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47 少し揉んでやった

 ダンジョン調査依頼初日。


 すったもんだの末にギルドを出発した一行は、半日かけて洞窟にやってきた。


 まあ、道中大変だったよ。主にクラッドがね。お山の大将気質なのだろう。どうしても、自分以外のリーダーが気に入らないようだ。いちいち周りに突っかかる。しかし、試験官のクルス君にまで口答えしたのには驚いた。


 あれだけDランクに上がりたい発言しておいて、試験官の印象を悪くしてどうするんだ? それとも、俺ってばこんなに自己主張があって、能動的に動くタイプなんだぜ! 目上の奴にもビビらない、胆力も持ってるぜ! っていうアピールなんだろうか。まあ、何も考えてない方に1票だけどね。


 アマンダさんも、結構気が強いので、すぐに二人のにらみ合いが始まってしまう。最後は、アマンダさんの気迫に負けてクラッド君が折れるんだし、最初から歯向かわなければいいのに。


 フリーオンは揉め事に関わることはないのだが、完全に傍観者で、止める事もしない。なので、全ての揉め事の仲裁は、クルス君が請け負うしかない状態だった。わずか半日で、妙にやつれた気がするのは俺の気のせいだろうか。みんな少しは間に入ってやればいいのに。


 フラン? まあ、人には得手不得手があるよね?


 俺は道中、アマンダさんの戦闘が見れて面白かった。鞭もすさまじいし、風の魔術もかなり有用そうに見えたし。火の魔術と違って、森林地帯でも盛大に放てるのが良いな。


 道程もかなり遅れてしまった。本来なら、夕方にはダンジョンに到着できるはずが、すでに夜だ。


「えー、本来だと今日の内に1、2階層を踏破して、明日に残りを攻略する予定だったが、少々予定が遅れている。なので、今日はここで野営を行い、明日は早めにダンジョンに入ろうと思う。良いな?」

「野営なんてしねーでよ。さっさとダンジョンに入ればいいじゃねーか。そんで、サックリ攻略しちまおうぜ。どうせ、中は雑魚ばっかりなんだろ?」

「確かに魔獣のランクは低いが、疲れた体で入り込むのは危険だ。今日はここで野営とする」

「私は賛成です」

「私も」

「良いとおもう」

「ちっ! 腰抜けどもが!」


 とか言いつつ、自分たちだけで突っ込むような真似はしないようだ。彼だって本当は分かっているのだろう。半日の行軍で疲れている状態でダンジョンに入るのは危険だと。それでも、クルスに何か言わなければ気が済まなかったのだと思われる。


 正直言って嫌いなタイプだ。学級会で、決まりかけていたどうでも良い議題を、何故か変な理屈をこねてひっかき回す目立ちたがり屋タイプである。周りが「もうどうでも良いよ。さっさと決めて帰りたい。黙れ」と思っているのに、人気者への対抗心で延々反論し続けるのだ。


「フランちゃん! 私のテントで寝ない? 見張りなんて男どもに任せて良いから」

「遠慮する」

「あーん、つれないのね」

「見張りは、最初にフランさん。俺たち、クラッドたち、フリーオンたちの順にする」


 お、一番面倒な深夜の番をクラッドたちに押し付けたね。やるなクルス君。少しだけ仕返ししたじゃないか。


「Aランク様は見張りしないのかよ」

「アマンダ様はオブザーバーだ。それに、彼女に頼んだら、君たちの試験にならない。それこそ、1時間もかからずにダンジョンを踏破されるだろう。今日中に帰途につける。結果、君たちは不合格だがな」


 Aランクなんて言う規格外に手を出されたら、なんでも簡単に済んでしまうだろう。むしろ、邪魔なくらいだった。まあ、アマンダはいざと言うときの保険くらいに思っておいた方が良い。


「けっ、そうかよ」


 結局、クルスの決めた通りの順番で、見張りをやることになった。最後までブツブツ言っていたが、アマンダさんに黙らされた形だ。


「事前に通達してあった通り、食事、寝具は各パーティで準備してあるな?」


 してあるとも。ランデルに頼んで、高級寝具を手に入れたんだからな。寝袋、毛布、合わせて7千ゴルドもしたんだぜ!


