52 フラン目指して
俺を咥えたウルシは、勢いよく駆け出した。これでフランの場所までいけるか? いや、待てよ? これって不味くないか?
「待って! 罠があるわよ!」
後ろから叫ぶアマンダの言う通りだ。また転移の罠とか発動させたら最悪だぞ。
『ウルシ! 罠があるから気を付けろ!』
「オウン?」
『平気なのか?』
そうか、空中跳躍:Lv8を持っていたな。罠を踏まなければ、そもそも作動しないってことか。さらに、ウルシの目に、魔力が籠る。闇魔術を使ったみたいだな。何だ?
いや、どうやら罠を見抜くことができるようになる魔術みたいだ。時おり何かを避ける様な不自然な動きをする。どうも、センサー系の罠を見抜いているようだった。
一切罠を発動させない。しかし、300メートル程走ったところで、突然ウルシが立ち止まってしまった。
『ウルシ?』
「ホン?」
『いや、フランの場所は?』
ウルシが俺を地面に置いて、その場にお座りしてしまった。
「ハッハッハッハ」
『ハッハじゃなくて』
「オンオン!」
ウルシが突然壁をカリカリとひっかくと、凄い勢いで掘り始めた。
『え? もしかして、この向こうってことか?』
「オン」
「もしかして、フランちゃんがそこにいるの?」
アマンダも驚きの顔で、近づいてきたぞ。ていうか、ウルシの脚に遅れずに付いてきてたのか! いや、敏捷値はアマンダの方が高いんだし、当たり前なのか?
「――ウィンド・ボルテッカー!」
アマンダが、暴風魔術で壁を打ち砕く。
『隠し通路か!』
「このダンジョン、こんな場所ばっかりだから嫌いよ。風魔術の探知も効かないはずだわ」
転移罠にかかった奴を閉じ込めるための場所なのかもな。
気配を探るが、奥からは蜘蛛の気配しかない。本当にここにいるのか? 言いようのない不安感が俺を襲った。
『ウルシ、いけ!』
「オン!」
ウルシが空中跳躍を利用して、軽快に走る。
『いた!』
すごいぞウルシ! 本当にいた! フランの姿が見える!
だが――。
『た、戦ってるのか?』
通路の遥か先に、フランが居た。よかった、生きて、動いている。
しかし、フランは小型の蜘蛛に囲まれていた。蜘蛛の幼生だ。小蜘蛛がワラワラとフランの周囲に群がっている。1匹1匹は弱くても、あの数は危険だ!
『ウルシ、急げ!』
「ホン!」
ただ、おかしなことに気づく。武器を持っていないはずのフランの手には、短剣の様な物が握られていた。あれは何だ? 今のフランは、丸腰のはずだったのだが……。運よく宝箱か何かから短剣をゲットしたのか?
いや、そうじゃなかった。あれは、ギュランから奪った隠し爪の首飾りだ。魔力を通すと、中から短剣の様な爪が飛び出す暗器仕様だったのだが、性能はイマイチだったはずである。
『逃げろフラン!』
ダメだ。まだ念話が通じる距離じゃない。なんで逃げないんだ! だが、よく見るとフランが逃げずに蜘蛛たちと戦おうとしている理由が分かった。
フランの背後に、2人の人間が倒れている。一緒に転移したクラッドの仲間たちだ。フランは彼らを守ろうとしているようだった。
『フラン!』
くそ、雑魚蜘蛛どもが鬱陶しいな! 魔術を放ちたくても、こいつ等の張った巣が邪魔なせいで、フランの周りにいる蜘蛛に魔術が届かない。
『フランは剣術を失っているんだぞ!』
そんな状態で戦うなんて自殺行為だ!
蜘蛛どもがフランに飛びかかるのが見えた。だめだ! あの数を今のフランは避けられない――いや、案外戦えてる?
動きは確かに鈍くなっているが、剣を振るう身のこなしは、そう悪いものじゃない。小蜘蛛を切り倒し、放たれる糸をヒラリと躱す。剣術:Lv1ってあんな強かったっけ? あ、また1匹切り捨てた。
だが、群がる小蜘蛛の攻勢は留まるところを知らない。今度は壁伝いに、気絶している冒険者たちに襲い掛かろうとしている。フランは咄嗟に隠し爪を振るうが、それだけでは小蜘蛛を防ぐことが出来なかった。蜘蛛が一斉に飛びかかる。
『フラン! 無茶するな!』
なんと、フランが身を挺して冒険者たちを庇ったじゃないか! 小蜘蛛たちの牙が、フランに突き立てられる。血が! しかもデカイのが出てきた! 親蜘蛛か? ああ! 親蜘蛛の突進で引きずり倒された!
『うおおおぉぉぉぉぉっ! どけぇっ!』
「オオオォン!」