537 裏口の向こう側
5分後。
「やあやあ、待たせたね。君がアリステアの紹介状を持ってきたという冒険者さん?」
「ん」
「見せてもらっていいかな?」
「わかった」
「ほうほう……」
現れたのは、軽薄な感じの兄ちゃんだった。ハーフエルフだから実年齢は高いのだろうが、どうみても10代半ばのチャラ男にしか見えんな。アリステアの紹介状を読んでいるんだが、その軽薄そうな雰囲気のせいで、適当に流し読みしているようにしか見えなかった。
「ふーん……。まあいいや、とりあえずこっちにどうぞ」
男性に案内されて裏口をくぐる。その向こうは天井が低い通路になっていた。外壁自体が相当分厚いらしく、そこを通り抜けるための通路はちょっとしたトンネルのようだ。
「僕はコルタンディルー。気安くコルトって呼んでね?」
「冒険者のフラン。こっちはウルシ」
「オン!」
「狼型はいいよねぇ。従順だし、戦闘によし、索敵によし、夜の毛布代わりにもよしだもん」
「ウルシは最高」
「オンオン!」
「はは、仲が良さそうだ」
フランを案内してくれるコルトを後ろから観察してみる。魔力は高いが、足の運びは完全に素人。典型的な研究者タイプだろう。
そうやって笑うコルトに連れられて、トンネルを抜ける。すると、そこは想像以上に広く、面白い光景が広がっていた。
敷地の中には芝生だけではなく、森や池、岩山などが存在している。訓練や実験に使うのだろう。さらに奥を見ると、なんと高さ10メートルほどの雪山があるではないか。
魔力が感じられるので、魔術で生み出したか、魔術で維持しているんだろうが……。さすが魔術学院だな。
さらに、それら不自然な自然物の中央に、巨大な建造物が鎮座している。
外から見えたたくさんの塔は、全てが通路や建物で繋がっており、実は超巨大な一つの建物を構成する一部分でしかなかったのだ。
「ほー」
「中々凄いだろ? 今でも改築が続いているから、年々建物が広がっているんだよ? 最初は、あそこに見える少し背の低い塔から始まったんだ」
コルトが指差すのは、たくさんの塔たちの中央にある、一際古めかしく、みすぼらしい塔であった。その塔だけは巨大施設とは繋がっておらず、独立して静かにたたずんでいる。魔術学院が最初はあんなに小さかった? にわかには信じられないな。
「へー、いつ建てられた?」
「なんでも2000年以上は経っているらしいよ? 元々は学院長の研究所だったっていう話だね~」
ハイエルフの研究所か。だとすれば、見た目の地味さで判断できないだろう。中ではどんな凄まじい研究が行われていることか。
「ま、あそこは基本立ち入り禁止だから。学院長か、認められた人間だけだね。それよりも、僕らはこっちだ」
「ん」
コルトが案内してくれたのは、トンネルの出口のすぐ脇にある、小さな建物だった。いや、学院を見た後では小さく見えるが、これだって3階建てのそこそこ大きい建物だろう。
「警備員さんの詰め所だけど、色々と調べる魔道具もあるからさ。とりあえず、冒険者カードが本物かどうか調べるけど、いいよね?」
「ん。構わない」
「ごめんね。僕は戦闘力は低いけど、魔力は感じられるからさ。君がただ者ではないって分かるんだけど、逆にそんな人物を検査もなしに素通りはさせられないんだよね」
なるほど。雑魚ならむしろどうとでもなるが、実力者はしっかり検査が必要ってことか。
コルトが何度か見たことのある水晶に、フランの冒険者カードをかざした。それで、確認は完了であるらしい。
「はい、ありがとう。これで裏付けは取れた」
「ん? もう終わり?」
「ああ。そうだよ」
「手紙が本物かどうか確認しない?」
そう。俺もそこは気になった。だって、そもそもの手紙が贋物だったら、フランが冒険者かどうかなんて関係ないじゃないか? 筆跡鑑定とか、押されている判が本物かどうかとか、調べることは色々あるだろう?
だが、コルトは紹介状をフランに渡しながら、朗らかに笑った。
「あはは。ごめんごめん。紹介状の確認はもう終わってるんだ。それは特別な紙でね。ちょっとした薬液を垂らせば、真贋が判別できるんだよ」
あの紹介状に使われた手紙は、この学院でアリステア用に作られた特別な物であると、すでに確認できているそうだ。
「紹介状が本物で、冒険者ランクも高い。問題ないでしょ? あとは面接なんだけど……」
そ、そんなものまであるのか。いや、世界有数のマンモス校に、臨時とは言え教官として雇われるのだ。むしろ当然だろう。
でも、大丈夫かな……? 面接試験なんて、フランが一番不得意なジャンルなんだけど。いや、宮廷作法スキルを全開にして、あとは俺の指示した通りに受け答えさせればなんとかなるか? 伊達に就職氷河期に内定を取っているわけじゃないんだぜ?
まあ、昔のこと過ぎて、当時勉強した面接のイロハなんてもう半分以上忘れたけど。フランよりはマシなはずだ。ばっちこーい!
そんな風に気合を入れていたんだが、面接が行われるのは今日ではないという。
「ごめんね~。面接は学院長がやらなきゃいけないんだけど、ちょっと所用で学院の外に出てしまっていて。明日か明後日には戻ってくると思うんだ」
そりゃあ、事前に到着日時を知らせていたわけじゃないし、そういうこともあるよな。
「わかった。じゃあ、どうすればいい?」
「宿はどこ? もし宿がないなら、こちらで用意するけど?」
「もう決めた」
「へー、どこだい?」
「緑の古木亭」
フランがそう言うと、コルトが少し驚いた顔をした。
「どうしたの?」
「いやいや、あそこの女将さんは気難しくて、気に入らなければ泊めないことで有名なんだよ? よく部屋がとれたね?」
「普通のお婆さんだった」
「オン」
フランにもウルシにも優しい、エルフの老婆だったよな? 人を間違えてないか?
「そ、そうかい……。ま、まあいいや。学院長が戻ってきたら使いを向かわせるから」
「わかった」
これで、あとは面接さえクリアしてしまえば、晴れて学院の教官というわけだ。別に絶対なりたいわけじゃないんだけど、なんか試されている感があるので、俺もフランもちょっとムキになり始めているのだった。
レビューの数が凄いです。レビュー数だけで検索すると、上から15番目……。
累計はまだ70位くらいなので、抜かれましたねwww
レビューを読み返すたびに、「よし、今日も頑張って書こう」と思えます。ありがとうございました。
ただ、毎回毎回ここでお礼をしていると、「また、あとがきでレビューの話かよ」って思われそうでちょっと心配になってきました。
そこで、今後レビューに対するお礼は個別にメッセージでお送りさせていただくことにします。