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507 Side フェンリル


 我が眷属である小さき狼の悩み。


 主たちの役に立つだけではなく、彼らの横に並び立ち、共に戦いたい。


 たったそれだけ。だが、強者ではあっても圧倒的ではない彼の者にとっては、難しい悩みだった。


「オンオン――キャイィン!」


 今日も、格上の魔獣相手に挑みかかり、手痛い反撃を食らっている。


 狙いは分かる。より強く、大きな魔獣の力を捕食吸収で取り込み、新たな進化を遂げようというのだろう。


 実際、その狙いはまんざら間違ってもいない。


 強大な相手の血肉を取り込むことで、異常な進化を遂げる個体は存在するのだ。しかもウルシはユニーク個体。可能性はあった。


 ただし、今のままでは無理だろう。たかが脅威度C程度の魔獣の血肉では、不足なのだ。ウルシ自身からすれば格上だが、それはレベルや相性が関係しているだけで、種族間にそこまでの差はない。


 ウルシが新たな進化を遂げようと思うなら、脅威度A以上の魔獣の血肉を大量に、しかも複数種類は取り込む必要があった。


 いや、ウルシ自身もそれが分かっているのだろう。より強い魔獣を求めて無茶をして、ついに悲劇に見舞われた。


「ギャオオオォォン!」

「ウルシィ!」


 聞いたこともない悲痛な悲鳴を上げ、空を吹き飛ばされるウルシ。小さき狼に痛撃を与えた相手は、体長15メートルを超える二足歩行の魔獣であった。いや、尻尾を使って体を支えているので、完全な二足歩行ではないな。


 魔剛竜と呼ばれるドラゴンの一種だ。分類としては、翼の退化した地竜になる。強靭な鱗と、引き締まった筋肉を持った、圧倒的物理攻撃力を持った魔獣だった。特にその前腕による攻撃は、脅威度Bの魔獣に相応しい威力を誇る。


 以前、この魔獣の下位種である剛力蜥蜴に苦戦したというのに、今のウルシが勝てるはずもない。


 50メートル近い距離を飛ばされたウルシは、その体からおびただしい血を流して痙攣している。腹からは内臓が零れ、右の足は両方とも千切れていた。背骨も折れているだろう。顔も半分潰れ、これでは脳に影響があるかもしれない。


 意識がないのだろう。ウルシはその場から逃げることもできずにいた。


 今の俺には見ていることしかできない。自分の眷属であるウルシを見守ることはできるが、所詮は魂の消滅しかけている名ばかりの神獣でしかないのだ。


「はぁぁ!」

「ブグウウ!」


 助けに入ったのはフランだ。


 雷鳴魔術を連打して魔剛竜の注意を引くと、ウルシに回復魔術をかける。だが、その傷はフランの思い描いている通りの回復量ではなかった。


「なんで! グレーターヒール!」

「オ、オゥゥゥ……」

「ダメ……」


 意識を取り戻したウルシが治癒魔術に合わせて再生を使うが、やはり回復が遅い。


「ブグウオオオォォォォォォ!」

「くっ……ウルシ、ゴメン!」

「オ、オフ……」


 フランはウルシを抱え上げると、そのまま剛竜から距離を取る。そのまま数分ほど走ったフランは、再びウルシを降ろして回復を試みた。


 師匠に持たされていたポーションなども全て使い切ってしまうが、ウルシは完治しない。これはフランたちのせいではなかった。魔剛竜はパワーファイターでありながら、ドラゴンらしく魔力の扱いも得意とする。特に自らを強化する生命魔術を得意とするが、生命魔術には相手の回復を阻害する術も存在していた。


 あの前足の一撃にはその魔術が乗せられていたのだ。


 結局、右後脚と右目を失うことになってしまった。


 師匠がいればまた違った結果になっていただろうが、フランとウルシだけでは命を取り留めただけでも僥倖だったろう。


「ウルシ……ごめんね」

「オンオン!」

「ん……」

「オン!」

「わかった、きっと進化しようね」


 ウルシはそんな姿になっても、なお進化を志す心を失わなかった。むしろ、より確かなものになったのではなかろうか?


 そこに、進化すれば五体満足に戻れるかもしれないといった想いは一切混じっていない。足を失い、戦闘力が下がってしまったからこそ、それを補うために強くならなくてはいけない。


 一意専心。ただただ主たちのために強くなりたいという強い想いだけが、ウルシの行動原理であった。


「キャイイィィィン!」

「ガルゥゥゥゥ……!」

「オ、オフ……」


 片目片足を失った状態で、より激しい戦闘に身を投じるウルシの姿は、神々しくさえ見えた。


 もがき苦しみ、それでも天を仰いで歩みを進めるその姿は、かつての自分に重なって見えたのだ。邪神の心を吸収し、その力に蝕まれながらも創造主のために戦い続け、ついには限界を超えて倒れてしまった俺に。


 だからこそ、日々傷つき、消耗し続けるウルシを見て我慢することができなかった。ウルシが足と目を失ってから30日ほどが経っただろうか。俺は、思わずウルシに声をかけてしまっていた。


