483 枯渇の森散歩
アリステアと別れた後。俺たちはいよいよ枯渇の森までやってきていた。
入るときに少しドキドキしたが、その程度だったな。自分で思っていた以上に、この森へのトラウマは軽くなっていたらしい。まあ、フランと出会った場所でもあるからだろう。
『どうだフラン?』
「ん……。変な感じ」
体内の魔力を吸収されるほどではないが、この森の中では魔力が回復しない。それに、気配察知などのスキルも上手く発動しないのだ。
いつもと感覚が違って、違和感があるのだろう。俺と出会ったときはまだ魔力を操ることもできなかったからな。この森の異常を上手く感じ取れなかったはずだ。
『枯渇の森だと、魔術もスキルも使うのが難しい。注意しろ』
「ん」
『ウルシはどうだ?』
「クゥン……」
現在、元の巨大サイズでノロノロと歩いているウルシは、情けない鳴き声を上げた。
ウルシの場合は、フラン以上に体の負担になっているはずだ。日常で無意識に魔力を使用している部分を、自力で行わなくてはならないからな。
まず、身体変化や影潜りのスキルが上手く使えない。身体変化はかろうじて発動するんだが、長時間維持できないうえに上手くサイズの調整もできないようだ。
それに、大きな体を支えるために無意識に魔力で体を強化していたようだが、それが使えないために巨体を上手く制御しきれていないらしかった。
『俺やフランは体内の魔力まで奪われたりはしないんだがな……』
ウルシの場合は魔力を常に消耗し続けてしまうらしい。身体強化などの能力を発動できないどころか、常に魔力が失われていく状態だ。俺から魔力を供給してやらなかったら、とっくに動けなくなっていただろう。
多分、俺たちにも分からない部分で無意識に魔力を使い、その魔力が吸収されるというサイクルを繰り返しているのだ。
止めろと言っても、ウルシ自身止められないらしい。人間でいう皮膚呼吸などのような、勝手に行われている生命活動のような物なのだろう。
「クゥウン」
『ほれ、もうすぐ森を抜けるから――フラン』
「ん!」
気配察知など使わずとも、これだけガサゴソと音が鳴っていればハッキリと分かる。何か大きな存在が俺たちに向かって近づいてきていた。
「ガオウ!」
繁みをかき分けて飛び出してきたのは、首が2つある熊だ。
『ツインヘッドベアか』
「これ、覚えてる」
『お、そうか?』
「ん。私が師匠を使って初めて倒したやつ」
さすがのフランも覚えていたらしい。まあ、やる気満々のフランの前でウルシに瞬殺されたけどね。
いくら弱体化していると言ってもステータスが違う。ウルシが負けるわけもなかった。ただ、クマの元気さを見ると、やはり魔力に依存しないで生きていける下位の魔獣の方が枯渇の森での活動に向いてるんだろうな。
「オッフー!」
前足の一撃で倒されたツインヘッドベアに足を載せ、勝ち誇った顔をするウルシ。だが、それを見るフランの顔は不満げである。
「むぅ……」
「オン?」
「私が倒そうと思ったのに……」
「オ、オン……」
思い出の相手とでも言えばいいのだろうか? 久しぶりに出会ったツインヘッドベアを狩る気だったフランは、獲物を横取りされて頬を膨らませていた。
慌ててすり寄るウルシを、ジトーッとした目で睨むフラン。
「クウゥン……」
「ふん」
「キャイン!」
「……次は私」
「オン!」
フランはまだご立腹のようだが、尻尾を引っ張ることで一応許してやったらしい。
『とりあえず持ち上げてくれ』
「ん」
『よし、その辺でいいぞ』
次元収納で熊を仕舞う。枯渇の森でも一瞬だけ発動することは可能なのだ。ただ、地面に寝っ転がっている状態だと魔力吸収現象の効果が強いので、少し持ち上げてもらったが。いや、地面に寝ている状態でも収納できるが、それだと無駄に魔力を消耗するしね。
『それにしても、この森の魔獣は普通に襲ってくるな』
「どういうこと?」
『いや、ウルシの気配や匂いがすれば、普通の雑魚魔獣なら近寄ってくるはずがないんだけどな』
むしろ逃げていくはずだ。しかし、枯渇の森ではすでに何度か戦闘が起きている。今倒したツインヘッドベアに、ゴブリンと2回、コボルトと1回、遭遇していた。
影に潜っている状態ならともかく、元の巨大なサイズのままのウルシにこうも襲い掛かってくるのだろうか?
「ん……。相手の強さが分からない?」
『それが一番可能性があるか』
気配察知などのスキルが使えないせいで、相手の強さを測れないのかね。だが、襲い掛かってきた魔獣全てがそのスキルを持っていたわけではないはずだ。
いや、スキルが無くても魔石があればそれに近い能力を持ち得るか? 魔力操作や気力操作スキルが無くても、魔石がそれらのスキルの代わりをするおかげで、魔獣は魔術などを扱えると聞いたことがある。
だったら、気配察知や魔力察知などのスキルに近い能力を持っていてもおかしくはない。それによって相手の位置は分かるが、強さまでは測ることはできないのかもしれなかった。
『あとは、枯渇の森には雑魚の魔獣しか住んでいないせいで、危機察知能力が低下しているっていうのもあるだろうな』
「なるほど」
これだと、枯渇の森にテントを張って寝起きするのも中々面倒かもしれん。常に魔獣の襲撃を警戒しなくてはならないのだ。
まあ、枯渇の森で長期間活動するのは、魔狼の平原の外周に手に負えないレベルの魔獣が生息していた場合だけだがな。
脅威度Aの魔獣が確認されたこともあるというし、その場合は逃げるしかない。なにせ、脅威度Aといったらあのリッチと同レベルだ。成長した俺たちであっても勝てるとは言い切れない相手だった。可能性は低いと思うが、そのレベルの魔獣が大量にいた場合、おいそれと魔狼の平原に突入することはできないだろう。
『それもこれも、魔狼の平原を観察してみてからだ。ほら、もう抜けるぞ』
「ん!」
「オン!」
懐かしの魔狼の平原である。さて、現在の状況はどうだろうかね?
新作が30話を超えました。そちらもぜひよろしくお願い致します。
レビューを頂きました。
本当に有り難いです。作者のモチベーション、上がりまくりです。
ありがとうございました。




