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506 Side アマンダ


 師匠がいなくなり、フランちゃんはしばらくの間落ち込んでいた。顔には出ていないけど、声や目に力がない。


 夜、ウルシの毛皮に埋まって星を見上げてボーっとしているフランちゃんは、年相応の子供に見えたわ。


 それでも何日か経って、少しずつ調子を取り戻していった。


「頑張りましょう? 戻ってきた師匠をビックリさせるんでしょ?」

「ん!」

「私もビシバシいくからね!」

「のぞむところ」


 フランちゃんの決意は本物だった。むしろ、ちょっと気合いが入り過ぎなくらいで、何度も叱ってしまったくらいだ。


 だって、私がアレッサから戻ってくると、防具が大きく破損していることが頻繁にあったのだ。それだけではなく、私が調達してきた剣が壊れてしまっていたり、怪我を癒している最中なんていうこともあった。


 どうやら、格上の魔獣に挑んでは撃退され、ということを繰り返しているらしい。あとは、無茶な連戦を繰り返しているのだろう。


 私が何を言っても止まる子じゃないし、私が強制的に止めさせる権利もない。フランちゃんはもう立派な冒険者。自分で判断し、全ては自己責任。


 たとえ修業で大怪我をして、死んだとしてもね。私自身が無茶な修業を繰り返してここまで強くなってきたこともあって、注意しづらいというのもあるけど。


 私にできることはこの平原に来る頻度を上げたり、彼女が死なないように鍛えることだけだ。


 ただ、そのまま1ヶ月ちょっと経った頃、フランちゃんとウルシに異変が訪れる。目に見えて覇気が無くなり始めたのだ。


 そして、食事にも変化があった。それまでは朝昼晩、カレーっていう、ゴハンに茶色いソースをかけた物を食べていたのだ。だけど、それが1日1食に減り、3日に1食に減り、ついには食べなくなってしまった。


 フランちゃんの大好物だけど、作るのが難しいうえ、材料を集めるのもとても大変な料理だという。フランちゃんは料理が得意みたいなんだけど、材料は持っていないらしい。


 結局、カレーに使う香辛料の一部を私がアレッサで調達してきて、それをお肉なんかに振りかけて食べることで、なんとか誤魔化すことにしたのだった。


 もしカレーが無限にあったら、フランちゃんたちの修業はもっと捗っていたかもね。


「さて、これは躱せるかしら?」

「はっ!」

「いいわ! そうそう! 相手の意図を読み、誘導されないように気を付けるの!」

「ん!」


 フランちゃんの動きは日に日に良くなり、鋭さも増していく。私は何でもないような顔をして鞭を振るっているけど、内心では冷や汗ダラダラだ。


 魔術なし、武器のみの模擬戦でも、そろそろ一発入れられそうだった。


 私とフランちゃんの修業は模擬戦だけじゃない。魔獣と戦うのも修業である。


 相手は脅威度D程度の魔獣だ。時には剣技のみで。時には魔術のみで。そうやって縛りを設けながら、戦って仕留めるのだ。私はいざという時の保険みたいなものね。


 それにしても面白いのは、時おりボーっとしているかと思ったら、急に動きがよくなることがあるのだ。誰かにアドバイスをもらったとしか思えないけど、誰とも話している気配はない。


 フランちゃんは剣の精霊だって言ってたけど、精霊の気配などなかった。真顔だから分かりにくいけど、フランちゃんも冗談が言えるようになったのねぇ。


 まあ、多分色々な物を頭の中で整理することで、動きをアジャストしているのだろう。やはり底知れないわ。


「剣、またボロボロね~」

「ん……」


 問題は武器だった。


 フランちゃんの次元収納にはいくつか武器があったし、魔剣の類もあった。だが、それらではフランちゃんの力に耐えられなかったのだ。一番強い幻輝石の魔剣でさえ、最初の2週間ほどであっさり砕け散っていた。


