3 ゴブとの遭遇
転生2日目。
なんか来た。
台座の後ろから、足音が近づいてきている。それも複数。
「ゲヘゲハフ」
「アギャギョ」
「ゲギャ!」
会話か? 会話してるのか? 意味は分からないが、何やらコミュニケーションを取っているようだ。
声からすると、猿とか、そんな感じに思える。
気配が近づいてくる。もう、真後ろだ。
よし、もう少しこっちにこい。そしたら姿が分かるのだ。
ザッザッ
あとちょっと。
ザッザッザッ
あと1メートル。
ザッザ――ピタ
ちくしょう。真後ろで止まりやがった。
「ギャギュ?」
「ギャルガガ」
「ギャンガ?」
「グルッハ~」
なんだ? 何を言っている? 相談しているようにも聞こえるが……。
そして、俺の柄に、何かが触れた。明らかに、柄を掴んでいる。その感触はごつごつしすぎているものの、人間の手の感触にも思える。
どうやら、俺を台座から抜こうとしているようだ。
姿も分からぬ相手に抜かれることに、妙な抵抗感を覚えた。別に抜かせてやってから姿を確認すればよいのだろうが……。
なんとなく、念動を使って抵抗してみた。俺が抜けないことにより意地になったのか、謎の相手はさらに力を込める。
だが甘い。全力で抵抗だ。絶対に抜かせてなるものか。
「ギャギャ!」
「ギュガガガ……!」
「ハガハフ!」
仲間を応援するように、他の奴らも大声で騒ぎ始めた。そして、俺を抜こうと挑戦している個体の周辺を、踊るように回り始める。
「ギャルガ!」
「ゴルギャル!」
そのせいで、こいつらの姿がばっちり目に入った。
まじか。
緑の皮膚。ゴリラをより凶悪にしたような醜い顔。頭部には短めの角が生え、身に着けているのは毛皮と棍棒。
そう、奴らはまさしくゴブリンだった。
ゴブリンどもが、俺を抜こうとしていたのだ。
待て待て、ゴブリンはない! ゴブリンはないだろう! ゴブリンに使われる魔剣とか、終わってる。せめてゴブリン・キングとかなら良かったのに、どう見ても下っ端ゴブリンだ。
俺は念動で抵抗しつつ、視界に入る2匹のステータスを確認してみた。
種族名:ゴブリン:邪妖:魔獣 Lv5
HP:17 MP:5 腕力:8 体力:11 敏捷:12 知力:6 魔力:3 器用:7
スキル
棍棒術:Lv1、穴掘り:Lv2
種族名:ゴブリン:邪妖:魔獣 Lv5
HP:20 MP:2 腕力:9 体力:12 敏捷:10 知力:5 魔力:2 器用:8
スキル
剣術:Lv1、警戒:Lv1、毒耐性:Lv1
ほほう。同じ種族でも、微妙に違いがあるのか。まあ、そうだよな。武器も違えば、得意なことだって違うんだろうし。
中々抜けないことに焦れて、正面に回ってきたもう1匹も鑑定だ。
種族名:ゴブリン・リーダー:邪妖:魔獣 Lv2
HP:24 MP:6 腕力:11 体力:15 敏捷:13 知力:7 魔力:7 器用:7
スキル
剣術:Lv1、生存術:Lv1、解体:Lv2、指揮:Lv1
お、こいつはゴブリン・リーダーだ。レベルが低いのは、種族進化した影響か? まあ、少し強いな。本当に少しだけだが。
どうするか。
奴らが立ち去る気配は微塵もない。何とかして俺を抜こうと、今度はガンガンと叩き始めた。
それでも駄目だと分かると、選手交代である。どうやらもう1匹死角にいたらしく、そいつが俺を掴んでいるようだ。「フンヌガガー」という、暑苦しい声を上げながら、必死に力を込めている。
最大パワーで抵抗だ。
力では無理だと悟ると、リーダーは仲間の棍棒を借り、それでさらに叩いてきた。その顔は怒りに染まり、最早抜こうとしているのか、八つ当たりなのか分からない状況だ。
所詮はゴブリン。行動が馬鹿すぎる。
しばらく悪戦苦闘していたゴブリンだったが、苦し紛れに台座に蹴りを入れた。だが、台座が予想以上に硬かったらしい。つま先を押さえて、コミカルに飛び跳ねている。
くくく。いい気味だ。
怒り状態のリーダーは、死角にいたもう1匹に棍棒を投げつけた。おいおい、仲間に当たるなよ。
なんて思っていたら、ゴブリンの野郎。なんと、俺に向かって唾を吐きかけやがった。刀身に汚い唾液が付着したことが、感じ取れてしまう。
ネチョッっとする! ネチョーって! 気持ち悪っ! そして、屈辱だ。よし分かった戦争だ。やってやろうじゃないか。
最初の標的は、目の前のこいつだな。
俺は、ゴブリン・リーダーに代わって、剣を抜こうと近づいてきた剣術ゴブリンに狙いを定めた。力を込めたタイミングを計り、念動での抵抗を止める。
スッポーン
急に抵抗がなくなった剣は、ゴブリンによってあっさり引き抜かれる。すっぽ抜けた勢いで、ゴブリンはバランスを崩し、無様に尻餅をついた。
馬鹿め。隙だらけだぜ!
