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518 入国


「見えた、あれが関所」

「もうですか? 凄く早かったですね」

「ん。ウルシはすごい」


 カーナたちを救った翌日。日の出とともに出発したフランたちは、二時間もかからずベリオス王国側の関所にたどり着こうとしていた。


 ウルシの背に全員を乗せて、駆け抜けたのだ。


 道中の魔獣は近い奴だけ仕留めて、他は無視である。カーナたちの身の安全が最優先だからな。


 たとえどんな成り行きであろうとも、護衛依頼を引き受けたのだから、そこは完璧にこなさなくてはならないのだ。


「このまま行くと騒ぎになる。一度降りる」

「わかりました」

「……これほどの魔獣を使役できるものなのか?」

「む、無理ですよ。聞いたことがありません」


 ディアーヌとシェラーはウルシの背の上でずっと青い顔をしたままだった。単に大きいだけではなく、実力も伴っていると理解したのだろう。


 シェラーはフランの実力を理解してからは、ずっとディアーヌの側にいた。どうやらディアーヌが失礼な言葉を発して、これ以上フランを怒らせないようにしようと考えたらしい。おかげで、静かでよかった。


「では行きましょうか」

「ん」


 フランを先頭に関所に向かう。結構審査が厳しいという話だったが、無事に通過できるだろうか?


 こちらの関所も、クランゼル王国の関所に負けず劣らず大きかった。有事には魔獣や敵軍を防がなくてはならないし、砦としても作られているのだ。


 砦の中から弓で狙われているな。ただ、これはならず者や敵兵が旅人に偽装していた場合の備えなのだろう。明確な殺意は感じられなかったので、俺もフランもあえて無視である。


「止まれ! 4人組か?」

「ん」

「身分証をこちらへ提示しろ」

「わかった」

「わかりました」


 言われるがままに身分証を取り出して、兵士に手渡す。まあ、案の定最初は驚かれたが、ギルドカードが本物だと分かるとその後は特に問題なく入国を許可された。


 やはり高ランク冒険者という肩書は強いようだ。ベリオス王国としても、国内に強い冒険者が増えるのは利になるわけだし、拒否する理由がないのだろう。


「こちらは三人一緒? そちらの少女とは別口なのか?」

「フランさんは先日雇った護衛兼道案内です」

「ふむ、モーリー商会? 聞いたことがないが……」

「小さな商会ですので」

「商会の令嬢と、その従者2人……」


 おや? カーナたちが何やら疑われているようだ。カーナは商会主の娘だったらしい。なるほど、言われてみるとあの度胸は商人っぽかった。ただ、それにしては気品がある気がするんだよな。


 大商会のご令嬢ならば理解できるが、多くの情報を頭に入れているであろう入国管理官が聞いたことがないような小さな商会の娘が、あんな気品を身に付けるか? いや、厳しい教育を受けたということなら理解できるが……。


 それにディアーヌの存在が謎だ。彼女は騎士と名乗っていたが、職業は剣士となっていた。つまり職業が騎士なのではなく、身分が騎士と言うことだろう。


 商会の護衛がそんな名乗りをするだろうか? 勿論、単に騎士に憧れているだけという可能性はあるだろう。しかし、ハッキリと紅旗騎士団と口走っていたはずだ。


 首になった後に商会に拾われた線もあるが、それで騎士と名乗り続けるだろうか?


(師匠、カーナたちどうした?)

『うーん……。ちょっと様子見をするぞ』

(わかった)


 いざとなったら無関係だと主張せねばならない。


「商会の所在地は?」

「クランゼル王国の港町。ダーズですわ」

「商会の主の名前は?」

「レイモンド・モーリー」

「ベリオス王国での目的は?」

「特別自治区です」

「……うむ」


 この入国管理官の男性。実は嘘看破スキルを持っている。レベルは低いが、相手が嘘を吐けば違和感くらいは感じるはずだった。しかし、そのスキルに反応がなかったのだろう。しかし、未だに納得のいかない顔でカーナたち3人を見ていた。


 長年の経験で怪しいことは分かるのに、スキルや身分証は彼女たちに怪しい部分がないことを示している。


 俺も虚言の理を使っていたのだが、カーナの言葉に嘘はなかった。やはりクランゼル王国の商会令嬢なのだろうか?


