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533 VSモドキ


『効くかどうかわからんが、レイク・マーダーにやった方法を試すぞ!』

「オン!」


 閃光からの影縛りだ。だが、あまり意味がなかった。どうも目が悪いらしく、光に反応しなかったうえ、触手の1、2本が束縛された所でたいした意味がなかったのだ。


『ダメか……』

「オン……」


 となると、直接攻撃しかないだろうか? 魔術だとどうしても周辺への被害が大きい。下手に火魔術や光魔術を使うと、水蒸気爆発だの、大波だの、どんな影響が出るかも分からんし。


「師匠、最初はわたしがやる」

『そうか?』

「ん! 覚醒!」


 フランは頷くと、覚醒する。本気モードだ。ウルシの背を蹴って飛び上がるフラン。さらに空中跳躍で高く上がると、落下しながら俺を大上段に構えた。


「ブジュルルル!」

「ブジュルォ!」


 フランに向かってモドキから伸ばされた触手が襲いかかる。触手伸縮スキルを舐めていたな。見た目は5メートルほどだった触手が、20メートル近い長さに伸びている。


 だが、フランはタンタンと軽やかに宙を蹴り、時には体を捻って、踊るようにその触手を躱し続けた。俺は使わない。あくまでも最低限の回避のみで、落下を続けていった。


すでにモドキは目の前だ。そして、フランは溜め続けてきた力を解放する。


「――天断」

「ブジュ――」

「ブブ――」


 たった1振りで、2体のモドキが堅い殻ごと真っ二つにされ、ドロドロと溶けていった。もう、自分の力だけで天断を放てるのだ。


「師匠、あいつは任せる。いくよ」

『おう!』

「はぁぁ!」


フランの投擲で勢いが増した俺の念動カタパルトによって、1匹が粉々に粉砕される。いざという時は物理が頼りになるってことだろう。


「あれはウルシお願い。おっきくなっていいよ」

「ガルルオオォ!」

「ブジュー!」


 フランの指示によって最後の1匹を仕留めたのはウルシだ。元のサイズに戻り、その大きな口で甲殻ごと噛み殺す。


『この事態じゃ試験は中止だろうし、ここでウルシの強さを見せられたのはよかったかもな』

「ん」


 ガル爺さんからの依頼をフランは覚えていたのだろう。そこで、模擬戦でなくてもウルシの強さを冒険者たちに見せつける方法を考えたらしかった。


「ペッペッ! オフ……」

『どうした? 不味いのか?』

「オン……」


 どうやらモドキは口に合わなかったらしい。ドロドロに溶けたモドキの残骸を吐き出しながら、湖の水で口を必死に洗っている。


「次は噛まない方がいい」

「オン」

『とりあえず戻るか』

「ん」

「オン」

『おっと、ウルシは小っちゃくなろうな』


 そのまま俺たちが冒険者船に戻ると、冒険者たちが歓声で出迎えてくれた。ビビっちゃうような低ランカーは未だに寝ているから、ここにいるのはある程度の実力者ばかりなのだ。圧倒的な力を示したフランを、素直に認めてくれたのだろう。


「さすがでござるな! いや、想像以上でござった!」

「うんうん。凄いね~。同じランクBって名乗るのが恥ずかしくなりそうだ」

「がははは! フラン、お前がいてくれてよかったぜ!」


 揉みくちゃにされるフラン。しかし、フランは嬉しそうだ。こういったコミュニケーションは新鮮なんだろう。それに、いかにも冒険者っぽいからな。


 冒険者たちが肩を組んで陽気に歌い出す。


 なんでも、この湖にいる精霊を歌ったもので、湖畔の乙女の歌というらしい。


 要約すると、右目がアメジストで左目がエメラルドのような不思議な瞳を持った、金髪で白い肌のいとけない少女の姿をした精霊が、この湖を守っている。ありがたやー。という内容の歌詞だった。


 歌っている内にさらにテンションが上がってきたのか、ガル爺さんが叫ぶ。


「よっしゃ! 宴だ――」

「バカ言ってんじゃないよジジイ! ボンクラどもも、いつまでも騒いでるんじゃない!」


 さらにヒートアップしそうになった冒険者たちを怒鳴りつけたのは、仁王立ちするジル婆さんだった。


「周囲の警戒に、他の個体の捜索! 被害の確認! やるこたぁいくらでもあるんだよ!」


 小柄な老婆とは思えない怒鳴り声と威圧感で、場の空気を一瞬で支配したな。婆さんに睨みつけられた冒険者たちは、一斉に散っていった。


「フラン、あんたはこっちだよ」

「ん」

「フラン! 今回は助かった。何か困ったことがあったら言ってこい。次は俺が助けてやらあ!」

「ありがと」



 宴の機会を逃して少しションボリ気味のフランは、ジル婆さんに連れられて会議室のような場所に来ていた。


「なんだいあんた。もしかしてあの馬鹿どもともっと騒ぎたかったのかい?」

「ん……」

「はぁ。パッと見た感じじゃとてもあの馬鹿野郎どもと合うようには見えないんだけどね……。やっぱり高ランク冒険者ってことかい」


 呆れたように首を振るジル婆さん。苦笑いしているが、その眼差しは優しい。結局、彼女も馬鹿野郎どもが嫌いじゃないんだろう。


「さて、今回の試験官の依頼は助かったよ。こちらとしても満足だ」

「ん」


 やはり試験はこれで終わりであるらしい。まあ、合否は最初の戦いとその後の集団戦で判断できるということなのだろう。


 その後は報酬の話などをして、依頼完了のお墨付きをもらった。あとは報酬をもらえば終了だ。


『そうだ、1つ婆さんに聞きたいことがあったんだ』


 俺は、フランを睨んでいた少年のことをジル婆さんに聞いてもらった。


「あの子かい? うちのギルドじゃ史上最年少でランクE試験を受ける天才って言われてるね。今年で13歳だったかな?」


 確かに、他の冒険者たちが16歳以上だったことに比べると、非常に若いことは気になっていたのだ。だが、それでフランに殺気を飛ばす意味が分からん。


 自分以上に評価を受けている相手を嫌うのは分かる。憎々しげであるとか、単純に怒りの念なら理解できるんだが……。


「殺気を感じた」

「ふむ……。となると、分からないねぇ。初対面なんだろう?」

「ん」

「だったら、直接聞いてみるといい。隣の部屋で寝ているからね」


 ということで俺たちは医務室に向かったんだが、少年の姿はどこにもなかった。いるのは、フランに怯える若手冒険者たちだけだ。少年の行方を尋ねてみても、知らないという答えだった。


 自力で起き上がって、出て行ったのだろう。


『仕方ない。次に会う機会があったら直接聞けばいいさ』

「ん」


 さて、依頼も終わったし、次はいよいよ自治区だな。


「転生したら剣でした」6巻の発売日まで1ヶ月をきりました!

今回はラバスト&小冊子付きの特装版がありますので、お楽しみに!

マイクロマガジン社様のホームページで詳しい情報が見れますので、ぜひチェックしてみてください。

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― 新着の感想 ―
[一言] 両目を隠していた市場の少女がまさかの・・・。
[気になる点] 湖の精霊ってあの屋台の金髪の眼帯の娘?
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