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525 再度やらかす


ホッとしているのも束の間、ダンディさんが声をかけてきた。その顔は非常に真剣だ。


「君は、この辺の冒険者じゃないよね?」

「ん。旅の途中にたまたま立ち寄った」

「そうか……。マナー違反だと知っていて、あえて尋ねさせてもらう。あの大量の緋水草は、どこで採取したんだい? 教えてもらえるなら、情報料を払う」

「場所?」

「ああ。緋水草の不足は、この地域の人間の頭を常に悩ませている問題でね。新たな採取ポイントが見つかったというのなら、それはかなりの朗報なんだ」


 なるほど。駆け出しにしか見えないフランが大量採取できるような、難易度の低い採取ポイントを見つけたと思っているらしい。


「別にいいよ」

「ほ、本当か?」

「ん。もう行かないし」

「恩に着る!」


 そう言って頭を下げた男性は、早速地図を取り出した。湖を中心にした、この地域のそれなりに詳細な地図だ。


でも、残念ながらもう知られてる場所なんです。


「どこだか分かるかい?」

「ん。ここ」


 フランが指差したのは、キアーラゼンとセフテントの中間に位置する、小島のやや西側だ。キアーラゼンでは、星形の島から西に100メートルと教えられた場所である。


 キアーラゼンのギルドマスターは、フランであればこの場所でも採取が可能だと分かっていて、難易度の高い場所での採取を依頼してきたのだ。


「え? ここって、レイク・マーダーの巣があったはずだが……?」

「倒した」

「は? 倒した? 君がか?」

「ん」


 フランが頷くと、再び冒険者たちが騒めいた。今度は先程よりもさらに否定の空気が強い。


「いや、教えたくないなら、教えたくないと言ってくれればそれでいい。嘘をついてもすぐにわかるんだよ?」

「ん? 嘘じゃない」

「で、では、レイク・マーダーの素材はあるんだよね? 倒したのだから、少しはあるのだろう?」


 ダンディさん、怒ってるね。朗報から一転して、嘘情報を教えようとしていると思われたのだから、仕方ないが。それでも怒鳴るような真似をしないのは、年の功のなせる技か? 冒険者にしては気が長いらしい。


「それを出してみてはくれないかい?」

「ここで?」

「そうだ」


 フランが周囲を見回すと、全ての冒険者が厳しい顔でこっちを見ている。あーあ、すっかり噓つき認定されてるよ。


ムカついた。やらかしちゃってオーケーだ。俺は止めん。


 そして、先程以上の悲鳴があがった。ほぼ無傷で倒していたレイクマーダーだ。俺は昨晩のうちに肉と内臓を取り除いて、全身一枚皮として処理していた。頭は付いたままだし、中々迫力があるだろう。


それが30匹分だ。周囲の冒険者たちが崩れた皮の山に押されて転んだりしていた。しかもかなりの生臭さだ。でも、出せって言ったのはそっちだもんね!


「信じた?」

「う、嘘だろ……」

「嘘じゃない」

「うあ……」

「どうせどっかで買ったんだろ!」

「そんなことする意味はなんだよ!」


 どうしよう。収拾がつかない。やっぱり止めればよかったかも……。受付のお姉さんたちも、どうしたらいいのか分からないらしい。今度は全員であたふたしている。


すると、この騒ぎを聞きつけたのかギルドの奥から小柄な老婆が現れた。


見れば分かる。ギルドマスターだろう。体に流れる魔力の淀みのなさは、彼女が一流の魔術師であると教えてくれていた。


「なんだこりゃ? おい、ルル。何があったんだい!」

「あ、マスター。えっと、これはこの子が……」

「おいおい……。なんでこんなところに異名持ちが居るんだい?」


 老婆が軽く目を見張る。一目見ただけでフランの正体を看破したらしい。


「旅の途中」

「ありがたいが、もう少し考えてほしいもんだよ」


 すみません。ちょっと熱くなっちゃいました。そして、受付の少女とダンディさんから話を聞き、さらに深いため息をつくのだった。


「このギルドにはボンクラとフシアナしかいないのかい……。嘆かわしい。一見すればただ者じゃないって分かるだろうに」

「す、すみません……」

「まあいい、それは処理しておきな。スイフト、あんたも手伝うんだよ? 元はと言えば、あんたがこの子の実力を見抜けないマヌケだったせいなんだからね?」

「は、はい」

「あんたはこっちだ、黒雷姫」

「ん」


 ギルドマスターがフランを黒雷姫と呼んだ瞬間、それまでとは全く質の違うざわめきが起きた。一言でいうなら、驚愕だろう。フランの異名は、ベリオス王国にまで知られていたらしい。


 フランとギルドマスターが奥の部屋に入った瞬間、堪えていた悲鳴が一斉に発せられた。聞き耳を立てずとも、フランのことを噂しているのがわかる。


 あんな子供が強いわけないと言う意見が多い中で、冷静な冒険者たちがギルマスが間違えるわけがないと言っているようだ。それでも年少の冒険者たちが自分たちの方が強そうだと言い放って、笑われたりもしている。


「うるさい奴らで済まないね」

「へいき」

「アタシはここのギルドマスター。冒険者どもからはジル婆さんて呼ばれてるね」

「私はフラン。ランクB冒険者」


 一応ギルドカードを見せるが、ジル婆さんは一瞥しただけだ。


「知ってるよ。黒猫族でここまでやるなんて、あんたしかいないからね。見た目も聞いた話にそっくりだ。で、旅の途中だって?」

「まじゅちゅ……魔術学院に行く」


 魔術を噛んだフラン可愛い。これでちょっと恥ずかしがってくれたらもっと可愛いんだがな。フラン的には特に恥ずかしいことでもないらしく、普通に言い直しただけである。


 ギルドマスターも流すことにしたらしい。


「魔術学院? まさか入学するのかい?」

「違う。依頼を受けただけ」

「そうかい。まあ、あそこは戦闘技能だけを教える場所じゃないし、あんたくらいの年齢なら入学してもいいとは思うけどね」

「冒険してる方が強くなれる」

「ま、強制はせんよ。さっきの緋水草は、キアーラゼンにもちゃんと送っておく。ただ、この辺でもあれが不足しててね。他のギルドでも分けていいかい? ちゃんと依頼は達成扱いにしておくからさ」

「ん。必要なところで分ければいい」

「ありがとさん。助かるよ」


 よほど不足しているんだな。ジル婆さんが明らかにホッとした表情をした。


「レイク・マーダーの皮も売ってもらっていいのかい?」

「いい」

「あれだけ綺麗な皮だ、色をつけとくからね」

「ありがと」

「さて、雑談はこの辺にしておいて、少し真剣な話をいいかい?」


 おっと、やはり部屋に呼ばれたのには訳があったか。


「あんたをランクB冒険者と見込んで、一つ頼みたい依頼があるんだ。受けちゃくれないかね?」

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[一言] 噛みフラン可愛い
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