524 緋水草納品
『いやー、運がよかったな!』
「ん」
『まさか商業船団がちょうどセフテントに入港しているところに出くわすなんて』
湖底の霊草を採取した翌日。
湖の畔を軽快に走るウルシの背から目撃したのは、いくつもの超巨大な船が、湖岸に停泊する光景だった。全ての船が一斉に港に入れるわけではないので、何日もかけて順番に港を利用するらしい。
キアーラゼンのアホ子さん(名前は聞いてない)の言っていた通り、大小併せれば50隻を超えているだろう。よくあれだけ密集して、船同士がぶつかり合わないものだ。
「ウルシ、上から見る」
「オンオン!」
ウルシが空中跳躍スキルを使って一気に空に駆け上がる。
『おー、上から見ると、ごちゃごちゃしてるな』
「ん」
壮観だとか言う前に、船が多すぎて圧倒されてしまった。ただ、一番大きい船のサイズが上からだとよく分かる。大型船の中でもひときわ大きい旗艦と思われる船は、それこそ砦のような大きさであった。
多分、全長150メートルを超えている。幅も30メートルくらいはあるんじゃないか? 強い魔力の反応があることから、魔導推進機を積んでいると思われた。いや、船体からも魔力が感じられる。もしかしたら魔術で強化している? それとも魔樹のような特殊な素材を使っているのかもしれなかった。
豪華客船とは比べ物にならないが、以前見たことのあるフェリーよりは大分デカイ。
「町に行ってみる」
「オン!」
『セフテントの冒険者ギルドに納品ついでに、商業船団のことを聞こうぜ』
「ん」
セフテントの町に入ると、そこは大勢の人でにぎわっていた。キアーラゼンよりも大きな町ではあるが、何倍も違うわけでもない。しかし、その賑わいは天と地の差があった。
商業船団の効果なのだろう。クランゼル王国の王都並の人出である。祭りでもしてるのかっていうレベルだ。
「もぐもぐ」
「モムモム」
『このまま真っすぐだ』
人混みのせいで全く視界の利かないフランを、俺が誘導する。幸いにも冒険者ギルドは背の高い建物だったので、屋根を目印に進めば迷うことはなかった。
人混みと良い匂いを放つ屋台、珍しい露店やその客引きに邪魔されつつも、なんとか冒険者ギルドにたどり着く。だが、中も外に負けず劣らず賑わっていた。
「ひといっぱい」
『商業船団に乗ってる冒険者たちなんだろうな』
商業船団の冒険者たちが、寄港地では船を下りて依頼をこなすと言っていたはずだ。若い冒険者が多いのも、キアーラゼンで聞いた話と一致する。
『めっちゃ並んでるな……』
この人数に、カウンターの数が全く足りていない。だが、それも仕方ないだろう。これだけ混むのは年に数回だけなんだしな。
一応臨時のカウンターを増設しているが、それでも足りていない。
『仕方ない。並ぼう』
「ん」
ウルシは影に入っていてもらってよかった。どんなサイズでも邪魔になっていただろう。
だが、列に並んだフランに、周囲からの視線が集中している。下手したら全員がフランを見ているかもしれなかった。どこに行っても注目されるのは慣れているが、入った瞬間から全員にガン見されるのはさすがに珍しい。
(……なんで?)
『あー、考えてみりゃ、ここにいる奴らって、俺たち以外は全員知り合いなんだよな』
見覚えのないフランが目立ってしまうのは仕方ないだろう。だが、別に悪いことをしているわけじゃない。堂々としていればいいのだ。
それに、彼らがこのギルドに来るのは半年ぶりのはずだし、その間に冒険者になった新人だっているだろう。結局、誰かに声をかけられたりすることもなく、フランの順番が来たのだった。
商業船団の冒険者たちは思ったよりも行儀がいいらしい。いや、狭い船の中で同じ面子で依頼をこなすのだ、馬鹿なやつは自然と淘汰されるか、教育されるのだろう。
「えーっと、このギルドは初めてですか?」
「ん。何で分かった?」
「商業船団の冒険者さんなら、分かるようにエンブレムを付けていますから」
よく見ると、周りの奴らはそろいの銀色のバッヂのような物をつけているな。あれがそのエンブレムなのだろう。そして、このギルドの受付なら、フランがここの冒険者でもないと分かるというわけか。
「ん。さっきついた」
「そうですか。それではどのようなご用件です?」
「依頼達成の報告。納品と、討伐。納品はこれ」
フランはキアーラゼンで受け取った依頼書を受付に提出する。すると、お姉さんが驚いた顔でそれを受け取る。
「まあ、緋水草の納品依頼ですか。最近不足しているので少量でもありがたいです。ここに出していただいてもよろしいですか?」
「全部?」
「はい」
『あ、フランちょ――』
「わかった」
ドササササ!
あー、久しぶりにやっちゃった。多分、フランが駆け出しに見えたんだろうな。アイテム袋を持ってるなんて思わず、1つ2つ程度を持ってきたと考えたのだろう。
キアーラゼンで聞いたが、下級の冒険者が浅瀬に生えている緋水草を運よく採取して、持ってくることがあるらしい。その手合いと一緒だと思われたようだ。
「え、ええ?」
「これで全部」
「ど、どんな量ですかこれ!」
「200本くらい?」
採り過ぎたかなーとは思うよ? でも、意外に多く生えてたし、あるだけ欲しいって言われたからね。あの近辺に生えていた緋水草は採り尽くしてきたのである。
あの場所はレイク・マーダーの群れが出るうえ、水深もかなりあった。採取の難易度が高く、誰の手も付けられていなかったらしい。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
受付のお姉さんがプチパニックだ。あたふたしている。あと、冒険者たちの視線が凄い。驚き、嫉妬、値踏み、あまり穏当とは言えない雰囲気がギルドの中に漂っていた。
どうしよう?
受付のお姉さんが困った顔であたふたしていると、俺たちの後ろに並んでいた年嵩の冒険者が彼女に声をかけた。
「ルルちゃん。とりあえず数えて、処理をしたらどうだい? 緋水草は他に似た草もないから、贋物ってことはないだろうし」
「そ、そうですね!」
「不足しているこの薬草の買取は最優先事項だ。私たちも処理が終わるまで待つから。なあ?」
このダンディな冒険者はこの中でも発言力があるようで、声をかけられた他の冒険者たちも同調するようにうなずく。
「は、はい。もちろんです」
「うっす」
なんとかなりそうだな。ありがとうダンディさん!
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