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477 Side アリステア


 緊急事態だった。


「この気配は……神剣っ!」


 なんと、この大陸において神剣の力が開放されたのだ。神級鍛冶師の能力により、アタシは神剣の気配を探ることができる。


 開放されているのであれば、なおさらだ。しかも驚くべきことに、神剣の気配が2つもあった。


 1つは分かる。アースラースの大地剣ガイアだろう。しかし、もう1本に関しては全く心当たりがなかった。


 アタシが触れたことのない神剣が現れたということなのだろう。


 ただ、違和感もある。ガイアと戦っていると思われる神剣の気配に、明らかな歪みがあるのだ。もしかしたらすでに損傷を負っているか、何らかの理由で真の力を発揮しきれていない可能性があった。


「いや、そんなことは見れば分かる!」


 ともかく行かないと。それがアタシの使命でもあり、人生の目的でもあるのだから。だが、行動を開始したアタシに水を差す者がいた。


「アーちゃん? いったいどこに行こうっていうの?」


 金髪に白い肌。細身に、尖った耳。エルフの特徴を備えた、トロそうな女だ。


「ウィーナレーン……! いつの間に!」


 しかし、その柔和な外見と話し口調に騙されてはいけない。この女は、アタシがこの世で最も敵わない相手の1人なのだ。


「ここは私のお家よ? そこでコソコソと怪しい動きをしていれば、気付くに決まっているでしょう?」

「気配を消すための道具をわざわざ使ってたのに!」

「あら? でも、全然隠れられてなかったわよ? 失敗作だったんじゃないかしら?」

「これだからハイエルフは! 神級鍛冶師謹製の道具を失敗作って……!」


 そう、この女はただのエルフではない。この世界でも数人しかいないと言われる最強種族、ハイエルフの1人なのだ。さらにそのハイエルフの中でも、特に有名な1人でもあった。


 正確な人数が分からないハイエルフ。しかも多くのハイエルフが表に出ずに活動している中で、積極的に人間と関わる者が少数ながら存在していた。


 その少数のハイエルフの1人が、このウィーナレーンである。他に、歴史研究者のウィロー・マグナス。放浪の植物学者ウィガン・ウィガンの2人の名が知られている。


 因みに3人とも名前の最初にウィが付いているのは偶然である。エルフの中では、時おりウィから始まる名前が流行る時期があり、3人ともその時に生まれただけだそうだ。まあ、エルフの時おりが何百年単位の話か分からんが。


 後者2人が家名持ちなのは、貴族であったことがあるからだ。過去形なのは、両者を貴族に叙した国がすでに滅んでいるからだった。


 そもそも、ハイエルフに国やら貴族位やらが通用するわけもなく、取り込もうとして失敗したのだろう。ウィガン・ウィガンなど家名をどうするか問われて、面倒だからウィガンでいいと答えたという逸話があるほどだった。


 まあ、国があっさりと滅んだことからも、ハイエルフたちが国家運営に興味がなかったことがうかがえる。多少なりともその力を利用できていれば、破滅を回避することは容易だったはずだからな。


 様々な逸話とともに、その名前が知られた3人のハイエルフではあるが、ウィロー・マグナスとウィガン・ウィガンに関しては普段から研究のために世界を放浪しており、時おり研究成果をギルドなどに提出するだけだ。それを考えれば、世界で唯一居場所が特定されているハイエルフがウィーナレーンであった。


 ウィーナレーンの肩書で有名なものは2つ。1つは7賢者。これは、ランクS冒険者と並ぶほどの実力者と言われる7人を総称して付けられた名前だ。まあ、7賢者の中に自らその名を名乗った者は1人もいないが。そもそも、魔術師が2人しか含まれていなかった。


 これは、ギルドの台頭に危機感を募らせたギルド以外の組織や国が、ギルドを牽制するために勝手に提唱しているだけだからな。中には戦場に出たことさえない人物まで含まれる。あくまでも、凄まじい実力者だろうと思われている7人ということだ。しかも賢者と名付けたのも、荒々しいイメージの冒険者に対抗してという下らない理由である。


 ただアタシが見たところ、この7賢者というのは馬鹿にできなかった。


 まず、神剣所有者が3人。始神剣アルファの所有者である神剣騎士。役職名しか明かされていないが、存在することは間違いない。


 それと相対する、狂神剣ベルセルクの所有者、月下美人。こちらは個人名ではなく、神剣運用のための特殊組織の名前であるらしい。


 さらに、魔王剣・ディアボロスの所有者であるフィリアースの国王。ただし、これは間違いだ。あのディアボロスの主が、気軽に人前に出れるわけがない。王族であれば悪魔への指揮権があるので、それを利用して本来の所有者を隠蔽しているのだろう。王でさえ、神剣所有者の影武者扱いということだ。アタシは、死亡したと言われている王族の誰かが実は生きており、神剣の主となっていると睨んでいる。