 食事は、言わずもがなだ。大量調理した魔獣料理がある。まあ、まずは俺たちが見張りだからな、飯はお預けだ。


「おいおい、そのガキ1人で見張りなんざできんのかよ?」

「問題ない」

「ああ? ガキの自己申告なんざ信用できっかよ」

「彼女はランクD冒険者だ。君たちより格上だよ? その彼女が問題ないと言ってるんだ、大丈夫さ」

「ランクDったって、怪しいもんだぜ! 俺らが遠征に行ってる間に、何があったんだか! よお、あのロリコンギルマスに、体でも使って取り入ったのか? 言ってみろよ!」


 あー、こいつは調査帰還組だったか。だとすると、フランの戦いを目にする機会がなかったことになる。この程度のランクだと、相手の実力を測るなんて芸当も出来んだろうし。クラッドは、何らかの不正な手段で自分よりも上のランクを手に入れたと、勘違いしているんだろう。


 まあ。実際に特例でのランクアップだったしな。疑う余地はゼロではないか。


 だとしても、許せんものは許せん。


『フラン、どうする?』

(? 別にどうもしない。ちょっとうるさいだけ)


 クラッドは相変わらず恫喝スキルを発動させているが、フランにはちょっとうるさいだけらしい。


「実力」

「は! 実力ぅ? お前みたいなガキが、実力でランクDに達するわけないだろうが!」

「実力(私と師匠の)」

「ひゃははは。いいぜ、だったらその実力とやらを見せてみろよ。ちょっと揉んでやるからよ」


 クラッドはそう言って、槍を持ち上げて見せた。模擬戦でもやろうというのだろう。


 フランは、ゆっくり立ち上がる。あーあ、もう完璧に臨戦態勢だ。


『フラン、やるのはいいけど、やりすぎるなよ?』

(わかってる。ちょっと揉んでやる)


 良い笑顔だ。しかし、他の奴らは何も言ってこないな。フリーオンたちは、元々そういうタイプじゃないから、分かるんだが……。


 アマンダなんか、真っ先に止めにはいるかと思ったら、面白げに笑っている。まあ、フランとクラッドの実力差なら、何も問題がないと分かっているのだろう。


 クルスたちも、止めに来ないな。もう呆れ果てて、止める気力もないのだろうか? いや、そんな感じじゃない。彼らもまた、真剣な表情で二人を見つめていた。


 そう言えば、クルスたちの姿もゴブリン討伐では見かけなかった。多分、調査帰還組なのだろう。彼らもまた、フランの実力を見定めたいようだ。クルスの仲間2人が、さり気なく周囲に気を配り、フランの代わりに見張りをしようとしているのが分かる。


『フラン、やる前に、結界を張った方がいい』


 このまま模擬戦を始めたら、見張りをさぼったとか言って、クラッドたちがまた文句をつけてくるかもしれんからな。


(ん。分かった)


「――ウィンド・ゾーン」

「――アース・ゾーン」


 ウィンド・ゾーンは、風魔術の結界だ。基点から任意の範囲を半球形に覆う。範囲内に侵入してきた物を、風の流れで感知して術者に教えてくれるのだ。


 アース・ゾーンは、土魔術の結界で、基点から任意の範囲を半球形に囲む。ウィンド・ゾーンとの違いは、下方向に、――つまり地面の下をカバーする点だ。その代わり、空中には効果がない。


 風と土、両方を使えば、全方向をカバーできるという訳である。


「……はぁ? ま、魔術だと?」

「しかも、2属性も使ったぞ」

「まじかよ」


 クラッドの仲間たちが騒ぎ出したぞ。今まではニヤニヤしながら事の成り行きを見守っていたのだが、急に青い顔になったな。


「お、おまえ、魔術師だったのか!」

「? 魔術師じゃない」

「いや、だって、魔術を使ったじゃねーか!」

「別に、魔術師じゃなくても使える」

「そ、そりゃそうだが……」


 何か、結界魔術を使っただけで、クラッド君を威圧することに成功したようだ。一応Lv4の魔術だし。それをあっさりと使ったフランは、ランクE冒険者にしてみたら脅威に映るのかもしれない。


