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486 接近戦

 光学迷彩で姿を消していた魔獣は、インビジブル・デスという脅威度Bの魔獣であった。軍隊がその縄張りに侵入してしまい、その姿を発見できぬままに壊滅したことがあるらしい。


 そりゃ、あの威力の狙撃を1キロ以上先から連打できるんじゃ、一般の兵士じゃ対応できないよな。


 単にステータスが高いだけではなく、光魔術、雷鳴魔術、火魔術などの魔術スキルも備えている。


 さらに全身に纏う水晶のような外殻が曲者で、魔力を反射する性質があるらしい。これに加えて隠密系スキルが充実している。あとは光学迷彩を使えば、目の前にいても気付かないということも十分あり得た。


 こいつの嫌らしい所は、俺たちが近づいたら攻撃を止めるだけの知能を持っているところだろう。駆け引きができるのだ。


 この世界において、強い存在であればあるほど、スキルで魔力や気配を感じる能力が高い。そして、それに慣れている。インビジブル・デスの隠密性は、そんな強者相手にこそ効果を発揮するだろう。俺たちがウルシに教えてもらうまで気づけなかったように。


 ウルシレベルの嗅覚をもった強者を相手にする場合は、遠距離からの狙撃で片を付けるのだろう。


 逆に言えば、接近戦は苦手な可能性が高い。防御力は高そうだが、動きは鈍そうなのだ。


「ガルオ!」


 ウルシがインビジブル・デスに向かって暗黒魔術を放つ。しかし、あの水晶は魔術に対する耐性も持ち合わせているらしい。巨大な漆黒の槍は水晶の表面であっさりと霧散してしまった。


「ブルオオオオオォォ!」


 自分の位置がバレたことを悟ったのだろう、インビジブル・デスが身構えた。


 ここからが本当の戦いだ。


「師匠は魔術!」

『おう!』

「ウルシは後ろから攻撃!」

「オン!」


 フランは指示を出しながら一気に突っ込んでいく。そのまま攻撃を繰り出そうとして、右に大きく飛び退く。


 直後、今までフランがいた場所が大きく陥没した。


『尻尾か!』

「ん!」


 インビジブル・デスはアンキロサウルスに似た外見をしているのだが、俺が最も似ていると思ったのが顔と尻尾だ。


 その尻尾は先端に分銅のような錘が付いており、振り回すとかなりの威力がありそうな外見をしている。いや、今見た限り、その一撃は相当な威力だろう。しかも速い。


 尻尾を連続で振り回す攻撃は、凄まじい速度だった。しかも正確無比。以前、蜘蛛のダンジョンに潜ったときにフランとアマンダが模擬戦をしたことがあるが、あのときのアマンダの鞭捌きと同等かもしれない。フランが必死にその尾を回避する。


 さらにインビジブル・デスの攻撃は尻尾を振り回すだけではなかった。


 全身に生えた尖った水晶の鱗を、フランとウルシに向かって発射してくる。どんな方法で撃ち出しているのかは分からないが、鱗であれば全て撃ち出すことができるらしい。しかも、撃ち出した跡にはすぐに新しい水晶鱗が生えてくるのだ。


「はぁぁ!」


 ギィイイン!


 鱗を躱しながらインビジブル・デスに近づいたフランが牽制も兼ねて切りつけるが、やはり本気の攻撃でなくては碌なダメージは与えられない。硬いことも確かだが、魔力を拡散させる能力が厄介だ。属性剣などの威力が弱められてしまうのだ。


 さらに攻撃を繰り出そうと身構えたフランだったが、そこに強力な集塵機をフルパワーで動かしているかのような甲高い音が聞こえてきた。


 キーン――ヒュゴォ!


「くっ!」

『なるほど! 尾の先端から撃ち出してたのか!』


 全身から撃ち出す鱗は狙撃時ほどの精密さが感じられなかったが、狙撃鱗は尻尾を砲身代わりに撃っていた特別製であるらしい。魔力を爆発させるだけではなく、圧縮空気と雷鳴魔術も併用しているようだ。さらに、気流操作、空気操作で弾道を安定させているようだった。


 スキルがあるのに雷鳴魔術を使ってこないので不思議に思っていたんだが、狙撃用なのだろう。狙撃鱗はこの至近距離でも、かなりの速度と威力があった。さらに、突進してきたインビジブル・デスが、その足でフランを踏みつぶそうとしてくる。


 動きは確かにそこまで速くないが、巨体であるため一歩が大きく、意外なほどに突進は速い。


「ブルオオオ!」

「ぐむぅ!」


 接近戦が苦手とか、誰が言ったんだよ! まったく! 2種類の鱗攻撃だけではなく、尻尾と突進による直接攻撃。こいつ、もしかしたら接近戦の方が強いかもしれない。


『はぁぁぁ!』


 ならば距離を取って魔術だろう。水晶鱗のもつ魔力を乱す性質を加味しても、高威力の魔術であれば通るはずだ。


 俺は雷鳴魔術トール・ハンマーと、火炎魔術フレア・エクスプロードを連続して放つ。多少威力は落ちてしまうものの、やはりダメージは通っているようだ。


 一部の水晶が破壊され、インビジブル・デスの口から悲鳴が漏れた。だが、向こうもやられるばかりではない。


「ブオオォッ!」

『やば!』

「むっ?」


 俺は強烈な魔力の収束を感じ、咄嗟に短距離転移を行った。それとほぼ同時に、今まで俺たちがいた場所を眩い光線が貫いている。


 光魔術による攻撃だった。っていうか、もうレーザービームにしか見えん。地面は衝撃と熱で大きく抉れている。光魔術ってこんな強いの?


 だが、それを深く考える間もなく、インビジブル・デスはこちらの転移先を感知して鱗を撃ちこんでくる。


 転移直後に撃ちこまれた鱗を躱しきれず、至近距離で爆発した散弾鱗を俺で弾くフラン。だが、何とか守れたのは急所だけだった。腕や足に何発か被弾してしまう。


「くぁ!」

『グレーター・ヒール!』


 フランが少なくない傷を負ってしまった。だが、あの光魔術を食らうよりは数段ましだろう。


(師匠、助かった)

『光魔術は最優先で躱すからな? 転移後、気を付けろ』

(お願い)


 厄介なのは発動の速さだけではなく、その速度だろう。実際、撃たれた後に反応できるとは思えなかった。事前の魔力収束をできるだけ察知するしかない。


「師匠、魔術! こんどは倒すつもりで!」

『分かった!』


 俺たちは再びトール・ハンマー、フレア・エクスプロードを放った。ただし、今度は消耗覚悟の多重起動だ。さらにチャンスをうかがっていたウルシが、俺たちに合わせて暗黒魔術を放ってくれた。


 大爆発がインビジブル・デスの体を包み込み、先程以上のダメージを与えた。背中を覆っていた水晶の甲殻が半分以上剥げ落ち、その体から煙が立ち上る。


「ブモオオオオ!」

「押し込む! 止め!」

『おう!』


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