 すまん師匠、このせいで修復に遅れが出るかもしれん。しかし、そうせずにはいられなかったのだ。


『ウルシよ……お前は今から進化する』

「グルゥ…!」


 ウルシのレベルが進化可能なレベルに達したのである。しかし、自分でもわかっているのだろう。自分の努力が報われなかったということが。


 このまま行けば、ダークナイトウルフに進化する。しかし、ウルシはそれを拒否するように、自らの内に流れ始めた魔力を塞き止めようともがいていた。


 だが、そんなことは無理な話だ。このまま進化を拒否し続ければ、魔力の暴走によって命を落としてもおかしくはない。その愚かな姿を見て、俺は何かせずにはいられなかった。


『しかし、お前には1つの選択肢がある……』

「グル?」

『……我が力を授ける。それにより、お前は新たな道を選び取ることが可能だ』

「オン!」

『だが、それは孤独の道だ』


 俺の――狼でありながら狼ではない、そんな俺の力の一端を受け取るということは、ウルシもまた、狼でありながらそうではないものへと変貌するということ。


 今この世のどこにもいない新たな種へと進化する。それは、同じ者が他のどこにもいないということだ。番を成すことも、種を残すこともできない。


 それは生命としては異常な進化。姿形は狼でも、その範疇さえ超えてしまう。神獣でもないウルシは、真の意味で孤高の存在となってしまうはずだ。


『わかるか? 力の代償は孤独だ。師匠やフランにとり残されるどころではない。種という枠組みから逸脱し、お前は独りぼっちの存在となるだろう』

「オン!」

『本当にいいのか? 主たちのためならば、孤独程度は構わないと?』

「オフ……」

『……お前の覚悟はわかった。ならばいいだろう。お前に力をくれてやる!』


 師匠から力を借り、それをウルシに分け与える。これは師匠にもかなりの負担をかけているはずだ。


 だが、師匠ならば絶対に許してくれるだろう。そんな確信があった。むしろ、何もせずにいたら怒られてしまうだろう。


 ウルシが塞き止めていた魔力に俺が与えた力が混ざり込む。循環をはじめ、体に染み渡っていくのが分かる。肉体が作り替えられ、別の種へと進化を始めていた。


「ガウゥゥ……グルゥ……」


 苦しいか? だが、全く別の種になろうというのだ、この程度は試練ですらあるまい。


「ウルシ! だいじょぶ?」


 戦闘後、いきなり膨大な魔力を纏って苦しみ始めたウルシを見て、フランが悲鳴を上げている。嬢ちゃんに俺の声は届かない。フランには、ウルシが謎の暴走状態にあるように見えているだろう。


「ウルシ!」

「グル……」


 ウルシは意識を失うことも、泣き叫ぶこともなく、ただ全身に力を込めて仁王立ちし続けた。そうだ、この程度で取り乱していては、今後訪れる様々な試練に、打ち勝つことはできんぞ!


「グルウウルゥゥゥゥ!」


 そして、進化は成る。


「グウゥゥゥオオオオオォォォォォォォンン!」


 月下の平原に、新たなる魔狼の咆哮が響き渡る。それは生誕の産声にして、種という揺り籠からの決別を意味する魂の叫び。


 小山とも思えるほどに膨れ上がったその体からは、黒と金の入り混じった凶悪な魔力が立ち昇っている。失われていた後ろ足と目は完全に修復されているようだった。太い四肢で大地を踏みしめ、鋭い相貌が闇を睨みつけている。


 元々わずかに赤の混じっている毛並みだったが、より赤が強くなっただろう。さらに、背には銀の毛が鬣のように生えていた。


 俺さえも見たことのない、完全な新種だ。


『ウルシよ。新たなる魔獣よ。お前の種族はラグナロクウルフ。他の狼からは忌み嫌われ、この世でただ独りの存在。お前が望んだ姿がこれだ』

「オン!」

『いい返事だ』


 その孤独と引き換えに、ウルシは大きな力を手にしている。きっとフランや師匠と並び立つことができるだろう。


「ウルシ……? 進化した……?」

「オン」

「かっこいい!」

「オン!」


 ああ、そうだ。褒めてやってくれよ、フラン嬢ちゃん。それこそが、ウルシの求めているものなのだから。


503話終了時点でのウルシのステータスです。フランは次話で。


名称:ウルシ

種族名:ラグナロク・ウルフ:魔狼:魔獣

状態:平常

ステータス レベル62/99

HP:1834 MP:1910 

腕力:1280 体力:498 敏捷:1274

知力:360 魔力:1417 器用:290

スキル

暗黒魔術:Lv7、鋭敏嗅覚:LvMax、雄叫:Lv3、隠密:Lv8、怪力:Lv3、影転移:Lv3、影潜み:LvMax、影渡り:LvMax、牙闘技:Lv9、牙闘術:Lv9、空中跳躍:Lv8、狂化:Lv7、恐怖:Lv7、警戒:Lv8、気配遮断:Lv6、高速再生:Lv3、剛力:LvMax、再生:LvMax、死毒魔術:Lv4、邪気感知:Lv6、邪気耐性:Lv5、瞬発:LvMax、瞬歩:Lv4、消音行動:Lv6、状態異常耐性:Lv6、死霊魔術:Lv6、生命探知:LvMax、精神耐性:LvMax、爪闘術:Lv6、爪闘技:Lv5、毒魔術:LvMax、覇気:Lv5、反響定位:LvMax、咆哮:LvMax、魔術耐性:Lv6、魔力吸収:Lv5、夜陰紛れ:LvMax、闇魔術:LvMax、雷鳴耐性:Lv7、暗黒無効、暗視、王毒牙、毛皮強化、再生阻害、自動回復、身体大変化、毒無効、分割思考、暴走、魔力制御

ユニークスキル

暗黒吸収、捕食回復

エクストラスキル

捕食同化

固有スキル

次元牙、同族威圧、同族嫌悪、封印無効

称号

剣の眷属、神狼の眷属、孤高の獣、邪人の捕食者、唯一無二

装備

神鋼の魔爪、竜蛇の首輪

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― 新着の感想 ―
雄叫Lv3 咆哮LvMax → 違和感
[一言]次元牙!キター!間違い無く中・遠距離の間合い(作品によっては防御)無視の強スキル!!!ウルシ!よく頑張ったーーー!!!
[良い点] ウルシカッコいいぜ!
感想一覧
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