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45 ランクAの帰還

 俺達はギルドに向かっていた。


 先日は色々あったが、その後はまた変わらずの日々が続いている。正直、刺激が足りていない。良い依頼があればいいんだけどな。


『ランクC依頼は拘束時間が長いのばかりなんだよな』

(また、薬草採集?)

『それも飽きたよな~』


 ガルス爺さんから防具を受け取るまで、まだ1週間ある。その間、どうしようか。


 フランがギルドの扉を開けると、ギルド内が妙に騒がしい。


「ネル。何があった?」

「フランちゃん知らないのね。そう言えば、あなたはまだ会ったことがなかったかしら」

「?」

「実はね、魔狼の平原の調査に行っていた、ランクA、Bの冒険者が帰ってきたのよ」

「ランクAがいる?」

「ええ。うちのギルドはランクAの冒険者が1人、Bは10人いるの。1ヶ月くらい前から、魔狼の平原の調査に出向いていたんだけどね。経験を積ませるために、ランクC~Fの冒険者も15人以上同行して。そのせいで、ゴブリンの討伐も大ごとになっちゃったけど」

 

 なるほど。A、Bランクの冒険者がいれば、もっと簡単に片がついただろうな。それこそ、少数精鋭であっさり攻略できていた可能性が高い。


 ただ、その場合は俺たちが悪魔を倒せなかっただろう。俺たち的にはタイミングが良かった。


『ドナドが1番強いのかと思ってたぜ』

「ん」

「どうしたの?」

「ドナドが1番強くなかった」

「ドナドロンドさんは教えるのが上手だから教官役なのよ。それに、現役を続けていれば、B級は確実だったはずなのよ? でも、後進の指導に努めたいって言って、教官になったんだって。もう15年くらい教官やってるから、アレッサのB、C級の半分以上が教え子なのよ? だから、大抵の冒険者はドナドロンドさんの言う事きくし」


 だからこそゴブリン討伐戦ではドナドが前線にいたわけか。


「ランクAの人も?」

「ああ、あれは違うわ。というか、誰のいう事も聞かないし。正直、個性が強すぎて扱いにくいのよね」

「あらあら。ネル。あたしの陰口?」

「きゃっ! アマンダ! 気配を消して近づかないでよ。そういうことをするから、扱いにくいって言われるのよ!」

「うふふ。扱いにくくて結構よ。使い走りの犬じゃないんだから」


 言葉は剣呑だが、二人の顔には笑みが浮かんでいる。軽口を言い合える仲、という事なのだろう。


 結構な美人だな。黒い髪を肩口で切りそろえた、和風な感じさえ漂う、おっとり系の柔らか美人さんだ。声も、柔和な感じのする耳当たりの良い声をしている。


 ただ、会話を聞いた感じ、性格は結構強かそうだけどな。


「紹介するわフランちゃん。ランクA冒険者のアマンダ。うちのエースよ。まあ、悪い人間じゃないから。それに子供好きだし。何せ称号にね~……」

「ちょ、やめてよネル! 恥ずかしいでしょ!」

「何でよ。あなたにピッタリの称号じゃない」

「いいの! おほほほ。御見苦しいとこ見せちゃってごめんなさい? よろしくね、お嬢さん。アマンダよ」

「ん。フラン」

「凄いわね。その年で、その実力……。将来有望だわ~」

「分かるの? アマンダ?」

「当たり前でしょ」


 さすがランクA冒険者。ちょっと見ただけでこっちの実力を看破するとは。鑑定系のスキルはないんだけどな。単純に、経験のなせるわざなのか?


名称:アマンダ  年齢:58歳

種族:ハーフエルフ

職業:嵐闘士

状態:平常

ステータス レベル:70

HP:646 MP:825 腕力:327 体力:293 敏捷:451 知力:390 魔力:423 器用:356

スキル

威圧:Lv7、詠唱短縮:Lv6、隠密:Lv8、解体:Lv8、火炎耐性:Lv6、格闘技:Lv4、格闘術:Lv7、風魔術:LvMax、危機察知:Lv9、気配察知:Lv8、剛力:Lv5、採掘:Lv7、採取:Lv8、瞬発:LvMax、瞬歩:Lv7、眠気耐性:Lv6、属性剣:Lv7、投擲:Lv8、毒耐性:Lv6、氷雪耐性:Lv5、鞭技:LvMax、鞭聖技:Lv2、鞭術:LvMax、鞭聖術:Lv4、暴風魔術:Lv4、麻痺耐性:Lv8、魔力感知:Lv5、雷鳴耐性:Lv7、オークキラー、気力操作、ジャイアントスレイヤー、身体強化、デーモンスレイヤー、ドラゴンキラー、敏捷大上昇、暴風強化、魔力操作