 そこで、フランちゃんが倒した魔獣素材を私がアレッサで売って、剣を購入しては渡すようになったのだが、フランちゃんに見合う剣が早々に手に入るはずもない。


 弱い剣で手加減しながら戦うのも修業になったから結果オーライだけどね。結局、アリステアが現れるまでは、難儀した。


 アリステア――神級鍛冶師であるその女性が魔狼の平原に現れたのは、雪のちらつき始めた冬の始め頃だ。超強力な隠密の魔道具を持っていたため、私たちにも気づかれずに突如台座の近くに出現したのである。正直、焦ったわ。意外に高い本人の戦闘力に、高品質の武具を身に纏った謎の女。


 正直、レイドス王国の特務部隊の人間だと思って、思わず喧嘩腰に話しかけてしまった。向こうも、似た感情を持ったようで、フランちゃんが間に入ってくれなければ殺し合いになっていたかもしれない。


 話してみれば気のいい相手だったので、すぐに友達になったけどね。


 そのアリステアがフランちゃんのために作り上げたのが、重魔鋼を使った魔剣である。あれほどの業物を1週間で作り上げてしまうとは、さすが神級鍛冶師。思わず、私の鞭の製作を頼み込んでしまったほどだ。


 材料さえ集めれば作ってくれるという約束になっているので、来年はそのために奔走することになるだろう。


 そのアリステアは、今は私からの依頼で、魔狼の平原を離れている。鞭とは別に、作ってほしい物があったのだ。アリステアも同じことを考えていたようで、一も二もなく引き受けてくれたのだった。


 そして修業の日々は流れる。あれは、ウルシが何かに焦るように無茶をして、右足と右目を失った数日後のことだったろう。


 ついにその日がやってくる。


「しぃぃ! そこよ!」

「はぁ!」

「なっ! とぉ!」


 私の鞭技を剣技で弾き、そのまま鞭の隙間を搔い潜って接近された! 私は鞭を引き戻しつつ蹴りを放ったが、それも完璧に躱されて突きを入れられた。最後の攻撃は短剣技だろう。


 剣術と剣技を完璧に組み合わせた淀みのない連携と、周囲を見る観察力。さらには身体強化系スキルを正確に扱う制御力。それらが一瞬の攻防で如何なく発揮されていた。


「初めて完璧に一発入れられちゃったわね~」

「ん! でもまだまだ」

「うふ。じゃあ、次行きましょうか?」

「ん」


 これは、修業の終わりが本当に楽しみだ。


 そこからさらに1ヶ月ほど経った頃。足や目を失っても諦めず、我武者羅に戦い続けたウルシが驚きの進化を果たした数日後のことだ。


「フランちゃん、どうしたの? 修業に行かないの?」


 珍しく、日の出からフランちゃんが起きていた。そして、台座の前で膝を抱えて座り込んだまま、動こうとしない。傍らでは、進化したてのウルシがお行儀よくお座りをしている。


 何故か嬉し気な様子のフランちゃんに、何をしているのか聞いてみると、その答えは驚きのものだった。


「ん。師匠が帰ってくる」

「え? 本当?」

「師匠、言ってた。150日くらいしたら戻ってくるって。今日はちょうど150日目」

「前に言ってた、剣の精霊の声は?」


 私には聞こえないけど、どうやら本当に剣の精霊の声が聞こえているらしい。師匠ではなく、アナウンスさんというおかしな名前の女性であるそうだ。


 毎回応えてくれるわけではないが、師匠の近況などや、時には修業の効率などについても意見を言ってくれるらしい。


「もう少しって言ってる。でも、正確には分からないって。2時間後かもしれないし、2日後かもしれない」

「え? 2日後?」

「ん」


 フランちゃんはコクリと頷くと、再びジッと台座を見つめる作業に戻ってしまった。


「待つの……?」

「ん」


 何を当然のことをっていう感じの顔で見つめ返されてしまった。本当に師匠を待ち続けるつもりであるらしい。


「わ、わたしも待つわ……」

「ん」


 師匠、早く戻ってきて!


告知していた通り、夏休みを頂きます。

次回更新は8月5日となりますので、ご了承ください<(_ _)>

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― 新着の感想 ―
確かに。猫だけど(苦笑)
忠犬みたい…
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