 質問をしていた管理官が、上司らしき男性とコソコソと相談している。俺には聞こえるけどね。


「どうします?」

「あの少女はクランゼル王国の冒険者なのだな?」

「はい」

「クランゼル王国の冒険者ギルドで護衛を雇ったとなれば、その身分はギルドによって証明されたと言ってもいい。それに向かう先は特別自治区。ならば構うまい」

「よろしいのですか?」

「あの場所であればな。ただし、本当に自治区に入ったのか、後で照会を忘れるな?」

「はっ!」


 これはカーナに利用されたか? なるほど、冒険者を護衛として連れていれば、誰だって冒険者ギルドで依頼を出したと思うだろう。つまり、冒険者ギルドが怪しい人物ではないと認めたということになる。


 騙された訳じゃないが、やはりカーナは強かだったな。


 結局、それ以上は拘束されることもなく、4人は国境を越えることに成功したのであった。まあ、あれ以上はどうしようもないのだろう。


 それに、向かう先が特別自治区ということも見逃された理由であるようだった。自治区は、ベリオス王国の中でも違う国的な扱いであるらしい。そっちに押し付けてしまえという思惑もあるのだろう。


 関所を抜けてしばらく歩いた時点で、カーナと向き合うフラン。ディアーヌとシェラーは離れた場所で地図などを確認している。


「依頼はここまで」

「はい。護衛、ありがとうございました。それにウルシさんのおかげで、思いもかけず早くベリオス王国に入ることができました」

「ん。ねえ?」

「なんでしょう?」

「ディアーヌは騎士なの?」


 フランも実は気になっていたらしい。俺と同じで、関所で足止めされたくないので黙っていたんだろう。


「……そうです。私の身元が気になりますか?」

「ん? 別に?」

「え?」

「冒険者は過去を気にしない」


 冒険者の中には過去を捨てた人間も多い。その過去を詮索するのはご法度だ。彼らの中で過ごすうちに、すっかりその精神が身に付いたらしかった。まあ、元々身分などに無頓着と言うこともあるが。


「それよりも、心配になった」

「心配、ですか?」

「ん。ディアーヌは自分が騎士だって普通に口走ってたし、身なりも騎士」


 これから先、カーナの身分を不審に思う人物は他にも出てくるだろう。フランは純粋にカーナを心配していた。やはり、この強かな少女に興味をいだいているようだ。


「ああ、そう言うことですか……。彼女は父の伝手で借り受けただけで、完全な私の臣下という訳ではないんです……。最初は冒険者の恰好をさせようとしたのですが、どうしても嫌がりまして」


 冒険者に凄まじい偏見を抱いていたようだし、仕方ないだろう。フランに青猫族のふりをしろと言うようなものだ。死んでも拒否するだろう。


「それに、融通が利かなくて視野が狭い部分はありますが、腕はそこそこ立ちますから。ある程度強い女性となると、探すのも大変なのです」


 ディアーヌのような性格に難がある人材でも、貴重な女性の護衛なのだろう。


「関所では色々と黙っていてくださりありがとうございました」


 カーナが改めて深々と頭を下げた。確かに、あの場でフランが余計な口を挟んでいれば、カーナたちは窮地に陥っていたかもしれない。


 ディアーヌの怪しさ。フランを雇ったのは国境を越えてからだということ。純粋な善意だけではなく、面倒ごとに巻き込まれたくないと考えただけなんだがな。


「別に」

「ふふ。あなたに出会えたことは、私にとって本当に幸運でした。またお会いしましょう」

「ん。また」


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