ユニークスキル

精霊の寵愛

称号

オークキラー、子供の守護者、ジャイアントスレイヤー、ダンジョン攻略者、デーモンスレイヤー、ドラゴンキラー、疾風の如き者、風術師、魔獣の殲滅者、ランクA冒険者

装備

天龍髭の魔鞭、老多頭蛇の全身革鎧、魔毒蜥蜴の外套、魔眼王牛の靴、身代りの天輪、雷霆鳥の羽飾り、防壁の指輪、魔痺梟の羽手裏剣×24


 称号に子供の守護者というのがある、ネルが言いたかったのはこれだろう。子供好きに与えられる称号か?


 しかし強いな。ギルマスやドナドを見た時にも驚いたが、アマンダはそれ以上だ。正直、恐ろしくさえある。そりゃ、この人なら悪魔も狩れるだろう。


 逆らう気さえ起きない。どんな奇襲を仕掛けても、勝つビジョンが思い浮かばなかった。


『やばいぞ。絶対に逆らうなよ』

(ん。大丈夫)

「ギルド始まって以来の、最速昇格者っていう話、他の冒険者からも散々聞かされたわ。ちっちゃくて凄くかわいい、魔剣を携えた獣人の美少女だって!」


 なに? フランが褒められるのは嬉しいが、ちょっと外見に言及され過ぎじゃないか? どこのどいつだ! フランを邪な目で見てやがるのは!


「でも、ギルマスは油断するなって。外見に騙されたら、痛い目見るぞって」


 ギルマスめ! Aランク冒険者に何吹き込んでやがる。まあ、ギルマスが「フランちゃんは可愛いですよ~」とか言ってたら、おぞましいだけだけどな。


「あ、そうだ。フランちゃん。ギルマスが呼んでるの」

「ギルマスが? 部屋に行けばいい?」

「お願いできる?」

「ん」

「あら、残念。お食事でもと思ったのに。ギルマスが相手じゃ、諦めるわ」

「ばいばい」

「きゃー。可愛いわ。こんな妹が欲しい!」

「アマンダ、あなた何歳だと思ってるの? 娘の間違いでしょ」

「ネ~ル~? あなた、ちょーっと若いからって、言って良いことと悪いことがあるのよ? それにハーフエルフは年取るのが遅いの!」

「はいはい。そうね。アマンダはまだ若いわね」


 本当に仲が良いんだな。ネルとアマンダのじゃれ合いを背に、フランはギルマスの執務室に向かった。



 ガンガンガン


「ちょ! 誰です! その乱暴なノックは!」


 ガチャ


「来た」

「ああ、フランさんでしたか。と言うかですね。返事の前に入ってきたら、ノックの意味がないでしょう」

「盲点」

「はぁ。次はお気を付けください」


 すまんねギルマス。俺がしっかり教育するので。


「何の用?」

「実は折り入って受けていただきたい依頼がありまして」


 なんかギルマスからお願いとか、嫌な予感しかしないんだけど。


「実はですね。あなたの実力を疑問視する声が内外から出ているのです。無論、私はそんなことないと知っているのですが、あなたのことを知らない者たちからすると、どうにも信用しきれないようでして。その声を払拭するために、ある依頼を受けてはくれませんか?」


 いやいや、勝手に昇格させたのはそっちだし。いまさらそれはないだろ。


「勝手に昇格させた」

「まあ、それを言われると痛いのですが……。思ったよりもやっかみ等が多いようで。しかも、あなたを擁護する声もあるので、話がこじれているのです。ランクD、Cの冒険者の多くが、あなたを認めているようですね。彼らの多くが実際にあなたの実力を肌で感じていますし。マスコット的な人気が出始めているようですよ」


 中級以上の冒険者は、やっぱり見る目があるな。しかし、マスコットか……。ありだな。


「しかし下級の冒険者の中には、認め難い者も多いようでして。長年E級から昇格できないものもいますから、簡単にDに上がったように見えるあなたは、余計に妬まれるのかもしれません」

「言わせておけばいい」

「私だってできればそうしたいのですが、放置もできないのですよ。中には、あなたが金銭を使ってランクを買っただの、実は私が幼女趣味であなたの色香に迷っただのと、根も葉もない噂があるのです」


 何やらブツブツと文句を言っているな。


「私が幼女趣味なわけがないでしょう! まったく、勘弁してください。そもそも私はもっとこう――」


 こいつ、自分がロリコンだって思われるのが嫌で、この話を持って来たんじゃないだろうな?


