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500 ウルシの想い



 フェンリルが俺の中へと戻って数日。


 今日もフランたちは魔獣をストーキングしたり、魔獣と戦ったりと修業三昧である。まあ、俺は未だに台座に刺さっているので、スキルで気配を感じ取っているだけだが。


 どうやら俺の成長に合わせてスキル共有も成長していたようで、以前よりも有効な範囲が延びていた。現在は、エリア4の入り口程度までの距離なら、共有が解かれずに離れることができている。もしくはこの土地や台座の恩恵だろうか?


 ああ、エリアというのは俺が1人でこの平原にいた頃、出現する魔獣の強さで区分けした適当なものである。


 ただ、今の魔狼の平原では以前の感覚は全く意味がなさそうだった。


『やっぱ魔獣の強さが大分上がっているな。エリア1はそんなに違わないんだが』


 以前ならエリア1にはゴブリン以下の雑魚。エリア2、3には脅威度F、エリア4に脅威度E程度の魔獣が出現していたんだが、今は出現する魔獣の脅威度が1、2ランク上がっている。


 エリア3、4の境目あたりで、ランクDの魔獣が出現しているようだ。以前なら外周部であるエリア5でエリアボスとして君臨していてもおかしくはなかった。


 この出現する魔獣が強くなってしまった理由だが、なんと俺が関わっていた。いや、強くなったと言うよりは、現在は元の状態に戻ったと言う方が正しいようだ。


 俺の魂を召喚し、剣に封じて定着させるためには凄まじい魔力が必要だ。勿論、主導するのは神なので、プロセスの大半は神がこなしてくれる。だが、台座などの施設は、この平原からの魔力供給が必要だった。


 まあ、こっちの世界の神様は色々と制限があるようだし、なんでもかんでも頼りきりにはなれないということなのだろう。


 不足魔力を補うため、一時的に魔力吸収結界を最大で発動させたのだという。そのせいで魔狼の平原全体の魔力が一時的に低下し、出現する魔獣が弱くなったのだそうだ。


 俺としては非常に助かったけどな。何せそのおかげで生き延び、強くなることができたようなものだしな。


 もし魔獣が強かったら、早々に壊されていただろう。よしんば無事だったとしても、魔狼の平原を脱出するのに何倍も時間がかかっていたはずだ。今の強さだったら、それこそ年単位で平原に閉じ込められていたに違いない。


 その場合、俺はフランに出会うことは無かっただろう。


 以前、混沌の女神にこの世界には運命などないと言われた。だが、フランとの出会いに運命的な物を感じてしまうのは、俺が元人間だからだろうか?


『……倒したみたいだな』


 長時間戦っていたフランたちだが、魔獣の素材を収納すると台座まで戻ってくる。かなり疲れているようだった。


『お疲れ。どうだった?』

「ん、結構強かった」

『そうか』


 いつものように俺の援護はなく、俺ほど強い武器でもなく、武技中心の慣れない戦い方。それでランクD魔獣を相手にするのは骨が折れるのだろう。


 自分で回復しているようだが、明らかに出血した痕があるし、防具の破れ具合を見ればかなりのダメージを受けていたのだろうと分かる。


 また、ウルシの状態もかなり深刻だ。いや、むしろフランよりも悪いかもしれない。このところ、明らかに自分に合っていない接近戦を挑む傾向があるのだ。


 ウルシの場合、回避能力は元々高いものの、近接攻撃力はさほどでもない。そのせいで防御力の高い魔獣や、接近戦特化の魔獣からカウンターを喰らい、被弾することが増えていた。


 その無謀な行動に、フェンリルから告げられた進化の話が影響していることは間違いないだろう。


 ウルシの進化先は2種類。ゲヘナ・ウルフと、ダークナイト・ウルフである。ゲヘナウルフが死毒魔術、ダークナイトウルフの場合は暗黒魔術が伸びる以外は、非常に似通った進化をするらしい。


 個体としてのステータスはあまり上昇せず、指揮や統率、俯瞰視点や鷹の目といった指揮系統のスキルが大幅に伸びるという進化だ。


 勿論、ステータスが全く上がらないわけではない。何せ脅威度Bのロード級魔獣だ。しかし、同じ狼タイプの魔獣で単独戦闘特化型のインフェルノ・ウルフやヴァルキリー・ウルフと比べてしまうと、かなり弱いと言わざるを得ないという。