 残りの4人中、3人が強国の王である。魔族の国の王。蟲人の国の王。ドワーフの国の王の3人だ。この3人に関しては、アタシも実力が分からない。国の力が強大過ぎて攻められることもなく、そもそも大規模な戦争を経験していないのだ。ただまあ、弱くはないだろう。


 そして最後の1人が、ハイエルフのウィーナレーンである。こいつの実力はアタシがよく分かっている。大昔、ダンジョンでの素材集めに付き合ってもらったこともあるからな。ただ、ウィーナレーンの場合、7賢者よりももう1つの肩書の方が遥かに有名だろう。


 その肩書が『魔術学院長』である。


 ベリオス王国の中でも、自治が認められた特別地域に存在する、世界中から魔術の才能を持った子供たちが集まる魔術学院。その院長がウィーナレーンであった。


 まあ、世界最高の大海魔術師と言われるハイエルフが長を務めているのだ。そりゃあ人気が出る。


 世界中に魔術学院、魔術学校と呼ばれる施設はあるが、単に「魔術学院」と言えば、ウィーナレーンが院長を務める魔術学院のことを示すほどであった。


「まだお仕事がたくさん残っているでしょう?」

「う、うむ」

「私、悲しいわ。アーちゃんが約束を破るような子になっちゃうなんて」

「ぐぅ……」


 現在アタシは魔術学院の一角に間借りしている。長であるウィーナレーンがアタシの素性を知っているため、ひっそりと居心地よく滞在ができる場所だった。


 肩書は、臨時鍛冶講師だ。まあ、ひよっ子たちに軽く指導するだけの簡単な仕事だな。


 そして、仮の身分と衣食住の世話をしてもらう代金代わりに、アタシは魔術学院の魔法武具や魔道具のメンテナンスを引き受けている。むしろ役得と言ってもいいくらいだがな。この学院では日夜面白い魔道具が生み出されており、アタシ自身もそれらを見て刺激を受けることができるのだ。


「だ、だがな……。さすがに神剣の気配を放ってはおけん」

「うーん。そうねぇ。神剣は危ないわよね」

「そうだ」

「でも、武具の修理が終わらないと、上級クラスの授業がね~」

「それはそうなんだが……」


 若い頃も今も散々世話になっている相手であるせいで、あまり強くは出られない。ブチギレたときの恐ろしさも分かっているのだ。


「それに、例のゴーレムの修理と整備、まだ終わってないわよね? あれがないと、模擬戦の授業がかなり遅れるのよね」

「そ、そこをなんとか! なくても何とかなるだろう? ウィーナレーンが直接相手をすればいいじゃないか」

「仕方ないわねぇ。分かったわ。じゃあ、今回は貸しってことで」

「恩に着る!」

「ただし、1つ宿題ね」

「し、宿題?」


 おいおい、どんな無理難題を押し付ける気だ?


「ええ。前から模擬戦の講師に獣王さんかアースラースさんを紹介してほしいってお願いしていたでしょう?」

「いや、さすがにそれは……」


 ランクS冒険者相手に模擬戦? いったいどんな敵を想定しているんだよ。邪神と戦う人材でも育成する気か? だが、アタシが無理だと伝えると、意外にもウィーナレーンはあっさりと引き下がった。


「分かってます。だから、妥協するわ」

「妥協?」

「ええ。その2人レベルじゃなくても、ある程度強い人を探してきてくれないかしら? 冒険者だったら、最低でもランクB以上」

「うーん……。仕方ない。善処しよう」

「約束よ? 私はここからほとんど離れないから、全然そういった伝手がないのよね」


 まあ、いざとなったら獣王の伝手を頼ることになるだろう。最悪、ギルドに何か魔道具を売り払って、代わりに冒険者を紹介してもらってもいい。


「高ランクの冒険者を長時間拘束するのは無理だぞ?」

「分かってるわ。1週間くらいでいいから」

「いつまでに連れてくればいい?」

「そうねぇ。できれば急いでほしいから……。5年以内に頼めるかしら?」


 ハイエルフの時間感覚がぶっ飛んでいて助かった。面倒ではあるが、それなら何とかなるだろう。それよりも今は神剣だ!



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― 新着の感想 ―
[一言] 神剣について教えるゼミは神剣ゼm……うわなにすr
[一言] 急いで欲しいから5年…
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