「じゃあ、やろ」

「お、おう。いいぜ、やってやるよ!」


 魔術は使えないが、槍なら負けない。そんな決意が丸分かりの顔だ。それに、槍対剣は、槍が圧倒的に有利。1対1の対戦で負けるわけにはいかないだろう。


「……いつでもいい」

「つえりゃぁ!」


 様子見はなしか。いいんじゃないか? フランの強さを、僅かに感じ取った故の、全力攻撃だろうしな。


 寸止めとか全く考えている様子のない、顔面への全力突き。暢気に食事をしながら観戦気分だったフリーオンたちも、これにはさすがに驚いたらしい。クラッドの仲間たちと彼らから、同時に悲鳴が漏れた。全く動かないフランを見て、クラッドの槍が直撃すると思ったらしい。


 だが、彼らの予想は大外れだ。


「それじゃダメ」


 フランが俺を僅かに振るい、槍を弾いて穂先を逸らす。勢いを付けすぎたクラッドは体が泳いで、完全に死に体だった。そこに、フランの蹴りが炸裂だ。


「がっ!」


 クラッドは吹き飛ばされ、地面に転がる。


「ちくしょうぅ!」

「まだやる?」

「あ、当たり前だ! 今のは油断したが、もう同じ手は喰わないぜ!」


 おお! ここまでテンプレな負け惜しみ、初めて聞いたかも! ムカつく奴だけど、これを聞かせてくれただけで、ちょっと許せちゃうな。まあ、ちょっとだけだけどね。


「そう。だったら、こっちから行く」

「あ――がっ!」


 クラッドからは、フランの姿が消え去り、いきなり真横からぶん殴られたように感じられたはずだ。まあ、速く動いて、剣の腹でぶっ叩いただけなんだが。


「まだまだぁ……!」

「ん」

「おらおらおらぁ!」


 やけくそになったのか、槍を荒々しく振り回し、連続で突きを放ってくる。だが、フランには当たらない。突いて突いて突いて。そして避けて避けて避ける。その繰り返しが、どれほど続いただろうか。


「なんでだよっ! 何なんだよ!」

「それじゃ当たらない」

「こんなの信じられるかよっ!」


 多分、3分くらいなんだろうが、全力で槍をぶん回し続けたクラッドは、すでにフラフラだった。自分の渾身の攻撃が全く当たらなかったことがショックなのか、情けない顔で、喘いでいる。


「ちくしょうっ、ちくしょうぅ!」

「じゃあ、そろそろ終わりにする」

「ちく――ごはっ!」


 再び俺で顔面を叩く。そして、クラッドは意識を失い、倒れ伏したのだった。


「リーダー!」


 クラッドの仲間たちが駆け寄ってくる。


『まあ、これだけやれば、もう突っかかってこないだろ』

「ん。残念」

『ああ、残念なのね』


 確かに、訓練相手がいないからな。性格に難がある相手でも、面白かったんだろう。


「フランちゃん、強いわねー」

「ん」


 フランを抱きすくめたのはアマンダだ。やっぱり接近に気づけなかった。くそ、ちょっと悔しいぞ。


 ただ、アマンダの顔には少し違和感がある。いつも通りの柔和な笑みなのだが――目が笑っていない。どちらかと言うと、獲物を見つけた猛禽の様に見える。


「ねぇ。私とも模擬戦してみない?」

「アマンダと?」

「ええ。私、Aランクな上にソロでしょ? 訓練相手に困ってたのよね。でも、フランちゃんなら、良い訓練ができそう!」


 ああ、彼女も訓練相手がいないのか。A級との訓練。貴重な体験だろう。しかし、やらせて良い物か。事故なんか起きないとは思うけど……。


『なあフラン――』

(剣聖術の習熟にはもってこい)

『そうだな』

「ん」


 ああ、ダメだ。完全にバトルモード。こうなったフランを止める事なんてできやしないのだ。



ステータス比較対象が欲しいという要望があったので、前話のあとがきにフランのステータスを追加しました。

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