「受けるのは強制じゃない?」

「まあまあ。そう言わずに。いくつかボーナスを付けますので。ね? 話だけでも聞いてくださいよ」


 必死だな。本当に、ロリコン疑惑を否定したいだけな気がしてきた。


「依頼料の上乗せは当然として、ウルムットの町のダンジョンへの入場許可を発行しましょう」

「……何で知ってる?」

「そりゃあ、資料室でその手の資料を注文されれば、嫌でもわかります。確かに、ダンジョンへの入場に際し、あなたの冒険者ランクは足りていますが、それだけでは許可が下りません。帰還見込みがないと判断された者は、審査で弾かれる可能性があります」


 そうなのか……。可愛い獣人少女が1人。それは審査が通らないかも。通るにしても、時間がかかるかもしれない。


「私の許可証があれば、審査不要。すぐにダンジョンに潜れますよ」


 結果的に、時間の節約になるか。このインテリエルフめ、こっちのことを良く分かっているな。


「……とりあえず聞くだけなら」

「ありがとうございます。では、依頼はこちらです」


 それは、アレッサ付近にあるダンジョンの調査依頼だった。


「アレッサにダンジョンがある? 初耳」

「すでに攻略済みのダンジョンですがね。普段は公開されておらず、数ヶ月に一度、ギルドの依頼として調査が行われるのです」

「攻略済みなのに調査?」

「ダンジョン・コアは残っているのですよ。コアさえあれば、僅かな操作が可能です。まあ、魔獣のリポップ設定や、アイテム生成を僅かにいじる程度ですが。それもコアが蓄える魔力の範囲内で、ですがね。アレッサのダンジョンは、ランクF以下の魔獣を数種類と、僅かなアイテムを生み出せるにとどまっています」


 それじゃあ、旨みがないな。高レベルポーションとか、珍しい素材の剥げる魔獣を簡単に生み出せるなら、凄い利益が生まれるだろうに。


「コアに、もっと沢山魔力を溜めれば?」

「それができたら苦労はしません。人間の魔術師が数十人がかりで魔力を込めても、大した量にはならないのですよ」

「じゃあ、どうやって魔力を蓄える?」

「コアは、地脈や大気中、ダンジョン内の魔獣や冒険者から魔力を吸収するらしいのです。それも、そう多くはないですが。ダンジョンマスターには、他にも魔力を充填する手段があるのでしょうね。でなければ、迷宮の維持などできませんから」


 悪魔とか召喚するのに、膨大な魔力が必要だろうしな。


「なので、ダンジョンに魔獣を住まわせるのは、重要なことなのですよ。魔力をある程度蓄積させないと、コアが仕事をしてくれませんから。アレッサのダンジョンは、魔力を使って定期的にアイテムを生み出すように設定してあります。依頼は、その回収も含まれますね」

「魔獣は倒してよい?」

「構いません。すぐに増えますし。むしろ、増えすぎないように間引いてもらうことも、仕事の内ですから。長期間放置していると進化を起こしたりして、危険なのです」


 依頼料は結構良いな。ただ、問題が1つ。内容の欄に「複数パーティにて」とある。途中で襲ってくるような馬鹿と組ませられるのはゴメンなんだが。


「ああ、その他のパーティに関しては、すでに用意してあります」

「どんな人たち?」

「この依頼はですね、元々はランクDへの昇格試験を兼ねたものなのですよ。なので、現在、ランクEの冒険者が2パーティで9人。それと、試験官も兼ねた3人組のランクCパーティが1つですね。身元は私が保証しましょう。人間性については……ご自分でご確認ください」


