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481 アレッサの現状


 クリムトに魔狼の平原に入る許可をもらった翌日。俺たちは出発前に、市場へとやってきていた。


 王都で炊き出し代わりに次元収納の料理を配りまくってしまったからな。その補充をするつもりなのだ。まさかフランがカレーまで配るとは思わなかった。それだけ王都の人々を助けたかったってことなんだろう。


 全てを配り切ったわけではないが、できれば補充しておきたい。


『まあ、肉は自分たちで確保した方が早いしな』

「ん」


 そもそも、アレッサの市場にそれほど多くの魔獣肉があるとも思えない。そう思っていたんだが、実際に市場を見るとその考えが間違いであると思い知らされた。


「これ、何のお肉?」

「おお! お目が高いね! こいつはグリンブルスティっていう、脅威度Dの魔獣の肉だよ!」


 なんと、かなり強力な魔獣の肉がそれなりの数並んでいたのだ。グリンブルスティと言えば、バルボラでの料理コンテストで、俺たちもカレーパンに使った魔獣である。金色の猪の魔獣で、かなり美味い。そして強い。この辺に出没したのか?


 他にも、魔獣肉の種類は中々のものだ。しかも肉を販売している店はここだけではなかった。アレッサって、こんなに肉が豊富な都市だったっけ?


 疑問に感じていたら、店のおばちゃんが聞く前から色々と教えてくれた。


「アマンダ様のおこぼれがこちらまで回ってきているのさ」

「アマンダ? 今アレッサにいるの?」

「ああ。この町の周辺を見回って、積極的に狩りをして下さっているそうだよ」


 アマンダがアレッサの周辺で狩りを行うようになり、素材としてギルドに売られた魔獣肉が町にも出回っているということだった。


「アマンダは戦争に行ってないの?」

「ジャンっていう冒険者さんが活躍してるそうだから、アマンダ様はこの町の守りに残っているそうだよ? あの方がいれば、悪さをする奴も減るしね」

「そうなの?」

「そりゃあそうさ。まあ、戦争のせいで多少混乱もあったが、近頃は騎士団が頼りになるからね。思ったよりも混乱は少なかったんだ」


 騎士団を私物化していた副団長のオーギュストが死んだことで、大分ましな存在に生まれ変わったらしい。


「最近は騎士団もお行儀良くなったし、黒い噂のあるお貴族様もお上にしょっ引かれて、だいぶアレッサも落ち着いたよ」

「黒い噂のある貴族?」

「なんでも、王都のクーデターに加担していたお貴族様らしいよ? オルメス伯爵とか、元々評判の悪かった貴族がいなくなったおかげで大分商売もやりやすくなってねぇ」


 今まではショバ代のようなものや、上納金などを納めなくてはいけなかったらしい。それが必要なくなり、小売店はかなり楽になったという。


 その後、肉や香辛料、調味料に野菜などを買い込んだ俺たちは、次の目的地へと向かった。


「おやおや? もしかしてフランさんかい?」

「ん。久しぶりランデル」


 アレッサにたどり着く前、フランを馬車に乗せてくれた商人、ランデルの店だった。相変わらずごちゃごちゃとしているな。


「今話題の黒雷姫さんがお越しくださるとはね!」

「知ってるの?」

「ははは。商人にとって情報は武器さ。まあ、僕の場合は君のことを知っていたし、普通の商人よりは気にしていたっていうこともあるけど」

「なるほど」


 知り合いの情報であれば、多少は耳に入りやすくなるということか。


「まさかあのときの少女がここまで昇りつめるとは思ってもいなかったよ。でも、変わっていないようで安心した」

「変わってない? あのときより強くなった」

「ああ、そういう意味じゃないんだ。もっと中の話さ。冒険者にはランクが上がると、急に威張り出す奴もいるから」

「ふうん?」


 フランの場合、ランクが高かろうが低かろうが、そもそも他人に遜っていないのだ。ランクが低いときから偉そうだったから、ランクが上がっても変わらないと言った方がいいかもしれない。


「それで、本日はどうしたんだい? まさかアレッサに戻ってきたから挨拶に来たわけじゃないだろう? いや、僕としてはそれでも嬉しいけどね」

「鍋と食器がほしい」

「鍋? 食器?」

「ん」


 王都での炊き出し時、鍋や食器ごと渡すということも多かったので、新たな料理を作ってもそれを入れておく器が足りていなかった。


 ランデルの雑貨屋なら、数が揃うのではないかと思って尋ねてみたのだ。


「どれくらいの量が必要だい?」

「たくさん」


 少々やり取りに手間取りつつも、なんとか欲しい鍋のサイズなどを伝える。


 だが、当然のことながらランデルの店で全ては揃わないという。ただ、ランデルが他の雑貨屋などにも声をかけてくれたおかげで、なんとか必要な分量はゲットすることができたのだった。


 中には、わざわざ台車に食器などを載せて運んできてくれた店主もいた。値切らず、気前よく代金を支払ったのがよかったのだろう。


 しかもその中にはルシール商会の人間までいた。バルボラなどで付き合いのあった、大商会である。アレッサにも小さい支店を出しているそうだ。クランゼル王国の主要な都市や町には、だいたい支部支店があるらしい。


『まあ、これで食材も器も用意できたんだし、町の外に行って調理をしよう』

「ん」


 以前は宿の厨房を借りねば本格的な調理はできなかったが、今の俺なら魔術でどうにでもなる。むしろ、町の外の方が気兼ねがなくてよいくらいだった。


 さすがに魔狼の平原まで行ってしまうと危険すぎる。散発的に魔獣が襲ってくるような場所で悠長に調理などしていられないだろう。


 枯渇の森は魔術が使えないし、調理自体ができない。


 となると、枯渇の森の手前くらいがちょうどいいかな?



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