まり、家族構成やら過去の仕事歴なども調べられ、最終的には学院長の面接に合格した冒険者だけが学院指定冒険者になることができるのだ。


 特に学院長の面接は厳しいことで有名らしい。


「紹介状があろうが、使えないと判断すればあっさりと追い出されるぞ? 以前、国からの紹介状を持って面接に来た貴族が叩き出されて、問題になったことがある。なんやかんやあって、その家は消滅したが……。あの人は怖いぜ?」

「学院長を知ってるの?」

「そりゃそうだ。俺は冒険者ギルドのマスターで、エルフだぜ?」


 考えてみれば当然だった。フランが学院長の人柄を尋ねてみる。すると、ギルドマスターは軽く腕を組み、顔をしかめた。


「普段はおっとりした優しい人なんだが、怒るとそりゃあ怖くてな。絶対怒らせるなよ?」

「わかった」


 ギルドマスターはよっぽど学院長――ハイエルフのウィーナレーンが怖いらしい。情けない顔で、フランに念押ししていた。


「強いの?」

「当然だろ? ハイエルフだぜ」

「大海魔術師って聞いた」

「ああ。世界一の大海魔術師だよ。以前、スタンピードを起こした中級のダンジョンを、たった一人で潰したことがある」


 しかも、その時にウィーナレーンは入り口から動いてもいなかったらしい。なんと、有り余る魔力で延々と水を生み出し、ダンジョン内全てを水没させて魔獣を窒息死させたそうだ。


 3日間、絶えず魔術を使い続けた姿は圧巻であったという。


「他にはどんなことができる? エルフだから、精霊魔術?」

「さあ?」

「ん? 知らない?」

「あの人レベルになっちまうと、大海魔術で大概はどうにかなっちまうからな。近接戦闘をしてる姿や、精霊魔術を使う姿は見たことがない。鑑定も効かないしな」

「鑑定遮断を持ってる?」

「いや、単純に格が圧倒的に高いせいで、鑑定が効かないんだよ」


 俺が神剣を鑑定できないのと一緒だろう。何千年も生きている、ランクS冒険者を超えるとまで言われる実力者。これは確かに鑑定は難しいかもしれない。


「まあ、学院長なんてやっているだけあって、子供好きで有名だ。フランなら問題ないとは思うがな」


 その後、この辺の名物の話など軽い雑談をして、俺たちはギルマスの執務室を後にする。ギルマスとしても、フランの人柄を見極めたいようだ。どんな噂が流れているんだろうな?


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