538 普通の冒険者ギルド
魔術学院での手続きを終えた俺たちは、今度は冒険者ギルドにやってきていた。
「なんか、ふつー?」
「オン」
冒険者ギルドの建物を見て、フランとウルシが首を捻っている。この都市で特殊な建造物を色々と見たことで、冒険者ギルドにも過度の期待を抱いていたらしかった。
だがギルドの外観は、この町ではごく当たり前なレンガ造りの建物である。さすがに大きさは倍近いが、それとて特別巨大すぎるわけでもない。
『とりあえず中に入ってみようぜ』
「ん」
「オン!」
そうしてギルドの扉をくぐると、中もやはり普通の構造であった。床も天井も壁も受付カウンターも、どこにでもある造りをしている。
冒険者がどの依頼を受けようか悩んでいたり、素材買取金額を釣り上げようと受付嬢相手に無駄な交渉をしているのも、他所の冒険者ギルドと同じだ。
ただ、1組だけフランの目を引く者たちがいた。
「子供?」
『フランよりは年上だろうが……。魔術学院の生徒なんだろうな』
革製の、それなりに良い作りの外套を身に付けた少年少女たちだ。外套の肩には、逆巻く波を意匠化したエンブレムがあしらわれている。あのエンブレムには見覚えがあった。魔術学院の旗や裏口の扉に描かれていたはずだ。
カウンターに並んでいる者もいれば、依頼票を見ている者もいる。魔術学院の外套を着ていなければ、普通の駆け出し冒険者だと思っていただろう。
魔術学院の生徒が冒険者をやっているらしい。それってありなのか? いや、ああも堂々と外套を身に着けたままなんだし、許されているんだろうな。
『学院生がなんで冒険者なんてやってるのかは分からんけど』
まあ、教官になればわかるだろう。
『とりあえず、ギルドに挨拶をしておこう』
通り過ぎるだけならともかく、しばらくはこの都市にいるつもりだ。まあ、教官試験に落ちなければだけど。その場合、高ランク冒険者であるフランは、地元のギルドに滞在を申請しておく必要があった。絶対の義務ではないが、推奨されているらしい。
いざというとき、高ランク冒険者の居場所が分かっているかどうかは重要だってことだろう。
「ねえ」
「はい、冒険者ギルドへようこそ。どのようなご用件でしょうか?」
「ん。しばらくこの町に滞在するかもしれないから、挨拶に来た。これ、カード」
「ああ、そういうことですか。ではカードを拝見いたしますね」
受付のお姉さんがフランからカードを受け取る。そして、一瞬驚いた顔をした。だが、すぐに営業スマイルを取り戻す。
「う、上の者が参りますので、少々お待ちください」
「わかった」
絶対に高ランク冒険者の真似事をする駆け出し冒険者だと思って対応したよな? それでもほとんど笑顔を崩さずに対応し続けたのは凄い。
最近、この最初のやり取りでその受付さんがベテランかどうかわかるようになってきたな。
そのまま受付の前で待っていると、背後から近付いてくる気配があった。受付に向かうのかと思ったら、そのままフランの後ろで足を止める。
「ねえ、あなた?」
「ん?」
話しかけてきたのは、金髪の美少女だ。フランより少し年齢は上だろう。魔術学院の外套を身に着け、腰には強い魔力を発する剣を下げている。だが、俺の視界にはあるものしか入っていなかった。
『う、うおおおお! 金髪ドリル! 金髪ドリルさんだよ! しかもデコ出し! ま、まじかよ! おーほっほっほって笑ってくれないかな?』
その少女は、いわゆる金髪縦巻きロールだったのだ。こんなに近くで見たのは初めてである。しかも高飛車お嬢様っぽい雰囲気もある。
その完成度の高さに、思わず声を上げちまったよ。
(師匠? どうしたの?)
『あ、いや、髪型がな……』
(髪? 金髪?)
『な、なんでもない。ちょっと珍しい髪型だから、驚いただけだ』
(ふーん)
フランは全く興味がないようだ。いや、当然だけどさ。こっちの世界に来て、執事とメイドを見たとき以来の興奮だったぜ。
鑑定すると、16歳となっている。名前はキャローナ・リヴァールとなっていることから、本当に貴族のお嬢様なのだろう。うむ、この髪型で平民だったら、お仕置きしているところだ。
能力的には、ランクE冒険者程度だろう。火魔術と水魔術を扱うが、どちらもレベルが3しかないし、近接戦闘力は低いのだ。
それでも、生活魔術や気配察知、生存など、外で活動するには最低限のスキルは所持していた。それは他の学院生も一緒で、全員がサバイバルに役立つスキルを覚えている。魔術学院で教えているんだろうか?
