509 やりすぎ注意
「はぁぁ――?」
『やべ! タイミングずれた!』
「オン?」
『あー、ウルシすまん』
魔狼の平原に出た俺たちは、発見したファングボアの群れを相手に連携の確認をしていた。
普通であれば苦戦のしようもない、雑魚魔獣たちである。今のフランなら、指先ひとつで倒すことさえできるだろう。
ただ、最初の獲物と定めた先頭のファングボアに対して、思いもかけず初撃、2撃目を外してしまっていた。
まずフランが仕掛けたんだが、俺もフランも互いの成長を理解しきれていなかったようだ。魔術の発動が速くなっているところまでは予測していたが、まさかああも完璧に火炎魔術・バーニアを制御してみせるとは。
今までは風魔術や念動で姿勢を安定させる必要があったはずなのだが、今のフランはバーニアだけで乱れなく真っすぐ進むことができている。
まあ、それだけならフランが猪の魔獣を両断して終わりだったのだが、そこを俺が邪魔してしまった。
いや、仕方ないじゃん。連携の確認なんだから、見てるだけじゃいられないのだ。
フランが空中跳躍と火炎魔術で加速しようとしていることまでは瞬時に理解できたので、俺は風魔術で加速を手伝いつつ、ファングボアたちの動きを念動で止めるつもりだった。
しかし俺が思っていたよりも、自身の制御力が上がりすぎていたのだ。まあ、久々だからちょっとだけ良い所見せようとして、魔力を過剰に込めてしまったことも確かだが……。
まさか、今までの倍近い威力が出るとは思わなかった。風魔術の加速が速過ぎて、フランがファングボアを飛び越してしまったのだ。
それでも何とか俺を振って、ファングボアを攻撃したフランは偉い。だけど、それによってファングボアの群れが壊滅してしまった。
うむ、まさか属性剣などの威力もあそこまで強力になっているとはねぇ。風の属性剣の一振りで、3頭がスッパリ、離れていた2頭は風で舞い上げられて地面に叩きつけられていた。
前者よりは、後者の方が無残だったかな? ともかく、今後は気を付けよう。
最後に残った子供にウルシが向かっていくが、サイズが違いすぎる。強さを見る前に、ウルシが巨大な前足で潰せばそれでペシャンコだろう。
そう思ったら、目の前でウルシが小っちゃくなった。身体大変化スキルの能力である。今までの変化は4メートルから1メートル程度の間だった。だが、今や上は10メートルから、下は50センチまで体のサイズを変化させられるらしい。
小型犬サイズとなったウルシが、念動で動きを封じられている子ファングボアに襲い掛かった。だが、その攻撃が弾かれる。肉をできるだけ確保するため、手加減した攻撃で頭を狙ったらしいのだが、俺の念動が邪魔をしたのだ。
風魔術と同じで、魔力を込め過ぎたせいでかなりの強度を持っていたらしい。しかもその一撃で念動の拘束がはじけ飛んでしまう。
戒めから解き放たれたファングボアが逃げ出す。だが、ウルシが影転移で瞬時に追いつき、その首を前足の一撃で刎ね飛ばしていた。
影転移は影に潜るのではなく、影のある場所に転移可能というスキルだ。ウルシが出入りできない小ささの影でも転移可能になっているのだ。そして、前足には新装備である。これはアリステアがウルシに作ってくれた武器だった。
神鋼の魔爪
名称:神鋼の魔爪
攻撃力:480 保有魔力:250 耐久値:800
魔力伝導率・B
スキル:サイズ調整強化
名称:竜蛇の首輪
防御力80 耐久値600/600
効果:アイテム袋能力小、サイズ調整強化
神鋼の魔爪は、以前装備していた捕縛の爪と似た装備だが、こちらは最初からウルシ用に作られている。麻痺能力は失われたものの、性能は段違いなので、間違いなく強化と言えるだろう。
竜蛇の首輪は、アマンダが狩ったというワームの皮などを使って作られている。従魔章の代わりでもあるし、フランが跨った時の手綱にもなるようだ。
どちらもウルシが最大サイズになっても壊れないので、非常に便利である。どうやらこの常識外れのサイズ変更機能を付与したせいで、他のスキルを付けることが出来なかったらしい。アイテム袋能力は、なんとか工夫してくれたようだった。
『……なんというか、すまん』
「へいき」
「オン!」
『連携よりも、俺の力の確認が先決っぽいな』
そこからは、別々に力を振るいつつ、時おり合わせるということを時間をかけて繰り返していった。
ああ、あとは俺がいない間にフランが溜めこんでいた魔石を吸収し、さらに増えたスキルを検証したりもした。いや、得たのはスキルだけではなく、ランクもアップしている。
何せ、フランが溜めこんでいた魔石は300個を超えていたのだ。一気にランクアップし、さらに魔石値を上乗せできていた。
ただ問題だったのは、魔石から吸収できる魔石値が妙に低かったこととと、自己進化ポイントがゲットできなかったことだ。何故かと首を捻っていたら、アナウンスさんが説明してくれた。
〈フェンリルが個体名・ウルシに力を譲渡したことで、その補填が必要となっています〉
『どういうことだ?』
〈フェンリルの回復を優先するため、譲渡される力が大幅に減少しています〉
魔石を吸収→フェンリル回復→その力の一部が俺にも譲渡されるっていうのが、俺が魔石値を得る流れのはずだ。まあ、ザックリと言えばだが。
ウルシを特殊進化させるために、フェンリルが色々と頑張ってくれたらしい。ただ、そのせいで消耗してしまい、こちらに回す魔力を削って回復に充てているようだった。
『どれくらいの間、この現象が続きそうだ?』
〈次々回のランクアップまでの予定となっています〉
まあ、ウルシのためにやってくれたんだし、文句はないさ。むしろお礼を言いたいほどだ。
そのおかげで、ウルシは念願の力を手に入れた訳だし。同族嫌悪がなければ最高だったんだが……。固有スキルだから、スキルテイカーでも消去できないと思うんだよな。まあ、一度は試してみるつもりだけどね。
ああ、スキルの所有数がいきなり増えてしまうことに関しては、なんとかなりそうだ。アナウンスさんが管理を手伝ってくれることで、俺の負担が減るからである。
とは言え無茶はできないが。
この祭壇、実際のところそうそう頻繁に利用できる物ではないらしい。起動にも修復にも、膨大な魔力を必要とするからだ。魔狼の平原から魔力を吸収して蓄えていると言っても、その魔力は無限ではなかった。
『次のランクアップでポイントはゲットできるのか?』
〈是。ただし、規定通りの自己進化ポイントが入手できる確率、11%〉
『ポイント全くなしか?』
〈入手ポイントが半減する可能性、89%〉
まあ、半分入手できるってことか? ならいいや。ウルシの進化につぎ込んだのだと思えば、むしろ安いもんだ。
『連携強化、スキルの習熟、魔石の入手。やることはまだまだあるぞ!』
「ん! がんばる!」
「オン!」
〈次のランクアップまでの必要魔石値は、1022ポイントです〉