念動を使って、さり気なく刀身を動かす。その刃は、無防備なゴブリンの喉笛を、あっさりと掻き切っていた。
事故に見せかけて、1匹撃破だ。
事態が呑み込めないのか、残ったやつらは慌てて駆け寄ってくる。そこに、俺の体当たりが炸裂だ。
まあ剣なので、体当たり=必殺技なのだが。
喧嘩の常とう手段として、強い奴を先に叩く。狙ったのはゴブリン・リーダーの方だ。
まさか、剣が独りでに動くとは思っていなかったのか、リーダーは避けることもできずに俺の体当たりを食らっていた。
腹から背中に貫通した俺の刀身を、茫然と見下ろしている。
ズル
そのまま、地面に倒れる。あと2匹だ。
驚いたことに、初めての人?殺しに、全く不快感を覚えなかった。剣の体のおかげだろうか。敵を斬り裂き、体内を切り開く感触も、全然気持ち悪くない。むしろ気分はアゲアゲだ。
ヒャッハー、肉だぜ! とはならんが。
ただ、相手を切り捨てるという事に関して、忌避感は全くなかった。それどころか、妙な充実感がある。剣として、仕事をしたという満足感とも言えるだろう。
俺は背を向けて走り出そうとしていたもう1匹を背中から襲い、やはり一撃で葬った。
あと1匹はビビって腰を抜かしている。葬るのは簡単だった。
種族名:ゴブリン:邪妖:魔獣 Lv2
HP:12 MP:9 腕力:7 体力:11 敏捷:10 知力:6 魔力:3 器用:8
スキル
剣術:Lv1、コボルトキラー
しかし、凄いな俺。奇襲とは言え、全部一撃だし。攻撃力132はだてじゃない。まあ、それが強いかどうかは分からんが、ゴブリン程度は楽勝らしい。
ただ、1つ気になったことがある。
『俺、今光ったよな?』
そう、3、4匹目のゴブリンに止めを刺した時、刀身が一瞬光を放ったのだ。実は、2匹目の時にも光った気がしていたのだ。気のせいだと思ってスルーしたが。気のせいではないらしい。
だが、1匹目を倒した時には光らなかったように思う。まあ、とりあえず異常がないか、ステータスをチェックしておこう。
名称:不明
種族:インテリジェンス・ウェポン
攻撃力:132 保有魔力:166/200 耐久値:100/100
スキル
鑑定:Lv6、自己修復、自己進化〈ランク1・魔石値3/100・メモリ10〉、自己改変、念動、念話、装備者ステータス小上昇、装備者回復小上昇、スキル共有、魔法使い
セットスキル
なし
メモリスキル
穴掘り:Lv1〈New〉、解体:Lv1〈New〉、剣術:Lv1〈New〉、棍棒術:Lv1〈New〉、指揮:Lv1〈New〉、生存術:Lv1〈New〉、コボルトキラー〈New〉
なんだ? ステータスに新しい項目が増えた。まず目に付くのは、自己進化に追加された項目だ。
自己進化〈ランク1・魔石値3/100・メモリ10〉
ランク1? 自己進化にレベルのようなものがあるのだろうか。そして、次の魔石値という項目だ。3/100とある。光ったのは3回。魔石値も3だ。関係あるのか? そして、メモリ? これも意味が分からないな。ただ、その後に追加された、メモリスキルというものと関係あるのは確かだろう。
よく思い返してみると、殺した時に光ったゴブリンのスキルだ。一番目に倒したゴブリンの持っていた、警戒が表示されていないので、確かだと思う。
倒したゴブリンのスキルを吸収した?
メモリスキルを選択してみると、インフォメーションの様なものが鳴り響いた。
〈現在の残メモリは10です。スキルをセットしますか? Yes/No〉
もちろんYesだ。すると、スキル選択画面に突入した。上から順に選んでいく。
セットスキル
穴掘り:Lv1、解体:Lv1、剣術:Lv1、棍棒術:Lv1、指揮:Lv1、生存術:Lv1、コボルトキラー
メモリスキル
なし
と変化する。セットできたのか? よくわからないな。
よくわからないと言えば、光る基準だ。なぜ最初の時は光らなかったのか? そこでヒントとなるのが、魔石値という言葉だ。
魔石。異世界召喚物のラノベでは、よく聞く言葉だ。魔獣の体内にある、魔力の結晶である。俺の想像どおりなのだとすれば、だが。
倒し方の違いで言うと、最初の1匹は喉を切り裂いただけ。後の3匹は、胴体を貫いている。この差かもしれない。
『ふむ。試してみるか』
俺は、最初に倒したゴブリンに、再度突進した。倒れているその死体に、思い切り自らの刃を突き立てる。
死体を嬲る様な行為だが、検証のためだ。許せよ。
そして、3回目にして、俺は目的の反応を得ていた。僅かな硬い感触と共に、刀身が光ったのだ。
やはり、魔石を刺し貫くと、その魔力か何かを吸収できるらしい。ゴブリンの魔石は、腹にあるのだろう。
魔石値が4/100に増え、メモリスキル欄には、警戒と毒耐性が追加された。
あと気になるのは、スキルのレベルだろう。ゴブリン・リーダーは解体をLv2で持っていたし、下っ端の1匹は穴掘りをLv2で持っていたはずだ。でも、ゲットできたスキルはLv1である。どうやら、レベルがリセットされるみたいだった。
これらのスキルはレベルアップするのか。それは使用することでか? それとも、魔石を吸収していけばよいのだろうか? 今後も検証が必要だった。
とりあえず、警戒と毒耐性もセットしておこう。