 ウルシはそれがどうしても受け入れ難いらしい。俺としては、狼型の魔獣の群れを探して、ウルシに支配させることも考えているんだがな。どうしても、自分の力でフランの横に並び立ち、共に戦いたいようだった。


 フランは今後、もっともっと強い敵と戦うことになるはずだ。その時、今のままでは後ろから援護することさえ難しくなるかもしれない。


 多分、今回の王都でウルシはそう感じたはずだ。


 そして、より強い力を求めている。


 フランもウルシの気持ちが分かるのだろう。もし自分が「君は進化しても強くならないよ。他の黒猫族を指揮する能力は得るけど」と言われても、絶対に納得しないはずだからだ。


 それ故、無茶をするウルシに何も言わず、見守ることにしたらしい。


『フラン、ウルシはどうだった?』

「頑張ってた」

『それは分かるんだが、かなり苦戦したみたいじゃないか?』

「ん……。相手がちょっと強かった」


 戦闘の詳細をフランから聞き出すと、やはりウルシが失敗をしたらしい。相手は、硬い鱗を纏ったゴリラのような体型の蜥蜴の魔獣だったそうだ。


 フランが剣技と魔術で足止めをして、ウルシが背後から首筋に噛みついたところまでは良かったのだが、その一撃でも魔獣を仕留められなかったらしい。そして、ウルシはその魔獣に捕まってしまい、危うく握りつぶされるところだったという。


 典型的な腕力と防御力特化の、脳筋タイプの敵だろう。ウルシだったら、遠距離から魔術で削れば時間をかけてでも無傷で倒せただろう。もしくは、フランを援護しつつ、止めをフランに任せる方が良かったはずだ。しかし、ウルシは自分で止めを刺したがった。


 多分だが、捕食吸収のためだろう。あのスキルに一縷の望みを託しているのだ。だが、今回は少々無謀だったな。


『ウルシ……』

「オン……」


 そんな落ち込んだ顔をするなよ。ただ、その顔でウルシの悔しさはよく分かってしまった。この能天気な狼がこれほど落ち込むのは、初めてなんじゃないか?


「師匠、ウルシはきっと強くなる。だからもう少し待って」

「オン!」

『……はぁ。わかったからそんな目で見るなって。俺だって、ウルシの気持ちは分かるんだ』


 台座に納まって、見守ることしかできない自分。この状態になって、ウルシの気持ちも分かるようになった。隣で、フランと一緒に戦いたい。それは、きっと俺もウルシも同じだろう。


『……ただ、あまり無茶はするなよ?』

「ん。わかってる」

「オン!」


 いい返事だ。


『あ――』

《解析が終了しました。これより修復に移ります。修復完了まで主人格は休眠状態に入りますので、外部との接触が遮断されます》

『なに?』


 おいおい、聞いてないんだけど! ていうか、やべー、なんか台座が光り始めた!


〈修復完了は、およそ150日後を予定しています〉

『フ、フラン! しばらくお別れみたいだ!』

「師匠?」

「オン?」

『修復中、話ができなくなる! 終わるのはだいたい150日後らしい! すまん! こんな急だと思っていなかった!』

「師匠!」

「オンオン!」

『修業、頑張れ! でも気を付けろよ! 無茶はしないでくれ! ウルシとも仲良くな! あとはアマンダの言うことをよく聞いて――』


 そして、そこで俺の意識は途切れてしまったのだった。



本編500話達成でございます。

応援してくださる全ての方に感謝しております。

ありがとうございました。そして、これからもよろしくお願い致します。


次話に関しましては、実はまだ書き上がっておりません。

節目の501話ということで、かなり悩んでしまい、今までになく難産なのです……。

そこで更新を1度を飛ばし、18日に次の話を投稿させていただきます。申し訳ありません。

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[一言] 時間順で並び替えるには以下のように 500 => 501 => 502 => 506 => 507 => 504 => 505 => 508 => 509 => 503 => 510
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