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505 変わらぬもの


 目覚めて最初に目に入ったのは、俺の前に立つ、1人の少女だ。


 黒い髪、健康的な肌。凹凸のない体。そして特徴的な黒い猫耳と尻尾に、勝気そうな大きな瞳。


 俺の相棒、フランだった。


『フラン』

「師匠?」

『ああ』


 確認するかのように呟かれたフランの言葉に、俺も少し小さい声で返す。


 なんだろう、胸がいっぱいで、言葉が上手く出ない。寝て、起きただけって感じだから、そこまで時間経過を体感していないはずなんだが……。


 これは懐かしいという感情だ。俺に涙腺があったら、泣いてしまっていただろう。


「師匠……」

『フランッ』

「師匠っ!」


 フランがダッと駆け寄ってくる。そして、台座に刺さったままの俺に抱き付いた。抱擁というか、全力で締めあげている感じだ。


 俺じゃなかったらこれで破壊されているかもしれん。一般人なら死んじゃうかも? それくらい力強い。


 ただ、その加減のなさが逆にフランの寂しさを表しているようで、俺はむしろ嬉しかった。我を忘れるほどに、俺に会いたいと思っていてくれたということだからな。


「師匠……」

『フラン、ただいま』

「ん……!」


 俺は念動を使って、フランの目の端に溜まっている涙をそっと拭ってやる。すると、フランがさらに甘えるように、俺の柄にグリグリと頭をこすりつけてくる。


『フラン、そんなに強くやったら頭が痛いだろ』

「へいき」

『フラン……』


 甘えてくるフランの頭を、軽く撫でてやっている最中だった。


 ググー……!


『ん?』


 謎の音が響き渡る。


 いや、謎でも何でもないですね。フランさん、メッチャお腹なってますよ? 感動の再会の場面ですよ?


 ググググー!


「……おなか減った」


 5ヶ月ぶりでもフランはフランだった。変わっていないと喜ぶべきか、育っていないと嘆くべきか。まあ、外見にほとんど変化はないが。


 フランは右手で俺に抱き付いたまま、左手でお腹をさすっている。そして、すぐにキリッとした顔をすると、俺に向かって口を開いた。


「師匠」

『な、なんだ?』

「カレーを出して」

『カ、カレーか?』

「ん!」

「オン!」

『わ、分かったよ――え?』

「オンオン!」


 いつの間にかウルシがいた。フランの影から出てきたらしい。しかし、その姿が大きく変わっていた。


 基本はウルシだ。毛並みの艶やかな、黒い狼。しかし、その毛並みや、発する気配が大きく変化している。


 元々は首の毛に赤い色が混じっているだけだったのだが、今やその赤い色が全身に及んでいる。首や膝、尻尾などの先端に濃い赤が混じるようになっていたのだ。さらに背中の毛には銀の線が入っていた。


 大分派手になったな。どう見ても進化している。


『ウルシ、お前――』


 グググッグググッグー!


「師匠……カレー……」

『ああ、すまんすまん! ほれ、今出すから! ウルシは激辛でいいな?』

「わたしは大盛」

「オンオン!」

『じゃあ、トッピング10種のせギガ盛カレーだ。ウルシには万倍激辛カレーな』


 俺が出したカレーを受け取ったフランたちは、まるで数日振りの食事であるかのように、一心不乱にカレーをかき込み始めた。ちょっと盛り過ぎたかと心配していたカレーが、みるみるその腹に納まっていく。


 本当に食事をしてなかったのか? 枯渇の森の手前で作った料理は、フランの次元収納にもそれなりに入れてあったはずだが……。


『あ! も、もしかしてスキル共有が切れたのか?』


 だとしたら次元収納も料理スキルも失っていたはずだ。むしろ、この平原を生きのびることさえ難しかったはずだ。


『フ、フラン……。よくがんばって――』

「ん? スキルはあった」

『え? スキル共有は生きてたの?』

「ん」

『じゃあ、どうしてそんなカレーを……』

「フランちゃんたち、最初の2ヶ月でカレーを食べ尽くしちゃったのよ」

『ああ、そういうこと……』


 普段は俺が管理してたからな。止める者がいなければ、好物から食べてしまうだろう。むしろよく体形に変化がなかったな!


 久しぶりに出会ったフランがおデブになってなくてよかった!


『それで、アマンダはどうする?』


 俺はフランたちの後ろで苦笑を浮かべているアマンダに声をかけた。最初からいたんだが、アマンダであれば問題ないととりあえず後回しにしていたのだ。


「私はいいわー。それよりも、師匠の話を聞かせてくれない?」

『話せることなんかほとんどないぞ? むしろ、俺がいなかった間のことが知りたいんだが?』

「いいわよ? こっちは話すことがたくさんあるから」

『頼む。フランはしばらく手が離せそうもないし』

「モグモグモグモグ!」

「ガフガフガフガフ!」

「そうみたいね……」


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