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502 真プロローグ・下



 冥界の神に誘われて足を踏み入れた神殿の中には、2人の絶世の美女が待っていた。


 こちらの2人は冥界の神に比べると洋風と言えるかもしれない。


 銀月の神と名乗った女性は、その名の通り美しい白銀色の髪に、真っ白な肌、金色の瞳をした女神だ。軽く動く度に銀の髪が揺れて煌めく。その表情は母性と慈愛に満ち、まさに女神様という呼び方に相応しく見えた。


 混沌の女神は、悪戯っぽい表情を浮かべた、銀月の神とはまた違った美しさを持った女性である。全てを見透かすような美しい真紅の瞳。透明で美しい思わず触れたくなるような艶やかな褐色の肌。銀の髪は、銀月の女神に比べるとやや硬質的な輝きがある。灰銀とでも言えばいいのかね? しかし、褐色の肌にはこちらの髪の方が似合っているだろう。


 この女神さまたちの美しさや、薄い布を巻きつけただけに見える格好も、俺のイメージを基にしているのか? だとしたら、俺のイメージグッジョブ。


「えっと……」

「この2人は儂の同僚みたいなものじゃ。そして、お主を求めている2人でもある。まあ、どちらかと言えば、儂は手伝いで、こやつらが主導的な立場なんじゃな」


 3柱の神が語り出す。


 なんと彼女らは地球の神様ではないという。ではどこの神か? 異世界だ。地球とは世界の法則からして違う世界。その世界を創造し、管理する神なのだという。


 ただ、俺を驚かせたのはそこではない。勿論、異世界があるという事実や、神様とご対面したことには驚いたが、次に語られた話の方が数倍驚いた。


 このまま死ねば俺は地球で輪廻に加わるだけだが、できれば彼女らの管理する世界に行き、そこで新たに体を得てほしいというのだ。


「儂の力があれば、魂だけでこちらの世界に渡ることも可能じゃ」


 彼女らは元は地球の神様でもあり、地球に僅かに干渉する力があるんだそうだ。特に冥界の神は、死の境にいる者を呼び寄せたりすることも可能であるらしい。


「元地球の神様? いや、それよりも、異世界で新たに……? 異世界転生……?」

「そうですね。それに近いかもしれません」

「えっと……なんでですか?」

「まあまあ、焦らないで。それも説明するから」


 まあ、当たり前だが、ただで転生させてもらえるわけがなかった。向こうの世界に転生した場合、果たさなくてはならない使命があるという。


 彼女らの管理する世界の映像や、神々の戦いの映像なども見せられつつ、なすべきことを説明された。


 剣に転生し、フェンリルという神獣と、その中にいる邪神を救う。戦って、魔獣を倒していけばいいだけだと言われたが、そう簡単にはいかないだろう。地球人であれば邪神の支配力を跳ね除けられると言われたが……。


「あの子たちを救ってください。お願いします」

「うーん……剣に転生か……。しかも記憶を消されて?」

「消すと言うか、一時的に封印させてもらうだけです。人のまま剣になれば、狂ってしまいますから」

「友人知人などの死の記憶や、あなたが死ぬ要因となった事故の記憶の大半ね」

「あとは、貴方の人格形成に大きくかかわっていると思われる、感動や悲哀の記憶もです」

「それ以外じゃと、初めての性交渉の記憶や、異性との逢瀬の記憶も一部は封じることとなろう」


 いわば、記憶の中でも特に強く残っている記憶や、俺の根幹に深くかかわる記憶が封じられることになるらしい。


「剣の体に慣れて、記憶が戻っても狂わないと判断されれば戻すことになる。それがなければ、再度輪廻の輪に人として加わるときに、存在がどうなるか分からんからのう」

「えっと、異世界で死んだ? 剣の場合は壊れた場合? どうなるんです?」

「人として、地球の輪廻に加わるじゃろう。それだけではないぞ? お主が使命を果たしたときも同様じゃ」


 異世界ではなく、再び地球に転生できるという。しかもちょっとだけ優遇されて。まあ、その時は記憶はないらしいけどさ。


「その、転生するのを断った場合はどうなるんですか?」

「そう怯えんでもよい。別に罰を与えることもせんよ。お主はこのまま地球の輪廻の輪に戻り、儂らは次の候補者を探すだけじゃ」


 なんでも、この場所に魂を引っ張ってくるのは俺が最初じゃないらしい。ただ、剣に転生ということで断られてしまうそうだ。


 不安はあるし、恐怖もある。だが、俺の答えは決まっていた。


「……わかった。俺は、転生します」

「いいのですか?」

「いいのかしら?」

「はい。どうせこのまま死んじまうなら、異世界を見たいです。それに、使命さえ果たせばお役御免なんでしょう?」

「うむ」

「あ、でも、PCのデータ消すっていうのはお願いしますね? まさか神様がそんな細かいお願いを聞いてくれるとは思わなかった」

「わかっておるわかっておる。まかせておけ」


 神様はアフターサービスも万全だった。俺が助けた女の子から俺が車に轢かれて死ぬまでのエグい記憶を消してくれるって言うし、自宅のパソコンのデータも消して、秘蔵本を処分してくれるそうだ。


 いや、それで決めたわけじゃないけどね? 剣とはいえ、チート能力を持って転生できるというのはやはりロマンがある。また、来世も幸せになれるっていう報酬も大きい。それ以外にも神々に見せられた――。