 投げやがった。どうする? 受けなくてもいい依頼だが。


「あと、依頼を受ける際に、誓約を受けてもらいます」

「誓約?」

「誓約魔術は、誓約で対象を縛ることができる魔術です」

「契約みたいなもの?」

「はい。ただ、契約が1人1つしか結べないのに対して、誓約は複数結ぶことが可能です。その代わり、あまり強力な誓約は結べませんが」

「なるほど」

「今回の誓約の内容は、依頼に関する事柄の口外禁止ですね。違反した場合、ギルドカードに誓約違反と明記されます。最悪、ランクダウンや除名の措置もあります」


 誓約魔術か。なんか、気持ち悪いな。魔術で縛られるって、どうしても奴隷を連想してしまう。


『フラン。どうする?』

「んー?」


 フランが悩む素振りを見せると、ギルマスが少し慌てた様子で小さいアイテム袋をテーブルに乗せた。


「まあまあ。さらに私から個人的にボーナスを出しますので」


 ほう。ギルマスが個人的なボーナス? これは期待が出来そうだけど。


「こちらをご覧ください」


 ギルマスがアイテム袋を逆さにすると、20個程の魔石が転がり出る。


「これは?」

「わたしのヘソクリみたいなものですね。まだ現役だったときに手に入れた魔石です。どれも脅威度D以上の魔獣の魔石ばかりですよ」


 なるほど。魔石は売ってもいいし、防具などを作る時も使えるしな。現金よりも嬉しい。


 ただ、なにか探るような感じのギルマスの目……。俺たちが魔石を欲しがっていることに気づいてないか? いや、フランは魔石を売らないし、何か感付かれてる可能性はあるか?


「なぜ魔石?」

「さて? お気に召しませんか?」


 下手に何か言っても、こっちが不利になるだけな気がする。どうせ、魔石を欲しがっているとばれても、その目的までは分からんだろうし。ここは流しておこう。


「悪くはない」

「でしょう?」

(師匠、どう?)

『残念ながら、スキルは分からんな。辛うじて、どんな魔獣の魔石なのか分かるくらいだ。魔力量もよく分からないし』


 それでも、ギルマスが出してきた位だ。良い魔石なのは確かだろう。脅威度Dはドッペル・スネイクやブラスト・トータス並だし。でも、無理に誓約魔術を受けさせるのはな……。


「その中から2つ、お好きな魔石を進呈しましょう。どうですか?」

「うーん……。10個なら受ける」

「なっ。それはさすがに! 3つで!」

「9個」

「ちょっと、これは4、8、5、7って続いて、結局6個もあげるパターンじゃないですか! ダメですよ。4つ。これ以上は譲れません」

「じゃあ、やめる」

「ぐ……」

「5つ。前払いで」

「むむ……」

「さようなら」

「わ、わかりました……!」


 おお、フランやるな! あのギルマスをやりこめたぞ!


「その代わり、依頼の件、よろしくお願いします」

「ん」

「話は聞いたわ!」


 いきなり扉が開いて、アマンダが部屋に突入してきた。オーギュストと同じ登場パターンだ。この部屋、セキュリティ大丈夫か? 仮にもギルドマスターの部屋だろう。


 しかし、さすがAランク冒険者。全然気配を感じ取れなかった。


「ちょっと貸しなさい!」


 アマンダは、ギルマス前に置いてあった書類をサッと拾い、読み始める。傍若無人だな! でも、ギルマスも強くは言えないようだ。


「やっぱり! この依頼に同行する冒険者、全員男じゃないの!」


 そりゃ仕方ない。いなくはないと言っても、やはり女性冒険者の姿は少ないのだ。20対1くらいだろうか。その計算で行ったら、12人の中に女性がいなくても、不思議はないのだ。


「汗臭い男の中に、か弱いフランちゃんが1人なんて、そんなの私が許しませんからね。この依頼、私が同行するわ」

「いや、しかしですね。依頼の適正ランクという物がありますので」

「同行するわ!」

「……分かりました」


 気迫でギルマスを言い負かした。いや、何を言っても無駄だと、ギルマスは悟っているのかもな。


「フランさんも、構いませんか?」

「ん。問題ない」


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[気になる点] 鑑定スキルで表される数値を簡単に信じ過ぎなのでは?相手に表示される鑑定結果を改編するスキルが有ってもおかしくないのにね。鑑定阻害スキル持ってる人も少なくて簡単に鑑定されてる。Aランク冒…
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