536 魔術学院の壁
『ここが魔術学院か……デカイというか、高いな』
「とんがってる」
「オン」
緑の古木亭で部屋を取った後、俺たちは改めて魔術学院にやってきていた。
最初は冒険者ギルドに行くつもりだったのだが、思いのほか学院が近いことに気づいたのである。
宿を出た俺たちは、とりあえず高台から町を見ようと考えた。そして、500段以上はある狭い階段を昇り、その先にあった広場からレディブルーを見回してみたのだ。すると、魔術学院が驚くほど近くに見えていた。
そこから学院に行くまでにまたちょっと迷ったから、結構時間はかかってしまったが。
上から行けば5分もかからなかったはずなんだけど……。まあ、探検が捗ったから、フランもウルシもご満悦だけどね。
この町はワッフルが名物であるらしく、色々な店を発見してしまった。まさか甘い味だけではなく、甘くない生地にハムやチーズを挟んだ物まであるとは思わなかった。
これは、レディブルーにいる間に色々とお店を発掘してみるのも面白そうだ。余裕ができたら、俺も作ってみようかな? フランにどんなワッフルがいいか聞いても、どうせカレー味としか言わないだろうが。
ちなみに、フランが食べたいと言っていた淡水魚のカレー。ちょっと変わり種を1つと、ストレートなものを1つ考えてみた。
1つ目はウナギのカレーだ。山椒を強めに利かせて、さらに甘さ控えめに作ったウナギの蒲焼きを乗せてみた。ひつまぶし風カレー? ちょっとやり過ぎたかと思ったがフランは美味しそうに食べていた。やはりカレーは最強だったらしい。
もう一つの鯉カレーもまあ普通に食べていたが、フィッシュカレーだからね。目新しさもないし、泥臭さを取るために少し辛くし過ぎたらしく、こっちはウルシの方がヒットしていた。
『とりあえず入り口を探そう』
「ん」
俺たちが今立っているのは、魔術学院を囲む外壁の前だ。そこからでも、魔術学院の中に立ち並ぶ背の高い塔たちがよく見える。まるでビルのような細くて背の高い塔が、十以上は見えるだろう。奥に行けばもっとあるかもしれない。
城や砦といった軍事施設以外で、これだけ高い建物は珍しいだろう。最初は狭い敷地を有効利用するためのなのかと思ったが、どうやら違うようだ。
何せ、歩いても歩いても門が見えてこない。思い返してみれば、町の外からこの都市を見たとき、約4分の1くらいは魔術学院が占めていたはずだ。都市と呼べる規模を誇るレディブルーの4分の1ともなれば、そこらの町よりも広いだろう。
道中で立ち寄ったキアーラゼンよりも、魔術学院の敷地の方が広いと思う。
「……登っちゃう? そうすれば人が来る」
「オン」
『ダ、ダメだ!』
これから短い間お世話になる場所なのに、問題は起こせん。それに、この壁はただの壁ではなかった。魔力の気配があるのだ。
一見、警報系の魔術に思える。フランもそう判断し、あえて警報を鳴らして人を呼ぶという、ヤンチャ過ぎる作戦を提案したのだろう。
しかし、魔力統制SPを手に入れた俺にはそれ以外の魔力が感じ取れていた。警報魔術は目くらましで、その魔力の影に何か違う魔術が隠蔽されているようなのだ。
さすがにどんな魔術かは感じ取れないが、確実に面倒なことになるだろう。少なくとも自分たちで試してみる気にはなれない。
ここは地道に歩くのが吉であろう。
『というわけだよ。フラン君』
「……ん。わかった」
そうやって壁伝いにブラブラと歩いていると、ようやく壁以外の物が見えてくる。ただ、正門ではなさそうだ。
「師匠、あれ?」
『どうも入り口があるっぽいが……。なんであんなに小さいんだ?』
ようやくたどり着いた魔術学院の門は、壁の巨大さに比べて驚くほど小さかった。勝手口かと思うほどだ。いや、実際、それに近いものなのだろう。
『どうも裏門に来ちまったらしいな』
使用人や職員が外出時に使う裏口だと思われた。
「どうする?」
『まあ、正門に行ってもいいけど、とりあえずここで対応してもらえるかどうか、声をかけてみようぜ。ああ、アリステアの紹介状は出しておくんだぞ?』
「わかった」
『ウルシは……まあ、そのままでいいか』
影に入っているよりも、最初から姿を見せる方がよかろう。後々紹介する手間も省けるのだ。
「すいません」
裏口とは言え、守衛さんはいる。そこでとりあえずその人に声をかけてみることにした。
「おや? 何かな?」
優しそうなおじさんである。守衛がこんなに人当たりが柔らかくていいのかと思うが、それだけ職員への指導が行き届いているということなんだろう。
「依頼を受けて来た」
「ほう? 冒険者さんかね? 珍しいな、外部に委託するのは……」
「ん?」
「あっと、済まない。それで、どんな依頼かな?」
どうも、ここで取り次いでもらえそうだ。フランがアリステアの紹介状を守衛のおじさんに手渡す。
「模擬戦の依頼。これに色々書いてある」
「失礼するね。なになに……ええ?」
おじさんが紹介状を読んで驚いている。まあ、仕方ない。あれには学院長が探していた模擬戦教官の人材が見つかったから、紹介状を持たせて送ります。的なことが書かれているからね。
あとはアリステアの名前が書かれている。アリステアはこの魔術学院の教職員としての肩書があるらしい。魔術学院謹製の封筒と手紙に加え、彼女の署名があればしっかりと対応してくれるはずだった。
「えーっと、冒険者カードはお持ちですか?」
「もってる。これ」
「拝見させていただきますね」
カードをしっかり確認した後、守衛のおじさんは裏口の横にある小さな小窓を開いて、向こうにいる誰かと話し始めた。
「この紹介状、少しお預かりしてもいいですか?」
「わかった」
そして、おじさんは紹介状を小窓の向こうに渡すと、フランにカードを返しながらここで少しだけ待つように言ってくる。
「えーっと、とりあえず私では最終判断は下せないので、もう少し偉い人が来ます。少々お待ちください」
大分態度が変わったな。さっきまでは子供扱いだったが、今ではキッチリお客さん扱いになったのだろう。贋物だと決めつけずに、しっかり対応してくれているというわけだ。
さて、どんな人が来るんだろうな?
レビューの勢いが止まりません。ありがとうございます!
自分、褒められて伸びる男ですから。
まだまだ受付中ですよwww