「では、こちらの2人も紹介しておこう」


 俺が誰かに向かって言い訳をしていたら、目の前に2人? の新たな人影が現れた。?が付いているのは、片方の姿を上手く認識できないからだ。


「お初にお目にかかります。私は知恵の神です」

「よろしく頼む。我はフツヌシ。剣の神である」

「は、はあ、よろしくおねがいします」


 知恵の神と名乗った方は、男か女か分からない中性的な美形であった。サラサラブロンドの長髪に、華奢な細いフレームの丸メガネ。凹凸がない細い体を、体形の分かりにくい狩衣のような服で包んでいる。


 多分、この神様も俺のイメージが元になっているんだろう。知恵の神様だから眼鏡。うむ、まさにイメージ通り。


 ただ、もう1人の神様は何もかも異様だった。


「フ、フツヌシ様? お名前があるんですか?」


 他の神様は名前を名乗らないのに。それにフツヌシと言えば、それなりに有名な日本神である。剣の神様だったはずだ。


「それにその姿は……?」


 フツヌシは、黒い影としか形容できない姿だった。ユラユラと不規則に揺らめく闇が人型に凝り固まったかのような、不可思議な姿であった。俺のイメージ、どうなってるんだ? だが、この神様には俺のイメージは含まれていないらしかった。


「彼の方は、我らの中で唯一名を持つ神。邪神との戦いで、地球に残してきた自身の神格の一部を召喚して活躍された代わりに、捨てたはずの名に再び縛られてしまったのよ」


 そういえば神々と邪神の戦いの映像を見せてもらったとき、巨大な剣を召喚して振り回す神様がいたな。


 神々は新しい世界に渡ってくるときに古い名前を捨て、新たな神として生まれ変わった。そもそも、1柱の神ではなく、新しい世界に興味を持った様々な神々の神格の混合体のような存在であるという。


 しかし、剣の神様は邪神に勝つために、自らの一部でしかなかったフツヌシとしての神格を最大限発揮することとなってしまった。そのせいで、多くの神格を内包していた名前に縛られない自由な神から、フツヌシという剣の神に固定されてしまったそうだ。


「存在が固定されてしまったが故に、我はおいそれと姿を変えることもできん。しかし、神の姿を見てしまえば、人の魂では耐えられぬ。それ故、このような姿で失礼する」


 他の神様は名前がないから簡単に姿を変えられるが、フツヌシはそれができないという。


「あなたが宿る予定になっている神剣は、剣の神と知恵の神の眷属。それ故、2柱の協力も必要なの」


 その後は女神さまたちによって、どんな記憶を封じられるのか見せられる。いやー、これが恥ずかしかった。


 最初はマシだったのだ。死んだときの、痛みや負の感情を含んだ記憶。好きな映像作品や、ハマッていたVRゲームの記憶。感動した景色の光景とかそんな物が多かった。


 しかし、段々とパーソナルな部分に踏み込み始め……。


「これは流行った映画の記憶ね。初デートで見たことも併せて、貴方の中に強く残っている」


 いまでも再放送を見ると、甘酸っぱい気持ちになって当時の記憶が蘇るんだよね。


「可愛がっていた犬との別離の記憶ですね」


 実家で飼っていた雑種犬のフランだ。白いモップみたいな犬だったんだけど。ある日突然母ちゃんから死んだっていう電話が来て、実家に飛んで帰ったんだ。最期は大往生だったっていうのがせめてもの救いかな。しばらくの間、似た犬を見ただけで涙が出て仕方なかった。


「これは初めて女性と肌を重ねた日の記憶じゃな。色々と失敗して、苦い記憶として残っておる」


 ちょ! 神様! この記憶は――!


 そこから先は、マジで拷問だった。いっそ殺せ! いや死んでるんだった! みたいな1人ノリツッコミをやってしまうほどである。


 初めてキャバクラに行った記憶? いやいや、あれは先輩に連れていかれただけですから! あああ! お気に入りのお色気DVDの記憶とか、いちいち見せんでもいいんですよ!


 その後、精神的に疲れすぎてグッタリとした俺にいくつかの力が与えられ、そして剣の中に魂を移されたのだった。もうね、その辺はなすがままでしたよ。


 柄に天使のエンブレムがあしらわれた美しい剣の前に立たされた俺に、混沌の女神様が声をかけてくる。


「次に私たちと会うのは、貴方が使命を果たしたときね。まあ、何かイレギュラーがなければ、だけど」

「イレギュラーって?」

「さあ? でも話して分かったでしょ? 私たちが全知全能なわけがないじゃない? 不測の事態が起きることもあるわ」


 これはなるほどと言っていいのか?


「でも、もし向こうで私たちと出会うことがあったとしても、そのときに私たち神々は初対面のふりをするから」

「え? なんでです?」

「神に関する事柄なんて、どれだけ記憶を揺さぶると思う? 封印が解けたらまずいでしょ?」

「な、なるほど」


 神様が施した封印でも解けちゃうことってあるのか? いや、全知全能ではないということは、その可能性もあるのだろう。


「ま、それでもできるだけのことはしたわ。特にあなたの力を制御するシステムは、私の渾身の作品よ。ちょっと遊び過ぎちゃったけど」

「え 遊び?」

「遊びって大事よ? 確かに使命は大事。でも、貴方が異世界を楽しむことも大事。いい? せいぜい遊びなさい?」

「は、はあ」

「ここの記憶も封じることになってるから、目覚めたときには覚えていないでしょうけどね。まあ、つまり頑張りなさいってこと」

「は、はい。ありがとうございます」

「うふふふ。では、良い混沌を」

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― 新着の感想 ―
[一言] 黒猫族の「フラン」と「イヌ科」の狼のウルシに出会ったのも何かの縁なのかな
[一言] 神剣は布都御魂剣を参考にしたのか。
[一言] この話でファンになりました。 武甕雷神ではなく経津主神。 我が家の祭神、そこの宮司の家系なもので。 1400年以上祭っています。
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