474 ガルスと装備
エイワースらが去り、部屋の中にはフランとガルスだけが残された。
いや、積もる話もあるだろうと、気を利かせてくれたのだ。エイワースだけはまだ話があると騒いでいたが、フォールンド達が連れ出してくれた。
フランが盗聴防止用に結界を張ったのを見届けて、改めてガルスが口を開く。エイワースとか、想像もできない方法で盗み聞きを企てそうだからな。
「改めて、助かった。鞘を見つけてくれたそうだな?」
「ん」
『あの形と名前だからな。絶対に何かあると思ったんだ』
「絶対に気付いてくれると思ってたぜ?」
だが、問題はそこじゃない。
『いや、しかしだな。俺たちが王都に来ない可能性もあっただろ?』
俺たちが約束を守るか分からない。他に用事ができるかもしれないし、冒険者なのだから旅路で命を落としている可能性だってあるだろう。
しかしガルスは軽く首を振り、フッと微笑んだ。
「大丈夫だ。お前さんたちなら、絶対に約束を守るって分かってたからな」
「当然。友達との約束は守る」
「がはは。友達か! そうだな、友だからな!」
「ん」
そう言って笑っていたガルスだったが、すぐにその顔が真面目になる。いや、少しだけ弱気かな? その目の中に、ちょっとだけ情けなさを感じる気がするのだ。どうしたんだ?
「それで、だな。1つ質問をしてもいいか?」
「ん?」
「その装備なんだが、元は俺の黒猫シリーズか?」
やっぱそこは気になるよな。俺はこの装備を手に入れた経緯を、ガルスに説明した。強敵との連戦で、修復機能が低下してきていたこと。激戦により、ボロボロになってしまったこと。それを、偶然知り合った鍛冶師が改修してくれたこと。
「偶然知り合った鍛冶師……。それはもしや神級鍛冶師なのか?」
やはり気付いたか。世界最高峰の鍛冶師であるガルスの作品をさらに良い物に仕上げるわけだし、そんなことができる人間は限られるからな。ガルスがやや弱気なのは、自分とアリステアの仕事を比べていたからだろう。
『あー……』
どうしよう。いや、ガルスの渾身の作品を、勝手に改良してしまったのだ。フランには必要なことだったとはいえ、ガルスには仁義を通して謝るべきだろう。
『そうだ。神級鍛冶師のアリステアが、ガルスの作ってくれた鎧を改造した。済まない。許可もなく……』
「いや、謝ることは無いぞ! むしろ儂は感動している!」
『うぉ。ゆ、許してくれるのか?』
「許すも何も、これほどの仕事を目の当たりにして怒る者など鍛冶師失格よ!」
ガルスは本気で感動しているようだった。フランの黒天虎装備を見つめながら、目をキラキラと輝かせている。
「ネームドアイテムを改造し、これほどの物に仕上げるなど……素晴らしい」
『神級鍛冶師だしな~』
「くっ。今回の事件がなければ、弟子入りを願い出るところを……」
『いやいや、弟子入り?』
クランゼル王国名誉鍛冶師のガルスが? だが、考えてみれば相手は伝説の鍛冶師だ。弟子入りしてもおかしくはないのか。
今はベリオス王国にいるはずだが、アリステアの情報をどこまで教えていいのかが分からない。
『うーん。次に会ったとき、伝えておくよ』
「本当か!」
『あ、ああ。ただ、承諾するかどうかは分からないぞ?』
「分かっておる。ただ知己を得られる可能性があるだけでも十分だ!」
まあ、とりあえずガルスのことを伝えるだけはしてあげよう。その後はアリステア次第だな。
『あと、アリステアは権力者に利用されたくないみたいだから……』
「誰にも言わん! 安心しろ!」
ガルスなら言いふらしたりはしないだろう。そこは安心できる。
「もっとよく見せてはもらえないか?」
「ん」
「ふむふむ……。この外見は嬢ちゃんの趣味か?」
『いや、アリステアがこんな感じに仕上げた』
「なるほど……。その方は女性なのか?」
『ああ』
「そうか。外見の完成度はさすがだな。女性ならではなのかもしれん」
でも、最初にガルスから手に入れた防具は、かなりガーリーな感じだったが? そう思ったんだが、あの装備は依頼主の希望通りに作っただけであるそうだ。
ガルスの趣味が反映されているのは、ボーイッシュな黒猫シリーズの方だったらしい。
「それに、外見の変化など能力の変化に比べれば可愛いものだ。これほどの防具、そうそうお目にかかれんぞ」
『それほどか?』
「うむ。もとの素材を考えれば、あり得んレベルだ。ランクB以上の冒険者でも、これと同レベルの装備は中々持っておらんぞ」
さすが神級鍛冶師が改造しただけあるな。高性能だと思っていたが、俺の想像以上の価値があるようだった。
「それに、師匠もかなり凄みを増したな」
『え? そうか?』
「うむ。かなり強化されたのではないか? 儂の神眼でも、確認できる情報がかなり少ない。アレッサで出会った頃よりも格が上がっている証拠だ」
『外見は変わってないはずなんだけどな』
「内側から発せられる存在感が全く違う。儂くらいになれば、ハッキリと分かる」
ガルス爺さんは、今度は俺を観察しながら唸っている。褒められるのは嬉しいが、なんか緊張するな。凄腕の鑑定士に値踏みされているような感覚があるのだ。
「師匠もアリステア殿が?」
『それもあるけど、色々あってな』
「そうか……。詳しくは聞くまい。だが、フランだけではなく、師匠も大きく成長しているのだな」
『なんか、照れるな』
フラン以外の人間に成長を褒められたのは初めてかもしれない。我ながらチョロイと思うが、嬉しいものは仕方がないのだ。
『あ、ありがとう』
「それは儂のセリフだ。最高クラスの名剣に、儂の作品を元に作り上げられた素晴らしい防具たち。眼福だった」
その後俺たちは、ガルスと様々な話をして過ごしたのだった。
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