「なに?」
フランがやや警戒するように、金髪ドリルさんに視線を向けた。こちらに敵意がないことは分かるが、その声にはやや棘というか、微妙な呆れのようなものが含まれていたのだ。
「何? ではありませんわ」
フランの言葉に、金髪ドリルさんが溜息をつく。
「学院生が冒険者ギルドで依頼を受ける際、外套の着用が義務付けられています。その状態では、学則違反ですわ」
どうやらフランが魔術学院の生徒であると勘違いしているらしい。そして、学則違反をしているように見えたフランを注意するために声をかけてきたようだ。
「あなた、外套は?」
「ない」
そりゃ、学院生じゃないんだから持ってないんだけど、もっと言い方があるだろ? まるで今は持ってきていないように聞こえるぞ?
「ではこのまま見逃すことはできませんわ。一度学院にお帰りなさい」
やっぱり誤解された。ギルドから連れ出そうというのか、金髪ドリルさんがフランの腕を掴む。悪意があるわけじゃないので、フランも振りほどこうか悩んでいるらしい。
とりあえずその場で踏ん張って抵抗している。金髪ドリルさんは聞き分けの無い子供を見る目だ。ここで怒鳴らない辺り、意外と優しい人なのかもしれない。
フランとドリルさんが無言で力比べをしていると、ギルドの奥から1人の男性が姿を現した。見た目は20代後半の美形の男性だ。まあ、エルフなので、見た目から年齢は分からないが、それなりの経験を積んでいることは間違いなさそうだった。
戦士としての技量もしっかりしているうえに、その身に秘める魔力はそこらの魔術師よりもよほど高い。さらに気配の消し方も上手で、オールマイティーに能力が高そうだ。
男性はやや早足に受付に近づくと、受付嬢にヒソヒソと話しかけた。まあ、俺には聞こえてしまうが。
「緊急事態の知らせが鳴ったが、何があった?」
どうやら受付で何かをすれば、ギルドマスターの部屋で音が鳴る仕掛けがあるらしい。強盗のときとかに便利そうだ。冒険者ギルドに押し入る間抜けな強盗がいるとは思えないけどさ。
「実は、高ランクの冒険者様が滞在報告にいらっしゃいまして」
「ほう? ランクは?」
「Bです」
「どこにいる?」
「そこの子です」
フランを諭すために1度手を離したドリルさんと、「帰る」「帰らない」という問答をしているフランを指差す受付のお姉さん。そして、ギルドマスターは一瞬で何が起きているか理解してくれたらしい。
「おい、ちょっといいか?」
「え? えっと、どちらさまですの? 私たち、少々取り込んでおりますの」
「いや、俺は彼女に少々用がある」
「……どのようなご用件で? 私は彼女の保護者ですわ」
ドリルさんが、フランを庇うように前に出た。上級生として、下級生を守ろうとしてくれているのだろう。
ギルドマスターは外見だけは若い男に見えるし、なにやら怪しい男に見えたらしい。下級の冒険者じゃ、ギルドマスターにあったことがなくても当然だろう。
「保護者? そうなのか?」
「……ちがう」
「え?」
フランが一瞬悩んだのは、ドリルさんに申し訳なく思っているからだろう。自分の口下手のせいで、なんか空回りさせてしまったうえ、ギルドマスターと変な絡み方をさせてしまったからな。
「だよな。おれはキナバーロ。このギルドのマスターをやっている」
「え?」
「ん。冒険者のフラン」
「ええ?」
「まさか、異名持ちにお目にかかれるとはな。歓迎するぜ」
「ええええええ?」
驚きすぎて、呆然としている金髪ドリルさんに、フランがペコッと頭を下げた。
「ごめんね」
すまん、金髪ドリルさん。
転生したら剣でした、6巻が今月末に発売されます。
ラバーストラップ付き特装版は、かなり人気が出ているようで嬉しい限りなのですが……。
人気があり過ぎて、場所によってはご予約していただかないと手に入らないかもしれません。
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